6 和美 戻って来たお嬢様
「なら、先に二人に学院の事を教わると良いよ」
彼方先輩は、あの時の記憶通り、とても気配りが出来る人でした。きっかけはどうあれ、私に出来た二人の顔見知りを頼る方が、馴染みが早いだろうと考えてくれたみたいです。
「確かにそうですね。私は初等部から居るので、隅々まで説明できます。私を通し、クラスメイト達とも打ち解けられると思いますよ」
どうやらふーりんは、生粋の学院生のようです。それなら顔も広いでしょうし、他のお嬢様達とも多少は話しやすくなるかもしれません。
「あたし、三年抜けてるけど、大丈夫かな?」
「和美さんは途中で別の中学校に行ったんですか?」
珍しい気がしたので、彼女に訊ねました。
「うん。そうなんだ。親の仕事で海外に行ってたんだ。寮生活だから、そのまま残ってもよかったんだけどさ。良い機会だからって一緒に行ってみたんだよね。別に、素行が悪くて追い出されたんじゃないからね」
違うと念を押す和美さんに対し、ふーりんが言いました。
「あなた、初等部の頃は結構な問題児だったじゃない」
「そんな事無いって。そりゃあ、泥遊びにハマってたりしてたけどさ」
慌てて否定するも、内容がお嬢様っぽくありません。
私は、ふーりんとのやりとりがおかしくて笑ってしまいました。だって、お嬢様学校で泥遊びだなんて、庶民でも今日日しませんから。
「お、笑ったな。帰還したお嬢様を笑うとは良い度胸だ。お嬢様魂を存分に見せてやる」
そう言うと、和美さんは私に抱きついてきました。親しみやすいのは良い所ですが、やはり距離の詰め方が凄いです。
「和美さん。だから、そういうのを止めなさいと。それに、本当のお嬢様は、お嬢様魂なんて言いませんよ」
言いながら私達を離そうと頑張るふーりん。
「あたしほどになると、お嬢様としての魂が自然と輝くものなんだよ」
「言っている事がよく分かりませんわ」
「そうですね。ふーりんさんのいう通りですよ。あっ」
つい、フレデリカさんの事をあだ名のふーりんで呼んでしまいました。
和美さんの手が止まり、ふーりんも驚き顔で私の方を向きました。
「ご、ごめんなさい。私も距離の詰め方を間違ってしまいました」
「いえ、気にしないでください。ふーりんと呼ばれるのは、この人以外で初めてだったので。何というか、悪くないですね」
なんだか嬉しそうな顔をするふーりん。
「あたしが呼んだ時は文句を言うくせに。その差は何さ」
「あなたの場合は悪意を感じるからです。このたらし魔」
「た、たらし魔って何さ。私が何時たらし込んだって言うのさ」
彼方先輩とふーりんが私を見ました。現在進行形でしているじゃないと言わんばかりの視線でした。
「ああっと、三人とも。そろそろ行かないと。遅刻扱いになるよ」
彼方先輩に言われ、私達は学校の正面にある大きな時計に目をやりました。
「気付いたら他の生徒達が居ません」
「復帰早々の遅刻は避けないと」
「私もです。入学初日は回避しないと」
失礼しますと彼方先輩に一礼し、私達は校舎に入りました。