60 目覚め 喜びの朝
翌朝、私は視線を感じて目を開けました。
私の隣で寝ていたお姉様の頭は枕にありません。上半身を起こし、見下ろすようにジッと私を見ていました。
「寝顔を眺められるなんて、恥ずかしいっ」
と、両手で顔を隠してみましたが、反応はありません。ですが、ジーッと私を見つめる視線は感じます。
「お……姉様?」
昨日の事を忘れているのか、それ以外か。判断が付きません。
「あなた、何故、隣りで寝ているの?」
どうやら前者のようです。自分一人の部屋で、自分の横で眠っている人物。
私だって覚えが無ければホラーだと思います。
「お姉様。昨日、二人でお泊りをする事になったではありませんか」
「そうだったっけ? 彼方が居たのは覚えているんだけれど……。いや、その後にライカの事を誰かと話していたような……」
(あれ? あれれ?)
眠っていた頭が徐々に動き出し、私は状況がおかしい事に気付きました。
「そうだ。彼方に連絡すれば全部解決じゃない」
自発的に動き、電話を探すお姉様。
(お姉様が自分で動いてる!? なんで? どうして?)
私が知る現在のお姉様は、最低限の事を最小限で行う人です。
それがどうでしょう? 目の前に居るのは、普通の一人の女の子です。
「もしもし? 朝早くからごめんなさい。それで彼方、聞きたい事があるんだけど。って、ちょっと、泣き出してどうしたの? とりあえず泣いてても良いから話を聞いて」
彼方先輩は嬉しさで泣いているのでしょう。今の私には、ただただ驚く事しか出来ませんが。
先輩はきっと、言葉に出来ないほどの喜びを感じているはずです。
電話でのやりとりの最中、お姉様は私を見ました。
「あの、噴水みたいな子。ええっと、よう……よう……。陽子さん? そう、陽子さんが隣りで寝てたの」
名前です。名前を呼びました。二回もです。その名前は誰のものか、誰だったのか。
他の誰でもありません。私の名前を、お姉様が、始めてちゃんと呼んでくれたのです。
「お姉様……。おねえさまぁぁぁ」
きっと彼方先輩が感じた喜びと同じだったと思います。私は嬉しさのあまり、お姉様に飛びついていました。
そのまま抱きしめると、驚いたお姉様はスマホを落としました。
私を受け止めるだけの筋力が無いお姉様は、座り込むついでに机に軽く頭をぶつけ、そのまま気を失ってしまいました。
「ああ、私とした事が。嬉しさのあまり、つい……」
気絶しても美しいお姉様のお顔を写真に収めた後、どうしたらよいかと迷っていると、壊れる勢いでドアノブが音を立てていました。直後に、凄い勢いで部屋のドアが開きました。




