112 重い体 眠る面白い後輩
意識がとてもはっきりしていた。こんなにもはっきりと周囲を認識出来ているのはどれくらいぶりだろう。
しかし、体は自分の覚えている感覚よりも遥かに重い。自分の体だというのに、上手く操る自信がもてない。
こんなにも酷い状態なら、ここは病室だろうかと不安が過った。
しかし、ぼんやりと学院で過ごした日々の記憶があったおかげで、見つめていた天井に覚えがある事に気付けた。
目を動かし、周囲を見た。やはり、場所に覚えがあった。ここは私達の部屋で間違い無いようだ。
場所が分かると、自分について考える事が出来た。
一番新しい記憶を探ると、階段へと倒れる寸前の記憶だった。
慎重に思い出し、本当に最新の記憶なのかを確かめる。
(大丈夫、間違い無い)
とても時間が経っている感覚はあるけれど、振り返っても、ほとんど記憶が無い。
それでも考え続けていたら、すぐに頭が疲れてしまった。よほど使っていなかったのだろう。
どうやら私の心身は、酷く錆び付いているらしい。何故こんな事になったのか。
詳しい原因となる記憶は、ぼんやりしていて思い出せない。
きっかけは分かっているのに……。
私が最後に満足に体を動かせていたのは何時だっただろう。
振り返ると、最後にライカと出かけた時だった。
「最後……」
口にした言葉は、酷く心に重く圧し掛かった。ライカに突き飛ばされた所で記憶が途切れている。
弱り切った今の私なら、これだけで粉砕されそうな気がしたけれど、意外と大丈夫だった。
「声……」
私以外の人の声。これは寝息だった。どうやら精神と肉体以外にも、認識や感覚まで衰えているらしい。
自分の手に視線を移す。眠っている彼女が、ずっと私の手を握ってくれていたのだと、今、やっと気付いたのだから。
何とか自分の体を起こすと、その動きで彼女が目を覚ました。
「おはよう。体は痛くない?」
椅子に座り、上半身をベッドに預けて眠る姿勢は、背中や腰に悪いはず。どれほどの時間そうしていたのかは分からないけれど、心配だった。
「はい。眠ったのは少しだけだったみたいです」
寝起きの目を擦り、私の方を見る彼女。
(この子の顔、声、覚えてる。思い出した記憶の中で、度々この子が出てきていた)
ライカが居なくなった後の記憶。その中の大半に彼女の姿があった。
「助けてもらって言うのもあれだけど、人一人を受け止めるなんて危ないわ」
「心配してくれて嬉しいです。でも、お姉様の為なら何でもします」
「お姉様では無いのだけれど……。体や頭は大丈夫だったの? 怪我は? 一生ものになってない?」
手が重いので、触れる事が出来ないのがもどかしい。自分のために動いてくれたこの子のために、私は言葉以外で案ずる事が出来なかった。
「ちょっとたんこぶが出来たくらいで、他は大丈夫でした」
「そう。私のために大怪我をしなくて良かったわ」
覚えている記憶からも、彼女の言動から、私のために無茶をする事は分かっていた。だから、とにかく彼女が心配だった。
「あ、あわわわわ」
安堵したのも束の間。彼女は、突然、ギャグマンガのような反応をし始めた。




