111 シスターになった日 今を越えて
将来を思えば、穏便に三年間を過ごして卒業したかった。けれど、既に叶いそうも無い。
今回の事で、広く浅いコネ作りも不可能となってしまった。どんな時でも、手持ちのカードで勝負する他無いのだけれど、そのカードが余りにも悪すぎる。
このままシスターの誘いを断れば、全裸状態でジャングルをさまようようなもの。
残り三年をそんな状態で過ごすなんて、死亡確定ルートに入るようなものだ。
考えると、これは避けなければならない。
しかし、このルートを回避するためには、苦渋の決断をしなければならなかった。
「……あなたなら、私の壁になってくれるって言うのね?」
大量の苦虫を嚙み潰した表情で、ライカに訊ねる。
「そうよ。何からだって守ってあげる。シスターとはそういうものよ。だから、学院で二人も妹は持てないのよ」
「はぁ……。随分と強気な事で。ただの学校の制度だっていうのに」
「学院の歴史を振り返れば、ただの制度じゃないのだから仕方ないじゃない」
この自信たっぷりなお嬢様が言い分は分かった。
「はいはい。それじゃあ、存分に守ってもらいましょう。ええっと、シスターになった人の事は何といえば良いんでしたっけね?」
覚えているが、口にしたくない。だから知らないふりをした。
「お姉様よ。早速呼んでみて」
ライカは楽しそうだった。
「はぁ。お姉様、これからよろしくお願いしますね」
汚物に触れるような感じで、私は手を伸ばした。
「駄目ね。やり直し」
むくれた表情で要求してきた。年上の癖に、子どものようだった。
「はぁ? あなたが言えと言ったんじゃない」
「名前が抜けているのよ。さあ、もう一回」
駄々っ子のように、ライカは急かした。
「この性悪め。……ライカお姉様、短い間ですけどよろしく」
「ええ、可愛い妹が出来たわ。歓迎するわ、光。あ、二人の時はお姉ちゃんでも良いけど、どうする?」
満面の笑みで、彼女は私の手を強引に握った。私は、握手と言う形で渋々これを受け入れた。
「絶対嫌です、お姉様」
更に要求してきた彼女の願いを、私は攣った笑顔で断った。
これが私とライカとの日々の始まりだった。
そして、私が学院の全員から良くも悪くも注目される日々の始まり。
騒がしく、迷惑で疎ましくも、意外に充実した日々の始まり。
色々あったけれど、思い返すとその色々の数だけ、不本意ながらもライカとの思い出は大切なものになった。
本当は、何時までも懐かしさに浸っていたい。けれど、いい加減、そろそろ夢から覚めなければならない。
私の心に強く訴えかける変わり者の為に。あの日の子が、私を追いかけて来てくれたから。
目を開け、カーテンを開ける時が来たんだ。




