87 感動!! これが姉妹愛です 二人だけを見つめながら……
「染めるって何!?」
彼方先輩の叫びは最もでした。繰り返しますが、先輩は、同級生の心の隙間を無害な方法で埋めただけなのです。このように断罪されるような行為は一切していません。
彼方先輩は、動揺してはいますが、怒鳴り散らしたりせずに行動していました。
先輩にとって、余りにも理不尽で理解不能な状況だというのに、とても理性的に対応しています。私の現時点での尊敬する人二位は彼方先輩で間違いありません。よほどの事が無い限り、この地位は揺るがないでしょう。因みに、一位は光お姉様です。
と、私が尊敬している間も、どのような理由があって、自身の秘密が衆目に晒されているのか、先輩は全く理解出来ていない事でしょう。だって、何一つ説明を受けていないのですから。 事情を話そうにも、その隙がありません。伝えようにも、ふーりんにドン引きしているので、私も声を出すのが躊躇われていました。
「私達の部屋には、ぬいぐるみなんて物は一つも無かったんです。それが、久々に戻った時にはありました。お姉様はぬいぐるみなんて抱きません」
「いやいや。フレデリカさん、現実を見て。そこで今も抱いてるんだけど。それに、あげたのはエミリーが気に入った子なんだけど」
「何時も凛としているお姉様は、ぬいぐるみなんて気に入りません」
「なら、そこに居るエミリーは?」
先輩は、理詰めでふーりんと戦っていました。そして、理詰めでふーりんの見解の穴を突きました。
「う……。あ、あそこに居るのは偽者です」
暴走し過ぎて、ふーりんはとんでもない事を言い出しました。
これには流石にエミリー先輩も反論しました。
「私、本物ですよ!? ぬいぐるみだって可愛がる心を持ってますよ。可愛いものを愛でる心、持ってますよ」
「ずっと一緒に過ごしてきて、そのような場面に出会った事がありません。私は、そんなお姉様を見た事はありません」
「学院でぬいぐるみを手に入れる機会なんて無かったでしょう。それに、私達の部屋は二人部屋。私が私物を増やしては、フレデリカの場所を狭めてしまいます。ですから、私物は増やさないようにしていたんですよ」
エミリー先輩の説明は納得のいくものでした。
共同生活をする上で、個室の無い部屋で起こりうる問題を考慮し、自分を律していたのです。
ふーりん達の部屋を訪ねた事はありませんが、整理整頓がきちんとされたモデルルームのような部屋になっているのでしょう。
「それでは、私はお姉様に無理をさせていたというのですか?」
「そうでは無いわ。共同生活でお互いにストレス無く過ごすため、勝手にしていただけよ」
「そう仰ってくださいますけど、お姉様がストレスを抱えていては意味が無いではありませんか。私は妹なんですよ。妹にはもっと、駄目な所を見せて良いんですよ。私は、エミリーお姉様がどんなに駄目でも受け入れます。私は、どんなお姉様でも受け入れますからっ」
感情が爆発し、エミリー先輩に飛び込むふーりん。
「ぐふっ。ありがとう、フレデリカ。妹にここまで言わせるだなんて、駄目な姉ね」
人一人分の衝撃に耐えつつ、エミリー先輩はふーりんを抱きしめました。
「気付かない駄目な妹でごめんなさい。これからは、二人で部屋を作っていきましょう。本当の姉妹のように」
「そうね。そうしましょう」
感極まり、エミリー先輩は泣きながら、再びふーりんを抱きしめました。
(とても良い話のように聞こえますが、ふーりんは先ほど、エミリー先輩を偽者認定していたんですよね……。野暮なので、言葉にはしませんが……)
美しい姉妹愛を見たという事にして、私は近く待ち受けているであろう現実から目を逸らしました。




