114 友達との再会
「落ち着いて。ただ抱きしめられてるだけよ。そんな事言い出して、汚れたのは彼方の方じゃないの?」
「嫌だなぁ。私は年相応に成長を……」
発言の途中で、私を二度見する彼方。
「本郷さん、二度見とは失礼じゃない?」
「呼び方っ。え? 何? どういう事?」
「驚くなと言っても無理そうね。何といえば良いのか……。一応、目が覚めたのよ」
こんな時、どう表現するべきか悩んだけれど、これできっと伝わるはず。
「え、本当に? 頭を打ったから? 階段から落ちたから? 叩いたら直るという伝説の何かみたいに?」
「伝説になるのは悪くないけれど、家電と一緒にしないで欲しいわ」
私に対しての反応が随分過ぎる。
「その反応、今までじゃ出来なかった。という事は……」
彼方が乙女っぽく、両手で口元を覆う。
その時、ドアをノックする音がした。また誰かが来たようだ。
「彼方、ドアを開けてくれませんか」
また懐かしい声。卒業はしていないはずだけれど、同窓会という単語が浮かんだ。
「しまったぁ。陽子さんを隠す暇が無かった」
どうやらそのために一足早くやって来たらしい。彼方らしい気遣いだ。
「待たせるのもいけないから、彼女を入れてあげて。彼方」
「その状態でも?」
幸せそうな表情で、抱き枕状態の私に抱きついている後輩について尋ねられた。
「ええ、この状態でも。お願い、彼方」
今の私では引き剥がせないから、されるがまま、成すがままにするしかないのだ。
「へへ、何だか名前を呼ばれるって良いね」
名前を呼んだ程度でそんなに喜ばれるなんて……。こちらも照れ臭くなる。
「ごめん、ごめん。待たせたね」
「両手が塞がっているのだから、頼みますよ」
やり取りの後、二つの足音が近付いて来る。ちょっと緊張してきたかも。
「目を覚ましたのですね。良かったです。それで、陽子さんは、何故あのような表情で抱きつているのですか?」
取っ手付きのトレイを両手で持ちながら、彼女は訊ねた。
「ああ、うん。それだけ光が目を覚ましたのが嬉しかったって事だよ」
「あら、彼方も目が潤んでいますね。心配だったのは私も同じですけど、大袈裟ではありませんか?」
きっと、ただ私が目を覚ましたというだけなら、二人もこんな反応はしなかったと思う。
彼女の反応に、少しいたずら心が湧いた。
「そうよね。私も大袈裟だと思う。エミリーは変わらなくて良かったわ。流石お嬢様ね」
「変わるも何も、先生はただ気を失っているだけと仰っていたので……」
大きな音を立ててトレイが揺れる。危うく落としそうになる所を、彼方が支えた。
「おっと。これは私が預かって置こうねー」
動揺するエミリーから、さっとトレイを預かる彼方。
「おはようございます、光」
「エミリー、時間的にこんにちはじゃない?」
「会話……出来て……」
驚き過ぎて、全身が震えだすエミリー。
おぼろげにある記憶を思い出すと、日々の生活を支えてくれていたのは彼方で、命を繋いでくれていたのはエミリーだった。一番にお礼を言うべき相手だ。
「エミリー、私のために会社にまで掛け合ってくれたんでしょ? 本当にありがとう」
頭を下げると、その行動が理解出来ないと、陽子さんが怒った。




