73 私の才能 灰色のふーりん
「あら、彼方じゃない。和美さんもどうしたのかしら?」
エミリー先輩の声で、その方向を見ると、袋を幾つも持った彼方先輩と和美が居ました。
二人の登場に、練習は中断されました。
「どうしたのって、時間分かってないの?」
「時間? フレデリカ、今は何時かしら?」
「丁度今、八時になろうとしてますよ」
「食堂がもう締まっているじゃない」
この学院の食堂は午後七時半には受付が終わってしまいます。なので、私達は食事抜きという事になります。
「つい練習に熱が入り過ぎてしまったわ。どうしましょう」
「何時までも戻って来ないって和美から聞いて、夕食を持ってきたよ」
袋からお持ち帰り用のパックを出す彼方先輩と和美。
中を全て開けると、三人分の夕食が並びました。
「ありがとうございます、彼方先輩。和美。おかげで、ひもじい思いをしつつ寝なくて済みます」
「ふーりんに聞いたら、練習に集中してるって言うから、お姉様にも荷物持ちを手伝ってもらったんだ」
「という事は、ふーりんは時間を知っていたという事?」
私はふーりんを見ました。彼女は、私の視線に気付くと、テヘッと言う効果音が付きそうな表情と仕草をしました。
「エミリー先輩。あなたの妹は、分かった上で悪事を働いてましたよ。妹の問題行動は、姉が償うべきではありませんか?」
「そうですね。ですが、私も懐かしくて、つい指導に熱が入ってしまいました。時が経つのを忘れていたので、私に責任がありますね」
思ったよりも深刻な感じでエミリー先輩は受け取ってしまいました。
「エミリー。今のは冗談みたいなものだよ。悪乗りする所だよ」
「あら、そうでしたか。では、今日の所はフレデリカを連れ帰って、一晩お仕置きをするとしましょう」
彼女なら何故か本当にしそうな気がします。
「先輩。ご飯ならここにあるので、一晩は長すぎでは?」
ふーりんが心配になり、減刑を求めました。
「大丈夫ですよ、陽子さん。マネージャーの仕事について叩き込むだけですから」
「表現が一々強いんですけど……」
私が思うほどに酷い事は起こらないとは思いますが、考えるのを止めました。
「エミリーお姉様との一晩は魅力ですが、私はまだ部屋に戻る訳には行きません」
「「えっ!?」」
私とエミリー先輩は同時に声を上げてしまいました。
私達の反応に、ふーりんは練習の成果と思ったのか、ニコニコ顔です。
「私達の練習を見ましたよね? 満足してないんですか?」
「お姉様がちゃんと指導する事は分かっていましたし、陽子さんも根が真面目なのは分かっていましたから」
二か月も経っていないというのに、ふーりんは私をえらく信頼してくれていました。
その信頼は嬉しいのですが、なら戻らないのはどうしてでしょう。私はそれが気になりました。
「今日和解した二人が、明日も手を取り合っているのかは分かりません。一時的に手を結んだだけかもしれませんし」
正にその通りなのですが、ふーりんは疑り深いです。
「安心なさい。これからもちゃんと教えていきますから。なので、部屋に戻って来なさい」
一人は寂しいのか、エミリー先輩に必死さを感じました。
「私だって大丈夫ですよ。基礎は習ったので、練習だって一人で出来ます。ちゃんと続けますから」
とにかく安心して欲しいと訴えると、ふーりんは私の両肩を掴みました。
「陽子さん。一日で覚えられても、一日で身に付く訳じゃないんですよ」
笑顔でしたが、肩に入る力は尋常では無かったです。このまま握りつぶされるのではないかと焦るほどです。
「あれって、フレデリカさんの地雷を踏んでしまった感じかな? 和美」
「どうやら陽子は、自ら踏み抜く事で地雷を除去する才能があるようです。彼方お姉様」
コップ片手に、観客の立場で会話する二人。ちゃんと聞こえていましたが、状況的につっこめないので、心の中で叫びました。
(そんな才能要らないんですけど!!)
「私、決めました。陽子さんがお姉様に認められるまで、お部屋には戻りませんから」
人を理由にして、迷惑な宣言をされてしまいました。
「あ、ですが、長期間の部屋の移動は出来ないのではなかったですか?」
私は、自分が光お姉様の部屋へ移住しようとした時の事を思い出しました。
これは誰にでも通用するはずだと思い、反対された理由の一つで立ち向かってみました。




