74 黒のふーりんと伝説の捕縛人 狂気の種
「そこのお話は既に済んでいます。ちょっと寮母さんの懐を温め、地均しをしたら許可を頂けました」
人当たりの良い笑顔で言うふーりん。
私の認識の中のふーりんは、こんな事を言いません。
確認のため、腐れ縁の和美に確認の視線を向けました。
ふーりんならやりかねないという反応でした。
続いて、寝食を共にしているエミリー先輩に視線を送りました。
ですが、どうすれば戻って来てくれるかという方向に頭を使っている最中で、黒いお金持ち発言は耳に入っていないようでした。
「ふーりん。嘘だよね? 嘘だと言ってください、ふーりん」
ちょっと暴走すると手に負えなくなっちゃいますけど、普段はとても優しい良い子なのがふーりんです。
だから、今のは偽者なはずです。悪い冗談であって欲しいです。私は彼女に訴えました。
「ええ、嘘ですよ。ちょっと言ってみただけです」
「ほ、本当に? 本当ですか?」
悪ふざけをしてみましたと、小悪魔的な笑顔で言うふーりん。私はまだ疑っていました。
「少し驚かせようとしただけですよ。心配でしたら、後で確認をしてみてください。寮母さんには、友人の成長の為に部屋を移動する旨を伝えていますから」
「それで、寮母さんは了承してくれるんですか?」
「そこは普段の生活態度と教師陣や生徒からの印象ですよ。伝説の捕縛人とは違います」
「伝説の捕縛人? 普通に受け取ったら捕まえる人ですよね? ですが、今の文脈からすると捕まった人のように聞こえますが?」
「陽子さんが思った通りの意味ですよ。ねぇ、捕縛人?」
彼女の視線を辿ると、その先には和美が居ました。
「それは初等部の時までの話。今はそんなお転婆な事はしてないから」
「ああ、あの伝説の人は和美だったのね」
彼方先輩も話には聞いた事があるようです。一体、どのような伝説があるのか気になります。
「昔の事はどうでも良いでしょ。それよりも、ふーりんが部屋に戻らない問題の方が大事でしょ?」
正論ですが”伝説の“と付けられると気になるのは、人の性では無いでしょうか?
ここはどちらも最短になる道を選ぶしか無さそうです。
「決めました。一日も早くダンスを修得しましょう。そして、寂しがりなエミリー先輩にふーりんを返します」
「ちょっと待ちなさい、陽子さん。わ、私は、寂しがってなどいませんから!!」
照れからでしょう。強めに否定をするエミリー先輩。その態度を見たふーりんは、表情を曇らせていました。
「では、丁度良いですね。お姉様は暫く一人で、いえ、卒業まで居てください。一人部屋なんて、学院生でも憧れる話ですよ」
事実上の絶縁宣言とも取られかねない発言でした。
「お待ちなさい。実家に戻れば幾らでも一人になれます。なので、学院の部屋で一人になる必要はありません。この場で、この学院での集団生活が何を置いても重要なのです。そのための寮生活なのですよ」
随分と熱の入った反論でした。
ですがふーりんは譲りません。エミリー先輩も、一人は嫌だと言って譲りません。となればやる事は一つです。
「良い方法がありますよ。彼方先輩が一人だから、寂しくなったら泊まりに行くか、来てもらえば良いのです」
こうすればエミリー先輩が寂しくなる事は無いでしょう。ですが、彼方先輩は反対の表情をしていました。
「エミリーの部屋なんて、一ミリでも物を動かしたら目敏く見つけて、戻すまでいびられそうだから嫌だわ」
「私もです。よく分からないような物で埋まっていそうな部屋で暮らすのは堪えられません」
お互いに嫌がっていました。ですが、彼方先輩の部屋を一度見た私からすれば、エミリー先輩のイメージを間違いだと指摘できます。
この誤解を解けば、エミリー先輩が彼方先輩の部屋にお泊りする方向には持っていけそうです。にしても、友達歴が長いようなのに、一度も部屋に行った事が無いだなんて……。
「二人は友達を家には入れないタイプなんですね。彼方先輩は意外です」
「そういうんじゃないよ。ただ、集まる時は決まって……」
「ちょっと、彼方っ」
慌てて止めに入るエミリー先輩。その反応に驚きました。
「何さ、エミリー?」
「その話は止めましょう。今する話では無いわ」
「んー、ああ、分かった。暗くなる話は止めよう」
何か悲しい出来事が絡んでくる内容だったようで、二人はそこで話を止めてしまいました。
結局、先輩達だけでは埒が明きません。
「先輩達。ここは新しい風を受け入れてみるというのはどうですか?」
「あなたは拒んでいますが、私は受け入れていますよ」
「十分、受け入れているし、変化も楽しんでいるけれど?」
何故か私をしっかりと見つつ、二人は言いました。
「視線の意味が分かりませんが、私が言いたいのは、新しい環境を体験してみるという事です。住めば都という言葉があります。なので、実際に体験してみてください。互い、今は一人身なので問題は無いですよね?」
二人は互いに顔を合わせました。こうなれば後一押しでしょうか。
「後輩が新しい事にチャレンジしているんです。先輩達も、良いきっかけと思ってやってみましょうよ」
「そ、そこまで進められましたら、まあ、一度くらいなら」
「後輩にここまで言われたら仕方ないね。しょうがないから口車に乗ってあげるよ」
やりました。二人が同意しました。




