26 開けてはいけない 私が気付いた時には手遅れでした
後三十分もすれば消灯時間となる頃、彼方のスマホが突然鳴りだした。
彼女は、何かと思い、手を伸ばした。
明日の授業に関する変更ならば、遅すぎる。寮内での事故なら、外が静か過ぎる。
では、身内で何かがあったのか。数秒の間に様々な事を予測した。
手に取り、画面を確認しようとした瞬間、誰かが彼女の部屋のドアをノックした。
「こんな時間に来客? 誰かな?」
時間的に、急ぎの用事だろう。彼女は思った。
パジャマ姿だったが、そこを気にしている場合ではないかもしれないと、相手への礼儀に欠ける事を承知で立ち上がる。スマホを握ったまま、彼女は部屋のドアを開けた。
そこには最近で来た、自分の妹の和美が立っていた。
「あれ? どうしたの? もしかして……」
妹の表情が暗く、只ならぬ事態なのだと、彼女はすぐに察した。妹の身に? それとも彼女の友達の陽子の身に何かが起こったのか? 悪い可能性が際限無く浮かぶ。
「お、お姉様……」
不安? 緊張? 普段とは違う、しおらしく、弱々しく、彼方を呼ぶ和美。
冗談では無い。学院内での相手を指しての単語でも無い。自分に向けられての単語。
(何時も明るいムードメーカーなのに、これはずるい。一言で言えば、私の妹が可愛い)
気苦労ばかりで疲れるだろうと思い、敬遠してきたシスター制度。
しかし、先日の交流会で、去年の自分と同じ苦労をしそうな後輩の姿を見て、彼女は自身の中の一線を越えた。
自分にしか分からない苦労があったからこそ、同じ道を行こうとする後輩の手助けをしたい。
彼女はそう思ったのだ。
ただの後輩とは違う下級生に対し、距離感に悩む日々だったが、初めての妹は、妹という存在は、その悩みが吹き飛ぶほどに、そう、想像以上に愛でたくなる存在だった。
(いけない。きっとこんな事を考えている状況では無いはず)
エミリーに対し、もう一人の友人が言った「姉馬鹿」という単語が頭に浮かぶ。
その言葉を思い出した彼方は、何時の間にか緩んでいた表情を正し、状況に適した表情で和美に訊ねた。
「部屋に入る? お茶を飲む? 場所を変えた方が良い?」
一言だけ言葉を口にした後、物言わぬ妹を気にかける彼方。
反応が無く、和美の表情を窺うと、何故出てきたとばかりに恨めしい表情に変わっていた。
(これはどういう事? さっき携帯が鳴っていたけど、もしかして……)
この不可解な状況を理解する鍵になるかもしれないと、彼方はスマホの画面を見た。
そこには”出ないで”という四文字があった。
「和美、これはどういう事?」
理解出来ない彼方は廊下に出て、和美の肩を掴んで説明を求めた。
その時、彼方は部屋の外にもう一人居る事に気付いた。
「先輩、来ちゃいました」
テヘッと可愛らしく笑う少女。彼方は先程の四文字の意味を理解した。




