84 嵐 狂気が芽吹く時
自室に戻った私は、和美に二人の仲が戻った事、ふーりんが元の部屋へ戻ると決めた事を伝えました。
「そっかそっか。いやー、仲直り出来て良かったね」
和美も二人の事を心配していたので、本当に喜んでいました。
「今日からは、また二人部屋ですね。そう思うと何だか、部屋が広く感じますね」
「陽子の場合は、ベッドも広くなるしね。夜泣きするかもよ?」
「違和感はあるでしょうけど、泣くほど子どもじゃないですよ」
私達はお互いに笑い合い、仲直りした友達を祝っていました。
そんなほっこり優しい時間を壊すように、突然ドアが大きな音を立てました。
「何事です!?」
「どうしたの!?」
驚いてドアを見ると、先程まで幸せそうだったふーりんが険しい顔をしてそこに居ました。
「え? ふーりん、どうしたのですか?」
聞くのも恐ろしいですが、ただ事ではない様子です。聞かなければなりません。
「お姉様が……」
「お姉様? エミリー先輩が?」
「私が居ない間に染められていたんです!!」
泣き崩れるふーりん。私達は訳が分からないまま、対応を考えました。
「陽子、とりあえずふーりんを部屋に入れよう。で、ドアを閉めよう」
周囲の生徒達に騒がれるのは問題だと、和美が言いました。
私もそれに同意し、急いでふーりんを部屋へ入れました。
「飲み物、心が落ち着く物が良いですか?」
ふーりんは首を横に振りました。
「それよりも、話を聞いてください」
お嬢様に似つかわしくない鼻啜りと共に、何があったのかを話し始めました。
「仲直りをした後、私達は部屋に戻りました」
きっと、かなり楽しみしていたに違いありません。突き抜けた答えを導き出した事からも、その心中は容易に想像出来ました。
「暮らし慣れた部屋も、久々だと新鮮でした。だというのに、お姉様のベッドを見ると……。見ると……、大きな犬のぬいぐるみがあったんです」
「え?」
私には、どこに問題があるのか理解出来ません。ぬいぐるみの一つや二つ、持っていたとして、何がいけないのでしょう。
先輩はきっと、ぬいぐるみを抱いて眠る人なのでしょう。普段とのギャップを知ったら、心を打ちぬかれる人が続出するんだろうなと、私は思いました。
「お姉様は、ぬいぐるみなんて持っていなかったんです。何時もベッドで、何も抱きしめずに眠っていたんです」
自分が居た時とは違う行動だったようです。だから取り乱し、私達の部屋に駆け込んできたようです。ですが、新しい妹を連れ込んでいたという訳では無いので、そこまで騒ぎ立てる必要は無いと思うのですが……。
「寂し過ぎて、手が寂しくなったのでは?」
毛布に包まる。何かに抱きつく。そうする事で不安は緩和されるものなので、そういった回避行動なのではと思いました。
「お姉様はそんな事しませんっ。週に数回、一緒に眠る時には優しく抱きしめてくれるんです。その心地は、どれほど上級な寝具であろうとも劣る安らぎなんですよ」
その週に数回の習慣が無くなり、手が寂しくなったのでは? と言おうとしましたが、また同じように否定される気がしたので、浮かんだ言葉を押し込めました。
「きっと、どこかの泥棒猫がお姉様に取り入ろうとしたに違いありません」
「泥棒猫ですか……。和美、何か思い当たる人物は居ませんか?」
彼方先輩なら知っていないかと、視線を和美に向けました。
視線の先には、天を仰ぐ和美の姿がありました。




