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さあ、ワルツを  作者: 鰤金団
目覚めの光 姉との記憶
116/182

116 彼女の望む私

「あ、エミリー先輩、階段の件を謝罪していませんよ。もう、なんて失礼な人でしょう」

 陽子さんが思い出し、呼び止めるも、二人は既に部屋の外。

「謝罪も何も、あれは私自身の問題だっただけ。エミリーは悪く無いわ。その辺りの誤解、ゆっくりと解いていくわね」

 咄嗟の行動が尾を引いているのは分かっていた。エミリーのためにも、この子との蟠りを解いていかないと。


「お姉様の傍にいられるのなら、もっと拗らせたいです。解けないくらいに」

 私の横に来て、今度は猫のように身を寄せてくる陽子さん。

(この子、かなりの重症だわ……)

 もしかしたら、この子がエミリーを敵視しているのは、同族嫌悪なのかもしれない。

 彼女の私への執着ぶりは、かつてのライカに対してのエミリーを思い出させた。

 目覚めたばかりの私にとっては、あの夏の日以来の再会も同然なのに、今ならライカの気持ちが分かる気がする。

 慕われる事は嬉しいけれど、これは中々に疲れる。


「それにしても、彼方先輩も部屋を出る時は変でしたね。何か言っても良いはずなのに、無言で頷くだけでしたし」

「ああ、二人は限界だったのよ」

「限界、ですか?」

「そう、限界」

 彼女達は、後輩が居たから耐えていた。彼女らなりに体面を気にしていたのだろう。

 ライカが死んだ後の事が思い出された。

 目覚めた私は、まともに食事が出来なくなっていた。

 点滴で命だけは繋いでいたけれど、エミリーがこのままではいけないと動いた。体が慣れるようにと、少しでも固形物がある食事を。またはその代わりになる物を食べさせないといけない。そう考えた彼女は、必要な栄養素を詰め込んだゼリー飲料を、家族や会社に直談判して作ってくれたのだ。

 新商品なんて、開発にはかなり時間がかかるだろうに。それに、商品化が成功したとしても、私には買い続けるほどの金銭的な余裕は無かった。そこでエミリーは、私を健康管理も含め、モニターの第一号にするという条件で、無償提供出来るようにしてくれた。

 そんな背景があるから、私がおかゆだとしても、固形物を口にした姿を見て、堪えきれなくなったのだろう。

 毎日欠かさずお世話をしてくれていた彼方もそうだ。私が目を覚ましたと知ると、目が潤んでいた。エミリーのおかゆを食べたのを見て、私が戻って来たと思ってくれたのだろう。

 エミリーが背を向けた時、彼女が彼方の制服を少し摘まんでいたのを、私はしっかりと見ている。

 お互いに、自分達のやってきた事が実ったのだと実感したのだろう。今頃二人は、どちらかの部屋か、人気の無い寮の片隅で泣いているかもしれない。

 二人には、感謝してもしきれない。


「陽子さん」

 私のやる事はまだ終わらない。山積みの問題の足掛かりとして、後輩の女の子を呼んだ。

「どうしました、お姉様」

 現状に不安がある私は、彼女の姉になる事は無い。と散々言っても彼女は聞く耳を持たないだろう。

 そんなに聞き分けの良い子なら、こうも何度もお姉様と呼びはしないはずだから。

「陽子さんはこれから、どんな風に私に接して欲しい?」

 彼女は私に、何度か最初の出会いの話をしている。だからという訳では無い。

 今も以前と変わらないつもりではあるけれど、今の私は弱っているし、目覚めたばかりだ。

 正気に戻ったは良いけれど、当時とのギャップを感じ、失望されたくないと思っていた。

 今の私は、あの海での出会いを覚えている。そもそも、あの出会いを忘れていたら、それはそれで自分に異常があると確信を持って言える。

 私が彼女に尋ねたいのは、とても単純な話だ。

 正気では無かった時のお嬢様的な振る舞いをしていた私が良いのか。それとも、あの頃の私が良いのか。知りたかった。


「お姉様は不思議な事を質問しますね」

 彼女は、妙な事を聞かれたと驚いていた。私も、妙な質問をしている自覚はあった。

「そう思うのも当然ね。あなたが、私をどのように見ているのかを知りたくなったのよ。参考に聞かせて」

 彼女の求めている姿を見せ続ける事が、今の私に出来る最大限のお礼だと思っていた。

 そんな私に対し、彼女はこう答えた。

「それでしたら、自然体でいてください」

 私は、キリッとした姿や、お上品な姿。それこそ、姉御として振舞う事を望まれるかもと考えていた。だから面食らい、聞き返してしまった。

「自然体?」

「はい。参考にするという事は、そのように努めるという事ですよね? 毎日、一人の時を除いて、何時でも何処でも外用の振る舞いをしていたら疲れてしまいます。お姉様が必要とするなら、その時は学院の生徒としてあるべき振舞いをすれば良いと思います。部屋に居る時に、溶けた雪だるまのように潰れていても、私は良いんです。私は、どんなお姉様でも受け入れますから。それに私は、海でのお姉様しか知りません。今なら記憶も、かなり美化されているでしょう。ですが、それ以前のお姉様があったからこそ、私が憧れるお姉様があるんです。なので、お姉様は以前のように、お姉様が思うように振舞ってください。なので、自然体でいてください」

 私が想定していた事よりも高く、難しい事を言われてしまった。

「なら、今まで通りでいきましょう。陽子さんに失望されないようにね」

 彼女はとても良い子だ。そして、今の私には勿体無いほどの支えだ。

 私が居る間は、学院内でも彼女が彼女のままで居られるように頑張りたいと思った。


「これから、私の知らなかったお姉様を見れると思うと、とても楽しみです」

 天井を突き抜けた期待に不安は覚えるけれど、陽子さんはとても楽しそうだ。

 少しでも早く、彼女を助けられるようになろう。

 支えてくれる彼女のため、全力を尽くそう。

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