41 閃きと防衛 部屋、出たもうことなかれ
ふーりんが抱きしめられた日の晩、私は閃きました。
昼食以降、うやむやにしていた感情が膨れ続け、悶々としていたのですが、妙案を閃いたのです。
この妙案が浮かばなければ、私はあの光景に心を貼り付けにされたまま、戻って来れなくなっていたでしょう。
心の中で悩み過ぎて、徐々に人間性が失われていましたから。
そんな心理状態でしたが、暗いトンネルを抜けたのは、消灯十分前にトイレに入っていた時でした。
「和美さん。私、お姉様と寝てきます」
「はい?」
和美さんに声をかけたのは、彼女が目覚まし時計の時刻を確認している時でした。
「陽子さん。ごめん、もう一度言ってみて?」
「私、光お姉様と寝てきます」
枕が変わっては眠れないので、枕を抱えての宣言です。
用件はちゃんと伝えたので部屋を出ようとすると、和美さんが私のパジャマのズボンのすそを掴みました。
「と、届いた……」
和美さんは、傍目からは満身創痍なのに絶対に手を離さない人という、バトル漫画でありそうな姿勢で私を引き留めました。
「いきなり変な事言わないでよ。立つ間も無かったでしょ」
そう言った和美さんの手が、よりしっかりとズボンを掴みました。
「変な事ではありません。とても大事な事です」
「なら、消灯十分前にそんな大事な事を思いつかないで」
更に掴まれ、ズボンが太もも部分で引っかり、履けてない人のようにさせられてしまいました。
「閃きとは、何時も突然閃くものなんですよ」
とても良い事を言ったような気がして、ちょっとドヤ顔になっているのが自分でも分かりました。
「名言を言った感を出して、アホみたいな事言ってないでベッドに入って」
ついには両手で裾を掴まれ、膝までズボンが下がっていました。完全にずり下げられないように維持するのが大変です。
「アホ名言とは何ですか。今のは金言に入ると思いますよ」
「アホ名言とは言ってないんだけど……。いや、それより、当たり前の事を言っただけだから。ちょっともう、戻って座って。話は聞くから」
「寝ろと言ったり、座れと言ったり、我が儘ですね。それと、ズボンから手を放してください」
「そんな事を言うのはこの口かっ」
和美さんは立ち上がり、私の両頬を引っ張り回し始めました。こんな事をされたのは、幼稚園の頃に喧嘩した時以来かもしれません。
「ほうりょくはふたいへすっ」
和美さんの腕を掴み、引き剥がそうとしました。
「振り回すのも暴力の一種なんですけどー」
和美さんは恐ろしい事に、頬の皮を引っ張りながらグルグル回し始めました。
「やへ、こへひひょうは……」
これは非常に不味い状況だと思い、この行為を止めようとしましたが、間に合いません。というよりも、私よりも和美さんの力が勝っていたために止める事が出来なかったです。
そして禁断の行為を彼女は実行したのです。
私の頬をグルグル回した後、最大まで引っ張った状態で摘まんでいた指を離したのです。
痛みのあまり、両頬に手を当てながら床の上で悶えました。
「オイタが過ぎましたわね、陽子さん」
高笑いまで飛び出しました。和美さんは、完全に悪乗りしていました。
「私、負けない……。悪役令嬢なんて乗り越えるんだから!!」
「乗り越えられるものなら乗り越えてみなさい。まあ、今日は時間切れですけどね」
和美さんの言葉にハッとして時計を見ました。
消灯時間が過ぎています。
廊下には既に見回りが居ます。これでは外に出る事も出来ません。
「は、謀りましたね」
「連帯責任は困るからね」
罰を受けるくらいならこれくらいの事はすると、必死な表情で危ない笑い方をする和美さん。
彼女は過去にどのような罰を受けてきたのでしょう? とても気になる所です。
「こうなってしまっては仕方ありません。今日の所は寝ましょう」
「そうだね。それが良いとあたしも思うよ」
部屋の電気を消し、私達はベッドに入りました。




