14 手がかり フナ虫を越えて
彼方先輩は思い出してくれました。一方で、思い出してくれた事は嬉しいですが、あまり喜ばしくない答えに沈む私が居ました。
「はい、あの時のフナ虫の子です」
あの頃は、今まで生きてきた中で一番精神的に落ち込んでいる時でした。
私が人生の転機を迎えたのは、そんなどん底の時だったのです。
そして、フナ虫に囲まれていた記憶は、きっと生涯を通して忘れ去りたい記憶上位三位内に位置する不動のものになるでしょう。
「それで、あの時の事で何か聞きたい事があるの?」
私にとって嫌な記憶だと察したのか、本題は何かと先輩は質問してくれました。
「はい。私、あの時に出会った人にお会いしたいんです。今も学院に居る事は分かっているんです。ですが、出会う事が出来なくて……」
頼れるのは彼方先輩だけだと、私は必死でした。
ちょっと深刻そうな表情に変わる彼方先輩。
「あの時って言うと、二人居たでしょ。私の他に。どっち?」
「髪が長くて、黒髪の……って二人ともそうでしたね。私に最初に声をかけてくれた人です。お嬢様のような外見なのに、話してみるとお姉ちゃん。いえ、姉貴という感じの」
お互いに知っている人物である事を前提にした説明をしました。お互いの立場や距離感などの関係性で話し言葉や接し方は変わるでしょう。けれど、私を思い出した彼方先輩なら、あの場に居た先輩なら、きっと誰の事を指しているか分かるはずです。
「ああ、分かったよ。そうだね、確かにまだ学院に居るよ。彼女は私と同じ二年生」
「本当ですか!? 良かった。ずっと会いたかったんです。以前に一度だけ見かけたんです。それ以来、見かける事が無かったので、幻だったのかと不安だったんです。良かった。違ったんですね」
ようやく求めていた情報を掴み、再会まであと一歩という所まで来たので、私はもう嬉しくて嬉しくてはしゃいでいました。
「陽子さんは、あの時の光と出会って学院を目指したんだ?」
「はい、そうです。姉貴さんは、光お姉様と言うんですね?」
「お姉様って。もしかして、シスターになりたいの?」
「はい。もし叶うならそうなりたいです。あ、もしかして、既に妹が居ますか?」
何時ぞやのふーりんの反応を思うと、複数の妹は評判が良くないらしいので、心配になりました。
「ううん。彼女は一人だよ」
「良かったぁ」
複数人でも可能とはエミリー先輩の談でしたが、お姉様がまだ一人である事に、私は喜んでいました。
私に道を示してくれた人ですから、お傍で多くの事を吸収したいと考えています。
きっと、光お姉様なら庶民の私でも受け入れてくれるでしょう。
私が安堵している一方で、彼方先輩の表情は暗いものでした。
何か、苦慮しているようでした。
「あのね、陽子さん」
「はいっ、何でしょう」
表情の変化には気付いていましたが、彼方先輩が何故そう振舞ったのかが分かりません。
この時の私がその理由に辿り着く事は無く、それを知るのはもう少し後の事でした。
それよりも、この時の私は、事態が一気に動くという期待感で一杯でした。
これはもう、今日中に出会えるかもしれないと、感情の高ぶりが抑えられなかったのです。
「とても言い難いんだけど……」




