18 壁 再会の日
「見つけました。ようやくお会い出来ました。お姉様っ」
「え!? 噂のお姉様!?」
私の声に、和美さんの眠気が吹き飛びました。
「そうです、見つけました。私、ご挨拶してきます」
衝動を抑えきれず、駆けだしていました。
はしたない? 礼儀知らず? 今はそんな対面もしがらみも気にしている場合ではありません。
今の私の気持ちを、感謝の言葉を、お姉様に伝えたいのです。
「光お姉様っ」
私がそう呼びかけると、俯いていたお姉様は、ゆっくりと私に視線を上げました。
約八か月振りの再会です。
現在のお姉様に合う日を心待ちにしていましたが、実際に向き合うと、私は戸惑っていました。
記憶の中のお姉様と、現在の姿の差があり過ぎました。
まず、生気がありません。あの夏の頼れる姿が嘘のようです。覇気も無く、気怠いを通り越して無気力状態に見えました。
余りの変化に、考えていたあいさつを忘れてしまうほどでした。
あの夏の日から何があって、全てを放棄し、無気力に時間が過ぎるのを待つだけのような状態になってしまったのでしょう。
「光……お姉様?」
視線をこちらに向けただけで、反応が無かったので、二度目の呼びかけをしました。
今も動揺中の私は、一度目ほどの明るさでは呼ぶ事が出来ません。
「聞こえていますよ」
声にも力がありません。ですが、間違いなく、私が知るお姉様の声でした。
「光お姉様。私、覚えていないかもしれませんが、去年……」
言い終わる前に、お姉様は言いました。
「私に妹は居ないわ」
そう言うと、ポケットからゼリー飲料を取り出して口にしました。
その瞬間からです。周囲がお姉様に気付き、ゼリー姫と口にするようになったのは。
方々から聞こえてきたその単語に、悪意が込められている事はすぐに分かりました。
「陽子さん。彼女が探していた方なの?」
私に追い付いたエミリー先輩の声。出会えて良かったという風ではありません。
「陽子さん。名前を聞いてもしやと思いましたが、そうでしたか。悪い事は言いません。彼女は止めておきなさい」
エミリー先輩の言葉に、私は衝撃を受けました。ふーりんが視界に入りました。どちら側の立場になるべきか困っているようです。
「ど、どうして止められなければいけないのですか?」
ようやく出会えた方に関わってはいけないと言われ、私は苛立ちを覚えました。
「あなたを思っての事です。この場で話すには相応しくない内容です。後程説明はしますので、今は引いてください。あなたも彼女も、関わってはいけないわ」
先輩の説明で、何か事情がある事だけは分かりました。ですが、ここで引いては何時再会できるか分かりません。その焦りが私を動かしました。
「ごめんなさい、嫌です。それは出来ません」
周囲がざわつきました。
下級生が上級生に逆らった事がいけなかったのか。庶民がお嬢様に楯突いた事がいけなかったのか。
あるいは両方かもしれませんが、今の私にはどうでも良い事でした。
「エミリー、落ち着いて。いきなり止められても陽子さんには分からないでしょ。光……さんも困るし」
見るに見かねて、彼方先輩が間に入ってくれました。
「そうですね。私も巻き込まれて、とても迷惑しています」
光お姉様が表情を変えないまま、私達に冷たく言いました。
「……光さん。話はとても簡単です。ここに居る新入生の陽子さんが、あなたとシスターになりたいと言っているのです」
エミリー先輩は刺々しく言いました。よほど光お姉様が嫌いなのでしょう。
「そう。私に妹……」
私の希望を知ったお姉様が、どのように思ったのか気になります。
けれど、お姉様の表情は変わらず、何も読み取る事が出来ません。
「ごめんなさい」
たった一言。返ってきたのは、とても短い言葉でした。




