76 無慈悲 私と謎の人
(神様とは、実は何も考えていないのでは無いでしょうか?)
ダンス練習の翌朝。目覚めて一番最初に思いました。
数ミリでも体を動かせば、全身に即座に痛みが走ります。痛みが起こると、また別の箇所に痛みが走り、また別の場所に痛みが……。と、終わりの無い筋肉痛の連鎖が続くのです。
判定のおかしなパズルゲームのような現象を、私はなす術も無く、無抵抗に受け入れるしかなかったのです。
「陽子さん。おはようございます」
隣りで眠っていたふーりんが目覚めました。体を起こそうと、手でマットレスを押すと、当然より深く沈みます。するとどうなるでしょう? 答えは、私の体が沈んでいきます。
「ふぬぅっ」
どの年代の同性からでも出ないような声を出し、苦しむ私。余りにもおかしな苦しむ声に、自分自身でも驚きました。そして、ふーりんも何事かと驚いていました。
「なんか武士が切腹したような声が聞こえてきたけど?」
笑いを堪えながら、二段ベッドの上から顔を出す和美。
「回復したら許すまじ……」
届かない和美に手を伸ばし、空を掴もうとしましたが、そもそも痛くて上がりません。
私は、普通の悲鳴すらも出せない状態でした。
「手の動きも練習してたからだろうけどさ、それにしてもやられ過ぎじゃない?」
普通はそこまでにはならないでしょと、和美は笑い混じりに言いました。
「私も、まさかこんな風になるとは微塵も思っていませんでした。受験勉強で体が鈍っていたのかもしれません」
「受験終わってから、既に三か月くらいは経っていますよね? その理由は通用しないかと」
「ふーりん。こんな時は優しくしてぇ」
体の痛みで話す事すら辛くなっていました。
「よっぽど力んでたみたいだね。今日、授業に出れそう?」
筋肉痛程度で休む訳にはいかない。そう言い切りたい所ですが、全身が痛すぎて心が折れていました。
「私、今日は動けません……。うぅ、お姉様ぁ……」
この場に居ない光お姉様を思い、また空に手を伸ばそうとしましたが、やはり手は上がりません。天は私を見放しました。
先ほどと同じ行動をし、同じ失敗をする辺り、私の脳も学習が出来ない状態にあったようです。
「先生には伝えておきますね。和美さんは彼方先輩に連絡を」
「そうだね。光先輩の事はお姉様に任せておきなよ」
「強がりも言えません……」
私はこの日、筋肉痛で休むという経験を初めてしました。
ふーりんや和美に朝食のお世話をしてもらった後、私は疲労を取るため、とにかく眠りました。
どれほど眠っていたでしょう?
体が少しだけ動くようになっていました。それでもまだ瞼は重く、ちゃんと開けられません。
「うああ」
声は問題無く出せました。
「目が覚めたみたいだね。持ってきたゼリー飲料飲む? 水にする?」
随分と眠っていたような気がします。筋肉痛とは違う怠さは、寝過ぎと栄養が不足しているからでしょうか?
「ゼリー飲料で」
「分かったよ」
先程から話しかけてくる聞き覚えのある声は誰でしょう。誰か分かりませんが、親切なので、そのまま頼る事にしました。ですが、正体が気になります。
(そっか。目を開ければ良いんだ)
重い瞼を開けると、黒髪の綺麗な女の人がジッと壁を見ていました。
(この人、綺麗……)
まだぼんやりが残る意識で見ていたので、視界の情報処理に時間がかかっていました。
「お、おお、おねぇあぁぁっ」




