27 始まる暴走 妹が姉に願う時
時は三十分ほど前に遡ります。
「和美さん。私、光お姉様の部屋が知りたいです」
今日の自習中にも考え続け、グツグツと煮詰めて硬くなった思いを和美さんに告白しました。
「陽子さん、顔が近いです。ついでに圧も凄いです」
辛抱出来ず、今すぐにでもと、私は和美さんに詰め寄っていました。
「あら、すみません。考え続けていたので、居ても立っても居られなくて……」
失礼してしまいました。すぐに適切な距離を取りました。
改めて和美さんを見ると、まるで恐ろしいものでも見たかのような反応をしています。
彼女は、とても恐ろしい物を見たかのように、胸に手を当て、乱れた呼吸を正そうとしていました。
(ちょっと興奮しすぎて、目を見開いていましたが、そのような反応をするほどだったでしょうか?)
リアクションが大袈裟なように思いました。
和美さんは、意外に気が小さいのかもしれません。
(なんか、体が浸食されそうな感覚に襲われて怖かった~。酸素まで奪われたみたいに息が出来なくなってたし……)
和美さんは、ようやく呼吸が整い、私に尋ねました。
「え、えっと、光先輩の部屋を知りたいって?」
「はい。お部屋に行って、もっとお話をしたいと思います。やはり、会話をせずに仲を深めるなど不可能だと思うので」
光お姉様は、過去の事件で孤立してしまっています。
孤独を好むような人では無い事は、あの海の日で分かっています。
今、お姉様はさぞや寂しく思っている事でしょう。
そこに私という話し相手が登場するとどうでしょう。光お姉様の影っていた心に光が差すではありませんか。
その光は、すぐにお姉様の心の中で大きくなるはずです。
結果、私という妹を渇望して止まなくなるに違いありません。
「自分で考えた作戦ですが、完璧すぎて恐ろしいです。フフフ……」
笑いが止まらなくなっていました。
(いきなり笑い出した……。陽子さんのキャラがどんどん崩壊していってる……。それとも仮面が剥がれ始めてる?)
和美さんの表情が引き攣っていましたが、私は自分の考えた作戦の素晴らしさに酔いしれる事に忙しいので気にしていません。ですが、何時までも笑っている訳にはいかないので、ある程度笑って気持ちが落ち着いてきた所で、再度お願いをしました。
「それでですね、お部屋を教えてください」
笑みを浮かべたまま、和美さんに頼みました。
「あ、あたし、部屋知らないけれど?」
お姉様が編入してきたのは去年なので、私もそこは理解していました。
「ええ、そうだと思いました。なので、彼方先輩の部屋へ行きたいのです」
「先輩の所に? どうしてまた」
「私が知る上級生の中で、彼方先輩からしか情報を得られないと思ったからです」
「なるほどね。確かに、エミリー先輩は絶対に教えてくれないだろうしね」
「はい。そこで彼方先輩なんです」
「いや、でも、あの人も教えてくれるかどうか」
「可愛い妹の頼みなら聞いてくれると思いますよ。照れつつ呼ぶと効果的かと」
「そんなので騙されないでしょ。やったとして、それで顔が緩んだりしてたら失望するね」
「失望だなんて、それは可哀相ですよ」
私は満面の笑みで返しました。
「ん? 妹の頼み?」
和美さんは小さな声で「あっ」と言いました。私の発言の意味が分かり、それで漏れた声で間違いないでしょう。
「では、早速行きましょう」
私は時間も無いので、和美さんの背中を押しました。
「ま、待って。一緒に来るの?」
「もちろんです。消灯時間まで猶予はありません。一緒に行った方が話は早いです」
私は抜かりないのです。今日中にセカンドコンタクトを果たしたいのです。
「で、でも、連絡取らないと。メールするから待って。部屋が汚いかもしれないし」
机に置いていた自分のスマホを取りに行く和美さん。
「では、移動しながら打ってください。さあ、さあ」
再度和美さんの背中を押し、彼方先輩の部屋へ向かいました。




