31 逆転 掴んだ!? お姉様の傍
「陽子さん、今日はもう部屋に戻ろうか」
私が精神的にダメージを負っている事を見抜き、彼方先輩は私とお姉様を離しました。
「彼方さん?」
その行為を不思議に思ったのでしょう。先輩を呼ぶ声にハテナが付いていました。
「何と言えば良いかなぁ。夜遅くに訪ねてごめんなさい」
説明が難しいと考え、彼方先輩は消灯間際の訪問についてただ謝り、話を終わらせようとしていました。
「そう。気にしないで」
深堀せずに流すお姉様。
今のやりとりも、やはり何処かおかしいです。少なくとも、私はそう思いました。
面識が無いとしても、疑問を持ったのなら、後輩に尋ねても良いはずです。
私と衝突したエミリー先輩は、いがみ合った後だというのに声をかけてきました。
いけすかない生徒会長もそうでした。
なのに、光お姉様は違った。そうです、違ったのです。
(もしかして、お姉様は話しかけてきた相手の言葉にただ反応しているだけなのでは?)
そう感じた私は、試してみる事にしました。
「光お姉様。明日の天気は焼肉定食で晴れです」
彼方先輩と和美さんは、突然何を言い出すのかと驚いていました。
ですが、光お姉様は違いました。
「晴れるのですね」
戸惑う事無く、何も疑問に思う事も無いままに反応してくれました。
この人は壊れている。私はそう思いました。
この事実を知った今、先程までのショックを引き摺っている場合ではありません。
「光お姉様。明日から傍に居ます」
「そうですか」
良いとも悪いとも、こちらには判断出来ない反応。
「陽子さん、落ち着いて。学年が違うんだから無茶言わないで」
「学年が違うとしても、僅かな時間でも傍にはいれます。お姉様、今は妹じゃなくても良いです。一緒に居させてください。迷惑はかけませんから」
「居る事は迷惑では無いわ」
ズレた反応で返す光お姉様。どうやら、長く話しても、会話の最後の部分にしか反応しないようです。
「では光お姉様。明日の朝、お迎えに来ますね」
私は、お姉様の手を握りました。とても細い手でした。握り返す力も弱かったです。
小学生でも簡単に倒せそうなほどに弱っている事が分かりました。
極めつけは、握った際に少し手を引いただけだというのに、あっさりと倒れ込んできてしまうほどの踏ん張りの無さです。
私はお姉様を受け止めましたが、人一人の重さとは思えないほどに軽かったです。
(お姉様?)
お姉様は、自ら立つつもりが無いのか、等身大の人形がそのまま倒れてきたような状態のままで、動いてはくれません。普通なら何かしらの動きがあるはずですが、そういった意思も感じられません。
軽いとは言っても、脱力状態の人を支え続けるだけの筋力は無いので、お姉様が怪我をしないようにゆっくりとしゃがんで着地させる事しか出来ません。
一秒経つかどうかという間の出来事でした。
「光、陽子さんっ」
彼方先輩がすぐに反応し、下がる私からお姉様を自分の方へと抱きかかえました。
「陽子さん、あぶないって」
和美さんは、光お姉様を立たせる手伝いをしつつ、私が無事かを確認していました。
「ごめんなさい、光お姉様」
「気にしないで」
そう言うと、光お姉様は何かを探して自分の体を触りました。
その場所は、制服で言えばポケットが付いている箇所でした。
お姉様は今、寝間着です。なので、そこにポケットはありません。
「ちょっと待って。今用意するから。二人はそこに居て」
お姉様の行動を理解し、彼方先輩はお姉様を連れ、二人で部屋へ入りました。
「ねえ、和美さん。彼方先輩って、光お姉様とどういう関係?」
「え、嫉妬!?」
「そうではありません。同学年ですから、部屋の場所くらいは分かりそうですけど、それだけじゃない気がして」
「あたしには分からないよ。ふーりんに聞いた方が確かじゃないかな」
「そうですか。そうですね。明日、聞いてみましょう。と、思いましたが、明日からお姉様の傍に居なければいけないので、聞いておいてはもらえませんか?」
私のお願いに、和美さんは深いため息を吐きました。
「ため息を吐きたいのはこちらですよ」
新たな登場人物の声。私達は驚き、声の方を向くと、その正体に動揺しました。




