70 ふーりんの憧れ 裏切りに高まる怨念
「もちろんですよ。私、マネージャーというものに少々憧れがあったんです。裏で支え、その支えで実る果実。素晴らしいと思いませんか? 成長への手助けは美徳。私はそう思っているんです」
キラッキラな眼の彼女に「毎日なんて大変で、面倒だから無理しなくて良いですよ」なんて事を私は言えません。幼子に大人が勝てないのと同じです。
「そ、それならお言葉に甘えちゃいましょうか」
この時、私は上手く笑えていたでしょうか? 顔の筋肉の至る所がピクピクしていた事だけが記憶に残っています。
「じゃあ、三人で頑張りましょうね」
ふーりんに私とエミリー先輩は手を取られ、こうしてダンスの練習をする事になりました。
「ああ、でもお姉様のお世話をしないといけないので、そんなに長い時間は出来ませんよ。ねえ、彼方先輩?」
私は目で彼方先輩に合図を送りました。体よく短時間で終わるようにと協力を求めたのです。
気遣いの出来る彼方先輩は、私の合図に気付いていました。なので、きっと良い方向へと事を動かしてくれるはず。私はそう信じて疑わなかったのです。
「それなら任せて。私だけでも光の事は出来るから。良い機会だから、存分に仲良くなってきなよ」
これははめられたようです。彼方先輩は、私の合図を理解した上で、私を突き放したのです。
こうなると私の味方は、和美さんしか残っていません。
最後に残った友達に視線を送りました。
「あ、あー。うん。ベッドメイキングくらいならしとくよ。戻ってきたら直ぐ寝られるようにしといてあげる」
和美さんも理解した上でスルーしました。この仲良し姉妹めと、恨みが燃え盛っていました。
そして、もう味方は居ません。光お姉様は話を聞いておらず、このやり取りもただの風景の一部としてしか認識していません。ゼリー飲料を飲みつつの風景鑑賞をしているだけです。
(裏切った事、忘れませんよ。和美ぃ……)
怨念が祟れそうなほどに高まっていました。
「あ、そうだ。光先輩。陽子に励ましの一言をお願いしますよ」
気安く光お姉様を呼び、気軽に肩を叩いて私を指し示しつつ、和美はそう言いました。
「励ましの一言?」
「そうです。頑張れって、陽子に」
和美の要望を受け、光お姉様は私の方を向きました。
「頑張れ」
言われた事をそのまま言っただけの励ましの一言でした。
ですが、声は光お姉様。発せられた言葉も光お姉様。全てが光お姉様を通して出たものならば、これはもう光お姉様から出たものなのです。
「お姉様。私、頑張ります!!」
光お姉様がにこりとしたので、私も笑みで返しました。
「初孫を愛でるお祖母さんみたいね。何があっても受け入れて。あなた、それで良いの?」
このやり取りを見るのが始めてだったエミリー先輩は、余計なお世話でしたが、心配した声でした。
「お姉様が私に向けてくださった全ては私の宝物なんです。だから全て良いんです」
「分かりたくないですけど、そんな時もありますね……」
身に覚えがあるのか、先輩は納得していました。
そして私は、今日の午後五時からダンスの練習をする事になりました。




