29 ムチャダメ え? 私はやりますよ
「では早速、部屋番号を教えてください」
にっこにこで、自分でも分かるほどに緩んだ表情で尋ねていました。
だって、こうなるのも仕方の無い事です。着実に目的に近付いていると実感出来ているのですから。
「釘を刺しておくけれど、彼女に無茶はさせない事。出来る?」
「お姉様に無茶なんてさせません。どんな時でもお姉様の傍に居て、お姉様の支えになる事を誓います」
ジッと彼方先輩の目を見て宣誓しました。なんだか、結婚の誓いのような言い回しに感じました。
自分で言った通り、お姉様を全身全霊で支える所存なのは確かです。
光お姉様がとても辛い経験をされ、心に深い傷を負ってしまったと知ったからには、ほっとけません。私は、あの時の感謝を返すためにも、お姉様を守ろうと思います。
「暴走行動は強い意志の現れかぁ……」
何やら先輩が気になる事を呟きました。
「陽子さん。今日は部屋の場所だけね。本当に時間無いからね」
「ええーっ」
お嬢様にあるまじき声で叫んでしまいました。時間が無くとも、一目だけでも光お姉様にお会いしたかったからです。
「じゃあ、部屋に戻る。出来ない子には教えてあげません」
「そ、それは嫌です。私、抑えます。衝動を抑えますから」
懇願に近かったと思います。これで駄目なら縋りつき、抱きつき、絡みついて頼んでいた事でしょう。
「……じゃあ行こうか」
疑念はあるようですが、それでも私の必死な訴えは、先輩の心を動かしました。
「はいっ」
満開の笑顔と全開の元気な声で返事をしました。
時間が無いという事で、早歩きで移動しました。その間に、彼方先輩に訊ねました。
「お姉様の部屋は何階にあるんですか?」
「この階の一番端だよ」
「学校では各階毎に学年が纏まっていますが、この寮ではそういう事は無いのですか?」
「部屋割りはかなり自由だね。初等部まであるし、寮も何棟もあるからね。その上、シスターになったら部屋を引っ越すでしょ。別の棟からの引っ越しもあるから、学年毎に纏めるのは難しいんだよ。そう言った理由で、寮では申請を徹底させているのさ」
「そういった事情もあるんですね。でも、歴史ある寮なのに、伝統が生まれなさそうな理由ですね」
「私みたいに姉になるタイミングの遅い人も居るからね。でも、寮に伝統が無いって訳じゃないよ。シスターは、姉の部屋に引っ越すから、それを引き継いでいくのが伝統だね」
「お姉様の部屋を代々受け継ぐ……。なんだかそれって素敵ですね」
「ただそれだけで済めば良かったんだけどね……」
複雑な表情をする彼方先輩。
寮生活の闇の一面を思い出しているのでしょうか?
「さあ、ここだよ」
彼方先輩がそう言って立ち止まりました。
朝になれば一番に日の光を浴びそうな三階の角部屋という立地に、憧れのお姉様の部屋はありました。
(憧れの光お姉様のお部屋。きっと光輝くような素敵な雰囲気に包まれているはず。そう思っていたけれど……)
現実は違いました。部屋の外見は綺麗です。寮母さんか清掃員の人が毎日掃除をしてくれているのでしょう。
私が気になったのは空気です。
風の通りが悪い訳ではありません。角部屋の角を曲がれば上下の階へ行くための階段があるので、行き止まりという訳でもありません。
空気が抜けない構造という訳でも無いのに、この淀んだ感じは一体何なのでしょう?
自分なりに推察していくと、光お姉様の部屋から出ているように感じました。
(お姉様の悲しみが部屋から漏れ出している!? これはいけないっ!!)
すぐに助けなければと、止められていたのにドアノブに手をかけていました。
「陽子さん、話が違うでしょ」
彼方先輩に止められてしまいましたが、居ても立ってもいられません。
「す、すみません。ですが……」
ノブを捻るも、鍵がかかっていたため、中に入る事が出来ません。
どうすれば中に入る事が出来るでしょう? 考えた瞬間に答えが出てきました。
「決めました。ピッキングです」




