81 ふーりんと呼称 姉の提案
「それにしても良いものですね。このような体育会系のノリ? というのも。私も二人のようなやり取りをしてみたいものです」
「憧れている所悪いのですが、エミリー先輩と口論をしたりは無いのですか?」
「恐れ多くてその様な事、出来ません」
確かに学院で人気なお方です。例え姉妹の関係であったとしても、憧れという壁で私のように出来なくても仕方がありません。
「なら、和美とはどうです? 二人の時くらい、敬称を付けずに呼び合うのでは?」
共同生活を送る中、私は和美さんから和美へと呼び方が変わるほどに、仲が深まっていました。和美がお嬢様らしくないので、すっかり気兼ねというものが無くなったのです。
「どのような時でも礼節を弁えるのが淑女の嗜みと躾けられてきたので」
その言葉通り、ふーりんはどのような時でも、和美を名前で呼ぶ時はさん付けで呼んでいた気がします。
本人の気持ちの問題でもあるため、私では力になれません。ここは、彼女の姉に動いてもらうとしましょう。
「エミリー先輩。先輩は、彼方先輩を名前だけで呼びますよね? 昔からそうだったのですか?」
「いいえ。昔はフレデリカと同じように誰にでも敬称を付けていましたね」
となれば、ふーりんと同じだったという事になります。
「では、どのようにして変えたのですか?」
「そうですねぇ……。私が友達を名前だけで呼ぶようになったのは、去年からでしたね」
「結構最近ですね。一体何があったのですか?」
「そうですねぇ……」
話せば長くなるのか、先輩は長考していました。
「ぶつかった結果、深く結びつく事もあると知った。そういう事です」
意味深ですし、少年漫画でありそうな展開のように思いました。
「では、ぶつかってみたら良いのではないですか? 誰から始めてみます?」
「いいですね。経験上、ぶつかりやすい人の方が良いですよ」
ふーりんが一皮剥けるきっかけになるならと、エミリー先輩はノリノリでした。
「それで言うなら、和美ですね」
私達の関係性で考えるなら、該当者は一人だけです。
「まあ、確かにそうなりますね。ああ、でも、いきなりぶつかっても、和美さんが困りますよね。お姉様の言うのは喧嘩をするという事でしょうし」
「そうですね。ある時を境に敵対していましたね」
「それで言うなら、二人のやりとりはじゃれてる感じですね。そうなると次は私ですか。良いですよ。何なら、喧嘩などせずに呼び捨てにしてみてください。それなら始めやすいですよね?」
「そ、そうですね。私、やってみます。よ、よぉーし」
敬称抜きで呼ぶために気合を入れるふーりん。少し可愛く、少し面白かったです。
態々断らなければ駄目な辺り、育ちの良さを感じます。
「で、では始めますよ」
「良いですよ。どーんと来てください」
「よ、ようこう!!」
気合を入れ過ぎたためか、大声で叫ばれた名前は、知らない人でした。
「ふーりん、落ち着きましょう。慣れていかないと喉を痛めちゃいますよ」
「す、すみません。よーし、もう一度です。ようこ。陽子。陽子っ!!」
「そう、私が陽子です。ふーりん」
ちゃんと呼べた事を喜び、分かち合ったつもりでしたが、何故かふーりんの表情が曇りました。
「どうしたんですか?」
「名前を呼んでください。私の名前を」
「あだ名は駄目ですか?」
「陽子さんならと受け入れましたが、そもそもあだ名を認めていません。何時の間にか二人に呼ばれる事が当たり前になっていましたが……」
また呼び方戻ってしまいました。
それはさておき、記憶を辿ってみると、確かに否定していた気がします。ですが、私が最初に聞いた彼女の固有名詞がふーりんなので、今の呼び方が既に口に馴染んでしまっています。
これを今から変えるのも難しいです。
「フレデリカだと長いので、やはりふーりんではどうです? 可愛いですし、来年頃には後輩からも呼びやすいと親しまれているかもしれませんよ」
「先輩としての威厳が無くなりそうなのでちょっと……。それに、未来の妹にふーりんお姉様と呼ばれる事を想像すると眩暈がしてきます」
私は親しみやすくて良いと思うのですが、ふーりんは嫌なのようです。
この悩みを聞き、エミリー先輩が動きました。
「ふぅ。では、こうしましょう。フレデリカをフレデリカと呼べるのは私だけと」
これは中々に驚きの提案でした。自信過剰とも思える強きな私様発言でした。
「いやいや。そんなので頑ななふーりんの心が開く訳が……」
「私、ふーりんで良いですっ」
食い気味でした。




