64 密談 用件だけしか聞きません
周囲の生徒達は、私がやって来た事に気付くと、蜘蛛の子を散らすように離れていきました。 都合は良いですが、この嫌われっぷりは凄いです。
「それはもちろん、陽子さん。あなたを待っていたのよ」
狙い通りと言いたいのでしょうが、すぐに強がりだと分かりました。見抜けたのは、今日の彼女が、そんな状況では無いと分かっていたからです。
「そういう事にしておきましょう。で、エミリー先輩。ここで話しますか?」
「いいえ、別の、二人きりになれる場所で話しましょう」
「音楽室辺りが防音で良いと思いますよ」
「では、そちらで」
先輩が言うので、私達は音楽室に移動しました。中に入ると早々に彼女は言いました。
「よく私が居ると分かりましたね」
それを聞いた私は、呆れてため息を吐きました。だってバレバレだったんですから。
最初に気付いたのは、一時間目が終わった後。
廊下を出ると、遠くの方が賑わっていたのです。
それが二時間目、三時間目の後にも続いたので、これは間違いないと思ったのです。
「私はまだ、ふーりんから原因を聞いていません。なので、事情が分かりません。何があったのですか?」
「ほんの些細なすれ違いをしたまでです」
事あるごとに下級生のフロアにやって来て、様子を窺っていたというのに、まだ虚勢を張るだけの余裕があるようです。
「そうですか。その些細なすれ違いのために、休み時間毎に通うのは大変だったでしょうね。では、些細な事には関わらないようにしますね。引き続き、一人暮らしを楽しんでください」
来たばかりの音楽室を出ようと、ドアノブに手を伸ばしました。
「ま、お待ちなさい」
引き留め方が上級生としての体を保とうとしてか、上からなのが気になります。
「お待ちなさい?」
「待ってください。お願いよ、話を聞いて」
多少、態度を改めたようなので、私は手を戻しました。
「友達の問題です。私はあなたが嫌いですが、友達のために話を聞きましょう。可能なら、仲直りにも手を貸します」
ふーりんはとても良い子です。なので、彼女が抱えている問題で、自分が協力出来そうな事なら手を貸してあげたいのです。
「それは、あの子の姉からしたら嬉しい事だわ」
私を、ふーりんにとっての良き友人と見たのでしょう。先輩にそう思われずとも、私は良き友人であろうと思いますが。それから、先輩は小声で何かを呟いていました。
(似てきたと言うべきかしら。それとも、皆そうなの?)
どうせ、先輩への態度がどうのという不満でしょう。聞き取る必要はありません。
「一人で何をブツブツと言っているんですか。時間が無いんです、手短にお願いします」
もう十分は過ぎているので、昼食を食べる時間とお姉様とのふれあいの時間が本当に無くなりかねないのです。
「下級生のあなたに、こんな事を言うのは情けないのだけれど……。いえ、フレデリカの友人ですものね」
心を決めたようですが、そんな前置きはどうでも良いので、早く用件だけを言って欲しいです。
「喧嘩をしたのよ。フレデリカと」




