2 初会話はテクニシャンなナンパでした
ついにこの時がやって来ました。
私、佐藤陽子は死ぬ思いで勉強した結果、晴れて憧れていた聖サンブライト学院に入学する事が出来ました。
高揚する気分。一方で、慣れない空気に隠せない緊張がありました。
学院に慣れた足取りで入っていく生徒達。
右も左も、私とは違う雰囲気。ただ歩く姿だけでも育ちの差を感じ、酔いそうです。
これはもしや、お嬢様酔いなのではないでしょうか?
新語を生み出し、自分の状態を再認識してみましたが、そんな事をしても気分は良くなりません。逆に追い込まれていました。
これはもう、人気の無い場所ですっきりしたい。
(入学前から自覚はしていましたが、こんなにも生まれの差を感じる事になるだなんて……。それに、同じ世代だというのに、この違和感は何なのでしょう?)
基本が一貫校なだけあって、通り過ぎていく生徒達が良くも悪くも純真無垢な感じです。
私のような庶民や編入してきた人とは全く違うのです。
この違いのせいで、人だけでなく、目の前の校舎が高い壁に見えました。
まるで一見さんお断りならぬ、庶民さんお断りと言われているように。
「ああ、ちゃんとやっていけるでしょうか?」
心の声が漏れ出てしまうほど、不安に圧し潰されていました。
「お嬢さん、緊張しているのかい?」
私に救いの声がかけられたのは、そんな時でした。期待に胸を弾ませ、振り返りました。
その直後に同性のナンパだったと気付き、落胆しました。
何故そうだと思ったのか。とても簡単です。雰囲気で分かりました。
先程から校舎に入っていく生徒達と様子が違いました。お嬢様らしからぬ振舞いを、親しみやすいと表現すると聞こえは良いですが、初対面の私に気さくに、遠慮無く接してくる感じがいけません。私の中の対人センサーが危険だと鳴り響いていました。
「あの、間に合ってます」
言葉のキャッチボールは大暴騰。警戒する余り、言葉の選択を間違えてしまいました。
こんな訳の分からないボールを拾う物好きはいないでしょう。
これでは同性のナンパを追い払う事なんて出来ません。ですが、関わってはいけない相手だと思い、離れてくれれば幸いです。
「いやいや。かなりガッチガチだよ。その緊張、お姉さんが解してあげよう」
同性のナンパは、諦めずにグイグイ来ました。凄い距離の詰め方で私の両肩に手を伸ばしてきたのです。
「あっ」
自分では無い体温を感じ、つい声が漏れました。
「お姉さん、揉まれ慣れていないのかな?」
事実、揉まれ慣れてはいません。が、かなりの手練れなのか、この同性のナンパは気持ちいい所を的確に押してきます。先の言葉通りに私は解されていきました。
「もっとかな? もっとして欲しいかな?」
主語が無いだけで、想像次第でどうとでも受け取れる台詞が続きます。
(お、お嬢様学校の生徒って、肩揉みも凄いの?)
白昼堂々ナンパをしてきた相手を改めて見ました。動きやすさを重視してなのか、元から活発なのか。ショートヘアの似合う女の子でした。因みに、私がこうやって観察を続けている間も、私の体は解され続けていました。
「あの、そろそろ大丈夫です」
完全にふにゃけてしまったので、このままではいけないと、私は中止を求めました。
「ほんとうに~? 止めちゃって良いの~?」
本当ならもう少しして欲しいくらい気持ち良かったです。後、可能なら横になれる場所でやってもらえたら、数日前から緊張で寝られなかったので熟睡出来るかなと考えていました。
このような本心をうっかり言いそうになった時、本当の救いの手が差し伸べられました。