82 百面相と辛口
「ふーりん、さっきと言っている事が違いますよ!?」
「私の名前は、家族とお姉様だけが呼べる名前。それって素晴らしい事ではないですか?」
この発言を聞いた私は、そっとふーりんのおでこに手を当てました。
「興奮しているからか、少し熱いですね。ふーりん、今日はゆっくり寝てください。明日、もう一度考えてから結論を出した方が良いと思いますよ」
急いて出すような答えでは無いと、私は彼女に間を置く事を進めました。
「何を言っているのですか。お姉様と私との間で、より強い絆が出来ようとしているのですよ。陽子さんで言えば、光先輩だけが陽子さんの名前を呼ぶという独占状態になるんですよ」
私で例えを出されても、元の世界が違うためか、しっくりきません。
何故かと理由を考えたら、小さい頃から苗字でも名前でも意味があって呼ばれていた訳ではありません。用事があったから、相手が良いようにどちらかで私を呼んでいたに過ぎません。
これが私に嵌らなかった理由でしょう。
お嬢様の世界の事には明るくありませんが、ふーりんの言葉から考えていくと、名を呼ぶ事、呼び捨てにされる事は、自分の内側に入ってくるような行為のようです。
より深い関係になるための最後の試練とも呼べそうです。
よほどお嬢様の世界はドロドロしているのか、私のような世界の人間よりも気の置けない関係を築くのは難しいようです。
(これはいけない気がします。このままにしておくと、ふーりんは悪い人に騙される子になってしまう気がします)
ふーりんの将来を危惧し、私もフレデリカと呼んで耐性を付けてもらおうと思いました。
「フレデリカ、私も名前で呼ばせてもらえませんか?」
「よ、陽子さん……。あ、いえ、陽子が私の名前を……」
元が敬称無しで呼ぶ事から始まった事を思い出し、彼女は慌てて私の名前を言い直しました。
同学年の同じ教室の友達が、関係を深めようと一歩踏み込んだという状況。これに対し、ふーりんはどう動くでしょう?
彼女からしてみると、とても魅力的な提案だと思うのですが。
現に、彼女は今、百面相をして悩んでいました。
「フレデリカは、余裕が無くなると頭が回らなくなるのよねぇ」
それがふーりんの欠点だとばかりに、エミリー先輩が呟きました。
「それ、人という生き物のほとんどがそうなのでは?」
彼女だけが特殊では無い話なので、私は不思議に思いました。
「初等部から居る生徒達は、どのような時でも優雅に、冷静に、と教えられています。なので、初等部からの生徒とそうでは無い生徒が一目で分かるのです」
「ああ、そういう事ですか。では、お上品が板についている人は皆、生粋のお嬢様という事ですね」
「あなた、彼方を見ていてそう思った事があるのかしら?」
「初対面の時は、学院に居るので、お嬢様なんだろうなと思いましたよ」
エミリー先輩は中々に辛口でした。




