77 お見舞い 先輩達の不思議な光景
判別出来た瞬間、私は驚き、飛び起きようとしました。
ですが、容赦無く筋肉痛が私を襲いました。まだベッドから起き上がれるほど、回復してはいなかったようです。
「ちょっと、大丈夫!?」
駆け寄る足音。先ほど私が会話していた人と同じ声でした。
「せ、せんぱ……」
今なら分かります。私が会話していたのは、彼方先輩だったと。
「どうして二人がここに? 今は何時ですか?」
「今はお昼休みで、お見舞いに来たんだよ。まさかこれほど酷くなるとは思ってなかったよ」
大分ぐっすり眠っていたようです。それにしても、二人がこの部屋に居るという事実が不思議です。
「お姉様も、よく来てくださいました。何のおもてなしも出来ずにすみません」
謝ると、光お姉様は私の手にそっと触れてくれました。
「無理はしないでください」
優しい表情と言葉を向けられ、私の目から涙が溢れ出ました。
「お姉さまぁぁぁ」
体が痛いので、泣くのにも痛みが伴いました。嬉しさと痛みに因る涙の永久機関の完成です。
「はいはい、痛いのは分かったから大声を出さない。部屋の前を通った人が聞いたら誤解されるよ」
「嬉しさと痛みの余り、配慮に欠けていました。それに、食事の用意をしてもらうだなんて……」
「和美達に頼まれたからね。光の顔を見せてあげてって」
「二人とも……」
今日の私の涙腺は緩々でした。気遣いが嬉しく、更に枕が濡れてしまいます。
良い友人を持ったと思っていると、ドアをノックする音が。
私はやっとの思いで上半身を起こしました。
「はい、開いてますよ」
私が声をかけると、ドアは開き、来客が姿を見せました。
「陽子さん、筋肉痛で動けないと聞いたので、役立ちそうな物を用意してきましたよ」
エミリー先輩が、似つかわしくない膨らんだビニール袋を持って現れました。
「あら? 二人も居たのですか?」
同級生が居る事に驚く先輩。
「お心遣い、ありがとうございます。ですが、お姉様達が居るので大丈夫ですよ」
敵対している光お姉様との間で衝突が起きるかもしれないと、先手を打って帰ってもらおうと考えました。
「そうはいきません。動けなくなるほどの筋肉痛にさせてしまったのは私です。ここですぐに帰っては、指導者として失格です」
「指導者って……。そんなに重く考えなくて良いですよ」
お互い、時間を忘れて練習していただけの事です。それに、普段使わないような筋肉を使っただけの話。嫌っている相手ではありますが、熱心に丁寧に教えてくれた人を責めるつもりはありません。素人目に見ても、無理強いをされるような事は無かったですし。
「いけません。二人目もだなんて、完全に名折れです」
「二人目も?」
そう言えば、エミリー先輩は光お姉様にダンスの指導をしていたらしいです。
「ダンスで筋肉痛。あの時は歩けなかったわ」
私達の会話に光お姉様が反応しました。
「肩を貸した事を今でも覚えています。ライカ様と協力した事。あの時、お邪魔虫が居なければもっと素敵な思い出でしたのに」
「いやいや。それ、そのお邪魔虫が居なかったら成立してない話でしょ」
エミリー先輩の言葉に、彼方先輩がつっこみました。
「シスターであったのなら、起こり得たかもしれない出来事の一つだったのは確かです」
「ああ、うん。まあ、何にでも可能性だけなら無限大だものね」
彼方先輩が呆れ気味に言いました。
「あなたは、またそうやってつまらない事を言いますね」
まるで仲良しの会話でした。いえ、彼方先輩とエミリー先輩が仲良しなのは分かります。ですが、そこに光お姉様が加わっているように聞こえている事が不思議でした。




