36 楽しいお昼休み 裏切りの友情編
お昼休みになり、私の積もりに積もった想いは限界に達しようとしていました。
本当は、授業の合間の時間にお姉様に会いに行くつもりでした。だというのにそれが出来なかったのは、和美さんに阻止されてしまったからです。
理由を聞くと「校内は短時間で往復出来るほど狭くない」の一点張りでした。
失念していましたが、私はお姉様のクラスの授業時間を把握していません。なので、手当たり次第で探すのはスマートでは無いのです。渋々、今日の所は引き下がりました。
探す事も幸せに繋がるとは思いますが、徒労に終わる可能性と授業に遅れる可能性を考えると、取るべき行動ではありません。
せっかくお姉様の傍に入れるのに、退学なんて結果になっては泣くに泣けませんから。
そう自分に言い聞かせていましたが、私も我慢の限界でした。
最初の休み時間の時、和美さんは言いました。
「お姉様から、日中は任せなさいってメールが来たよ」
私は、光お姉様がどのような生活リズムで動いているのか、まだ理解していません。
ですが、これまでの情報を整理するに、地獄の牢獄を思わせる劣悪な環境で、辛い立場にある事は間違いありません。
考えると胸が張り裂けそうな気持ちで一杯になりました。
というやり取りを越えてのお昼休みです。冷静で居られる訳がありません。
「和美さん。お姉様は、光お姉様は今どちらに!?」
すぐさま和美さんの席へ向かい、私は訊ねました。
「陽子さん、目が血走ってるから」
「今走らせずに何時走らせるんですか」
私は、覆いかぶさるように和美さん迫っていました。鬼気迫る私の横で、ふーりんは言いました。
「昼食を一緒にと思って来てみたら、凄い状況ですね。陽子さんは何か危ない薬でも使っているのですか?」
ふーりんが戸惑い、どのような距離感で接すれば良いのか悩んでいる表情をしていました。
誓って言いますが、私は、無添加で何も使っていません。
「ふーりん。陽子さんはこっちの方が素の状態なのさ」
「あらまぁ」
実家の近所のおばさんみたいな驚き方をするふーりん。両手で口元を抑えている辺りもおばさんっぽいです。
「和美さん、誤解を招くような言い方をしないでください」
「ええー。じゃあ、誤解を招かない言い方はどうなるの?」
「そうですねぇ……。リミッターを解除した、ですかね」
「それ、暴走してるよね?」
「そうですね。はい。光お姉様への愛が暴走している状態です」
「それはどうすれば収まるんです?」
お嬢様学校ではまず聞かない会話だからでしょうか。ふーりんが興味津々で聞いてきました。
「ふーりん、楽しそうですね。良いでしょう、条件を言いましょう」
期待されているのなら、ここはかっこよく決める所でしょう。
なので、それっぽい事を考えましたが、残念ながら何も浮かびません。
「分かりました。この暴走は止まりません」
「陽子さん、病院に行きましょう。学院が勧める病院なら信頼出来ますから」
荒れた心になら染み入りそうな、温かく優しい笑顔を向けてくるふーりん。
「私、おかしくないですよ!?」
「自覚が無い人は皆そう言いますよ」
異変に気付ける人が居て良かったねと言わんばかりの反応でした。
「和美さん、ふーりんがおかしいです。助けて、和美さん」
そう言って彼女の方を見ると、無言で立ち上がったかと思ったら、スススッとふーりんの横に立ちました。
ここで私は気付きました。そうです、私は裏切られたのです。
「私達、あんなに友達だって言ったじゃないですかっ!!」
「いやいや。そんなに友達って連呼してないよ」
「そう言えばそうですね。連呼した方が安っぽさが出ますし。嘘くさいですね」
和美さんの言葉に同意するふーりん。
これは完全にアウェイです。敵地です。
どうやら私は、たった一人で援軍も救援も補充も無い状況に身を置いていたようです。
「私に味方は居ないのでしょうか……」
溢れんばかりの悲しみが涙となって零れ落ちそうでした。
「あ、彼方お姉様から連絡が来たわ。皆で校舎の屋上に居るってさ」
「ならすぐに行かないと。待っていてください、お姉様~」
お姉様が待っているのなら、友情の亀裂などに構っている暇はありません。今し方抱いていた悲しみと一緒にゴミ箱へ投入です。
「ちょっと待って。お昼は? 陽子さん、お弁当なんて用意してないでしょ?」
「大丈夫です、和美さん。食欲など、光お姉様で満たせば問題ありませんわ~」
やっとお姉様に会えると、ウキウキで教室を出ようとしました。
ですが、和美さんが私の腕を掴んで離してくれません。
「陽子さん、お姉様は万能食品じゃ無いって。ふーりん、陽子さんをお願い」
私をふーりんに預け、和美さん何をしようというのでしょう。ふーりんも同じ事を思い、尋ねました。
「あなたは何処に行くの?」
「三人分の昼食買ってくる」
「なら私は玉子サンドで」
「私はミックスサンドにします」
私の逸る気持ちを汲んで、昼食を買いに行ってくれるだなんて、とても優しい友達を持ちました。後で渡す金額には、色をつけておきましょう。
「はいはい、買ってきますよー」
和美さんは注文は受けたと、教室を出て行きました。
「では改めまして、屋上に行きましょう」
「そうですね。っと、陽子さん。急いでは危ないですよっ。待ってください」
注意されても気持ちが足に出てしまい、止められません。
ふーりんには申し訳無いですが、私は彼女を置いて屋上へ向かいました。




