37 楽しいお昼休み 怨敵登場編
「さあ、お姉様。光お姉様は何処ですか!?」
屋上へと続く扉を開けると同時に、私は周囲を探しました。ここへと繋がる階段を全力疾走しましたが、疲れなどありません。
どこの学校でも、廊下を走る行為は厳禁でしたが、階段を駆け上ってはいけないというルールは明記されていません。大体は飛び出すなという警告でしょう。少なくとも、私が居た学校には無いルールでした。学院でもそのようなルールを目にしてません。常識や暗黙のルールがあるのでしょうが、この場ではそれを逆手に取りました。
つまりは、標示されて居ないのであれば、守る必要など無い。
お姉様に会うためなら、黒も灰色だと良い、通る所存です。
なので、私は全力疾走をしたのです。
体力は有り余っていました。今の私は、お姉様への想いが酸素と同じ役割を果たしています。
この想いは、全身を駆け巡り、疲労という感覚を取り去ってくれます。
人の体は、お姉様という万能成分があれば何でも出来るのです。
「陽子さん、ま、待ってぇ」
全世界がお姉様を補給したら良いのにと、本気で思っていると、ふーりんがふぅふぅ言いながら、私を追って階段を登ってきました。
相手は違いこそすれ、共にお姉様を持つ身だというのにこの差。私にとっての光お姉様がどれほど素晴らしい栄養になっているのかが分かると思います。
「ふーりんは、もう少し体力を付けた方が良いですね。体は何事においても資本ですから」
「陽子さんの体力が底無し過ぎるのよぉ……」
息絶え絶えのふーりんは時間が経てば回復しますし、辛いなら自分の判断で休む事が出来ます。なので、彼女に対しての配慮はしない事にしました。
ここで気にかけるのは、午前中に会えなかった光お姉様です。私が居ない間、寂しい思いをしていなかったのか。私が居なくて心細くは無かったか。そればかりを考えていました。
「こっちだよ、陽子さん」
覚えのある声の方を向けば、彼方先輩がわざわざ迎えに来てくれていました。
「ありがとうございます、彼方先輩。お姉様はどちらに?」
「こっちだよ」
方向が分かれば、歩幅を合わせる必要はありません。駆け出し、お姉様の前に飛び出しました。
「おまたせしました、光お姉さ……」
お姉様の傍にいた人の姿に、言葉が詰まってしまいました。
私は、直後に深いため息を吐きました。
「まあ、随分な反応ですね」
私の反応に、相手は怒らず、ただただ驚いていました。
「どうしてあなたがここに居るんですか。エミリー先輩」
私は不快感を前面に押し出し、嫌悪しました。
「彼方から話を聞き、様子を見に来たのよ」
「様子を? 光お姉様の様子を見て、嘲笑いに来たと?」
とても良いご趣味をお持ちですねと、鼻で笑ってあげました。
「あなた、随分な振る舞いになりましたね。出会ってから、日もさほど経っていないというのに、酷い変わりようだわ」
「私も誰彼構わずこんな態度は取りませんよ。先輩だけです。特別ですよ。良かったですね」
敵意のみを込めた笑顔を向けてあげました。
光お姉様との素晴らしい時間過ごすはずが、とんだ出会いです。
「二人ともそこまでね。エミリーはね、陽子さんを心配して来たんだよ」
彼方先輩が間に入り、私に言いました。
「私をですか?」
「そうそう」
彼方先輩は頷いて答えてくれましたが、迷惑にしか思いません。
「でしたら言いますが、エミリー先輩がそのような事をする必要は一切ありませんし、されても全く嬉しくありません。ですので、どうぞお引き取りを」
私と光お姉様との間を邪魔する人が、よくもまあ、気遣っているなど……。
迷惑の押し売りは絶対に受け入れません。
「もう、エミリーに対してはとことんキツいんだから。やっぱり最初が悪かったんだって」
私と彼方先輩との認識は同じでした。何をどう取り繕おうとも、今の私が以前のようにエミリー先輩に接する事はありえません。
「はっきり言わないといけない所でしたので、仕方ありません。それにしても、本当に嫌われたものね」
気を悪くしたというよりも、落ち込んでいるような素振りを見せるエミリー先輩。
「今日はしょうがないよ。私が居るから、エミリーは戻りな」
「その方が良いかもしれません。ですがまだです」
まだ何か用事があるようです。
「陽子さん。あなたの光さんへの思いはよく分かりました。ですが、光さんはあなたを妹とは認めていないですよね? つまり、まだシスターでは無いという事です」
「そんなのはこれからです。先輩にとやかく言われる事ではありません」
「光さんの状態は理解したでしょう? 自分に関する話だというのに、彼女は見向きもしていません。このような状態の相手に、あなたは本当に何時までも尽くせますか?」
「何時までだって尽くしますとも。水の一滴でも石に穴を開けるんです。行動とは切り開く事。突き進む事。なので私は止まりません」
「あなたは、彼女の親でも実の姉妹でも無いのですよ。ですから、あなたが苦労をする必要も無いのよ。学院生活の最初の一年を、同じ事を繰り返して過ごすのは勿体無いですよ」
「同じ事ではありません。積み重ね続けていれば変化が見えます。その変化を見落とさなければ、絶対に良い方向に進めるはずです」
彼方先輩とエミリー先輩を掻き分け、私は光お姉様の隣りに立ちました。
「お姉様。私はお姉様の妹として傍に居続けますね」
決意を口にすると、光お姉様は言いました。
「私に妹は居ませんよ」
「お姉様ぁ……」
分かっていたとはいえ、この場でのお約束な反応は心に来ました。
「ですから、光さんはここまで言ってくれたあなたを認識していないの。この先も、何時終わるか分からないほどよ。過去に光さんと面識があるようですけど、それだけの事で、私達が卒業するまでの時間を棒に振る事は無いわ。あなたの言葉を使うなら、何時までだって尽くす必要も無いのよ」
「それはエミリー先輩から見ての話です。私は違います」
「はぁ。本当に頑固な子。分かりました。今日はここまでにしましょう」
「私は二度と会わなくても良いのですが」
塩が手元にあれば、投げつけている所です。
「本当に嫌われたわね。けれど、フレデリカとは仲良くしてあげて。私も、困った事があれば力も貸すわ」
「安心してください。その様な事は起こりません。それに頼るのなら、彼方先輩やふーりん。和美さんを頼ります。エミリー先輩には絶対に頼りません」
「そう。では失礼するわ」
ため息を一つ落とし、エミリー先輩は屋上から出て行きました。




