78 弱り人 普段は見せません、見れません
「陽子さん、ぼうっとして、本当に大丈夫?」
エミリー先輩に声をかけられ、ハッとしました。
「酷い筋肉痛で熱でも出ているのかしら?」
心配し、顔を近づけてくるエミリー先輩。私達は敵対しているというのに、弱った状態の相手に優しくしてくるのは卑怯というものです。不良が捨てられた動物に優しくするの見て胸がときめくのと同じです。酷い不意打ちです。
「熱じゃないです」
「ですが、惚けていましたよ?」
「三人が友達のように見えただけです。目の錯覚です」
自分で言って、繋がりが分からない言葉で返してしまったなと思いました。
言った本人がそうなのですから、彼方先輩とエミリー先輩は、互いに顔を見合わせて困っていました。
その後、彼方先輩は何かろくでも無い事を閃いたような、汚い笑みを浮かべました。
「そう言えばさ、ここの部屋に来てから、一度も光に嫌味を言ってないものね。驚くよねー」
意図が見え見えで、弱った私でさえもわざと言っている事が分かりました。
「それはそうでしょう。場を考えずに嫌味を言うような無礼者では無いので」
「そっか。そういう事らしいよ。陽子さん」
「私に振られても……」
どう答えて良いものか困りました。
ですが、振り返ってみると、交流会以外で、先輩が声を荒らげる姿を見た事がありません。
となれば、あの時は場を弁えられないほどの状況だったという事になります。
学院内を歩いていると、エミリー先輩の話は聞きたくなくても良く聞こえてきました。
人望熱く、人気があり、私としては全力で否定したい話ばかりでしたが。
光お姉様との確執が無ければ、私も出会った当初の良い印象を持ち続けていたでしょう。
それこそ、学院内の評価通り、憧れてしまってもおかしくない先輩です。
今の私は、光お姉様という絶対不変不動の存在が居るため、靡きはしませんけど。
「そうですね。ここで言い争われては、幾ら先輩と言えども迷惑です。一言言わずに済んで良かったです」
「陽子さんはこんな時でも変わらないね」
何故かエミリー先輩の方を見て言う彼方先輩。
「私達は決して仲良くはなれない関係です。けれど、私の体を心配してお見舞いの品を持ってきて頂いた事については、素直に感謝します。重ねて、心配をさせてしまい、すみませんでした」
頭を下げ、今回の事に対しての私の思いを伝えました。
「弱った時の人とは、どうしてこうも意表を突く事をするのかしらね」
手で顔を覆いながらエミリー先輩は言いました。
「彼方、後はお願いします。陽子さん、回復したらフレデリカを通してでも良いので連絡をするように。様子を見て、練習を再会しますから」
「分かりました。ふーりんが帰るまでは協力をします」
「そうですね。それと光……さん」
エミリー先輩に声をかけられ、顔を動かすお姉様。
「……ちゃんと後輩の面倒を見てあげなさいね」
「ありがとう、エミリー」
「なっ。帰ります。皆さん、さようならっ」
慌てて部屋を出て行くエミリー先輩でした。




