33 女学院でお父様に出会った
昨晩の出会いから、私の日常は変わりました。
寮で決められた起床時間よりも早く起き、身支度を済ませるようになりました。
まだ夢の中に居る和美さんに一声かけ、部屋を出ます。
今日は、期待と希望に満ち溢れた光お姉様のお世話一日目です。
お姉様のリズムを狂わせる訳にはいきません。寮の起床時間ぴったりに部屋に着くように身支度を整え、行動をします。
光お姉様の部屋まで行くと、彼方先輩が既に居ました。
「彼方先輩、おはようございます。昨晩はありがとうございました」
「おはよう、陽子さん。やっぱり来たんだね」
来ない事を期待していたかのような反応でした。
「もちろんです。お姉様のため、迷う事はありません」
「そこまで行くと、もう忠誠って感じだねぇ」
一見すると褒められているようですが、彼方先輩の反応を見ると、呆れているだけでした。
一度会っただけの人に入れ込んでいるという見方なら、先輩の反応も当然と言えるでしょう。
「それだけ、お姉様は私にとって大切にしたい存在なんです」
口に出すと照れてしまいますが、本心でした。きっと頬は、恥ずかしさで赤くなっていた事でしょう。
「所で、彼方先輩はどうしてここに? 予定もそうですけど、先輩がお姉様のお手伝いをしているのですか?」
「今まではね。今日からは後輩の手伝いさ。昨日分かったと思うけれど、今の光は薄氷のような存在なの。だから、気を付けないとすぐに壊れてしまうよ」
昨晩、光お姉様の手を握った時の事を思い出しました。
ほんの少しでも力の加減を間違えれば、先輩の言った通り、お姉様は簡単に壊れてしまいます。
「過保護に育てられたお嬢様でももう少し丈夫ですよね。お姉様、かなり筋力も落ちていますよね。去年は私を引っ張り上げてくれるほどだったのに」
「光が? ああ、そういえば……」
フナ虫に囲まれていた事にも気付かないほどに滅入っていた私を、光お姉様は物理的な意味でも引っ張り上げてくれたのです。
「懐かしい思い出です」
あの夏の海での出来事は、思い出したくない箇所はありますが、何度振り返っても良い思い出です。
「彼方先輩。あの時は、光お姉様と友達だったんですか?」
「不思議な聞き方をするなぁ。今は違うって聞こえるんだけど。それか、疑っているように聞こえるよ」
「ふーりんから聞いた話では、お姉様の味方は学院には居ないようなので」
「へえ、もう聞いていたんだ」
耳が早いと、彼方先輩は感心していました。
「はい。最初は、エミリー先輩が一番の敵だと思っていました。ですが、違いました。敵はエミリー先輩だけでは無かったのですから。話を聞いた今となっては、学院の生徒全員を敵認定しています」
私の友達二人については除外済みです。彼方先輩は、今の所、白に近いグレーです。
「それを聞いたら、エミリーが泣くよ」
「それは嬉しくて、という事ですか? あの人は私とお姉様の関係を邪魔しようとしています。泣かれようが知りません。邪魔をするのなら泣かします。誰であってもです」
私は喧嘩が強い訳ではありません。立場や生まれ的な事を言えば、エミリー先輩には絶対に敵わないでしょう。ですが、それでも立ち向かうのです。
敵対するのなら、良くしてくれた彼方先輩だって同じです。
釘を刺す意味で、私は強く言いました。
「それくらい強くないと、表立って動けないか……」
私の発言に対し、何か意味深な事を先輩は呟きました。
「どういう意味ですか?」
「陽子さんみたいに真っすぐな子なら、光も立ち直るかもしれないって思っただけ。でも、光にとって、どちらが良いのか……」
私は、お姉様が巻き込まれた事故の事は聞いただけです。
当時の背景を肌で知る先輩は、単純に処理する事の出来ない悩みを抱えているのでしょう。
「結局、先輩はどちら何ですか?」
敵か味方か。返答次第で距離が変わるでしょう。
「私は光の友達だよ。今も昔もそれは変わらないよ。陽子さん。あなたの行動力に賭けてみるよ」
「ありがとうございます、お父様っ!!」
私達の味方宣言。そして、認められた事の嬉しさとで嬉しくなりました。それと、なんだか話の内容が娘の結婚に悩む父親っぽかったので、喜びの余り抱きついたついでにそう言っていました。
「人の性別を変えるなっ」
私の抱きつきに照れつつ、彼方先輩は言いました。本当に気さくで接しやすい先輩です。




