65 密談 特殊性癖にはついていけません
「それは分かっています。原因は? 理由は? 動機は?」
結果、同じ意味合いの言葉を並べ、私は急かしました。
「あなたと仲直りしてほしいと言われたのよ」
「それは無理ですね。私はあなたの事が嫌いです。私では解決できないの問題なので、諦めてください」
徹底的に嫌っている相手に対し、私はノーを突き付ける事が出来る人です。なので、全力の直球で投げ返しました。
「あなたにそこまで嫌わる原因は自覚しているわ。私も、あの時は突然で、ちゃんと説明が出来なかったと思っているの。あなたの立場からすると、頭ごなしであった事も分かっています。そういった点も反省をしているわ」
私が敵意を持った理由をちゃんと理解しているみたいです。
「そうですか。私としては、憧れの人から引き離そうとする悪役という地位が確立してしまっているので、もう動く事は無いでしょう。瞬間接着剤と杭と緩まないネジと溶接とでがっちり固定されているので、安心してください。不動の一位だなんて、そうそうなれるものではありませんよ」
というと、エミリー先輩は懐からハンカチを取り出し、目に当てました。
「こういう時に涙を使うのは卑怯だと思いますよ」
これで外へ飛び出されでもしたら、私が完全な悪役になってしまいます。ただでさえ交流会をきっかけに周囲の人達とは距離が出来てしまっているのに、そんな事をされたら、視認も出来なくなってしまいます。
「そういうつもりでは無いの。ただ、余りにも直球で来たので、懐かしさと悲しさが同時に来ただけなのよ」
「懐かしさと悲しさって、先輩は特殊性癖でも持っているのですか?」
罵倒に対し、どうやっても合わないであろう感情で泣く人を始めて見ました。
「泣いてごめんなさい。けれど、下級生にこんなにも嫌われるだなんて、始めてだったのよ」
「それはそれは幸せな人生を送ってきたのでしょうね。けれど、これもある意味で巡り巡っての事ではありませんか?」
「どういう事ですか?」
分からないという顔をしているので、私は教えてあげる事にしました。
「話は聞いていますよ。ライカさんがあなたでは無く、光お姉様を選んだ事を根に持っている事は」
「ああ、そのお話ですか」
エミリー先輩は上品に笑って言いました。
「おかしい事ですか?」
「懐かしいお話だと思ったので」
「では、今はもう恨んでいないと? なのに敵対していると?」
「あなたにもそう見られているのであれば、私も中々のようですね」
彼女が何を言っているのか、全く分からない。
「どういう事ですか。分かるように言ってください。あなたがお姉様に嫌がらせをしているというネタは上がっているんですよ」
光お姉様の話からのお話ですと、会う度に周囲が気付くほどに嫌がらせをしている人。その相手は、自らが率先して罵倒し、関係の無い者がお姉様への嫌がらせをしようものなら、その部外者を叱るそうです。「関係の無い者は出しゃばるんじゃない」とか言っているのでしょう。 だからでしょうか。生徒達は光お姉様に直接的な嫌がらせをしてはいないようです。代わりに、陰口を言っているようですが……。そのような事をしているのが目の前に居る彼女です。
お姉様がちゃんと話を聞いていない状態だからまだ良いですが、正気状態なら病んでいてもおかしくありません。
「そこまで知っているのであれば、あの時止めた事と合わせての嫌悪なのでしょうね」
全て理解したと、エミリー先輩は一人で納得した顔をしていました。
「それでは仕方ありません。確かにこれは巡り巡っての事。妹からの信用を失う事も当然ですね」
彼女は背を向け、音楽室の窓の前に立ちました。
「ちょっと、飛び降りたりしないですよね?」
「そのように心が弱いのであれば、私は既に事を起こしていますよ」
自分は大丈夫。そう言っているのだと解釈できますが、そうは言われても、私の目に映る先輩の姿は、限界まで打ちのめされて弱っているようにしか見えません。
(この人は私達の敵だというのに……。もうっ)
私は悩んだ末、決めました。




