11 誘いと片鱗 一瞬の再会
と、皆さんを観察し、あれこれ考えている場合ではありません。私は今、自分の心が圧し潰されそうになっているのですから。心、大事。
このままでは心労で、入学早々に病院へ向かいそうです。
「こんな時にですけど、陽子さん。あなたはシスター制度を利用するつもりなのかしら?」
本当にこんな時にでした。この状況で、エミリー先輩は何故、制度の話をしたのでしょう?
「お相手が見つかれば、その時には……」
編入生で庶民な私です。妹にしようだなんて人が居るとは思えません。一応私にも望む相手が一人居ますが、出会えるか分かりません。
彼方先輩が居たので、可能性はゼロではありませんが、既に妹が居る可能性もあります。
ですが、もしあの人がまだ一人なら、あの人の妹になりたいとは思っています。
「そうですか。ではもし、お相手が見つからないのであれば、その時は私が姉になりましょう」
弱った私の心臓に、更に追い打ちをかける嬉しい一言。
この誘いは嬉しいものでしたが、初対面でこれだけ精神的に消耗するような方をお姉様として慕う事が出来るでしょうか? そして、私の体は持つのでしょう?
現状を考えると、私が壊れてしまう未来しか想像が出来ません。
それと気になる事があります。
妹が居る場合、もう一人追加しても良いものなのでしょうか?
こんな状態でも思う疑問の答えは、ふーりんの反応で分かりました。
「お姉様。私との関係を解消するというのですか?」
修羅場みたいな台詞を言うふーりん。
気のせいでは無く、雰囲気も怖いです。
「フレデリカ、落ち着きなさい。誤解や禍根の無いようにこの場で説明しますから」
不穏な空気を感じたのか。はたまた、こうなる事を予測してか、先輩が言いました。
ふーりんの誤解を解くのはとても重要ですが、その前に一言言いたいと思いました。
「先輩。私、今すぐにでも部屋で休みたい状態なんです」
私の精神ダメージが酷いので、これを言って戻りたかったのですが、現実が拒みました。重苦しい空気の中で、これを言える強者になりたかった。そう思いました。
「シスターは、絶対に二人一組という訳ではありません。そうでなければ、シスター制度を利用したい学生があぶれてしまうでしょう」
「確かに、禁止とはなっていません。ですが、妹を何人も持とうという方は居ませんよ」
「確かに、今はそのような人は居ないわね。ですが、本来のシスター制度を思えば問題ありません。今の学院内に、そのような風潮が無い事も確かです。ですが、初等部からの生徒は皆、自然とランク付けをしています。家の企業のランクが物を言う。そのような事は良くありません。フレデリカ、私は心配しているのよ。陽子さんにシスターの誘いをする人が、もしもランク付けを絶対視している相手ならと。陽子さんは酷い扱いを受けてしまうでしょう。焦りの結果、陽子さんが酷い目に遭う事が無いようにしたいのです。陽子さん。繰り返しますが、もし相手が見つからなくて焦ったとしても、気の進まない相手とシスターになろうと考えてはいけません。あなたが姉を必要とするのなら、私がなりましょう。私に不安を覚えているのなら、フレデリカに話を聞くと良いわ。フレデリカとはもうすぐに一年になるので、どのような不安にも答えてくれるでしょう」
どうやら外の世界を知らない純粋無垢な人ばかりだと思っていましたが、村社会と言えば良いのか、ドロドロしているようです。
それにしても、出会って三十分も経っていないというのに、まだ根すら伸びる前の不安の種をごっそり収穫してくれるだなんて、エミリー先輩はとても良い人のようです。
妹の友人というだけで、ここまで気遣ってくれるのも嬉しいです。
彼方先輩もそうでしたが、エミリー先輩も素晴らしい人なのでしょう。
「分かりました。お姉様は、そこまで考えていたのですね。私はてっきり浮気かと」
「人聞きが悪いわね。姉妹の関係で浮気なんてないでしょうに」
「そうですけど……。この場合、それに匹敵する行為だと思ったんです。お姉様だって、一度は疑った経験がありましたよね?」
小さな子どもがむくれるのと同じ行動を取るふーりん。
「それは昔の話です。とにかく、これで誤解は解けたかしら?」
「はい、お姉様。陽子さんも、どんどん頼って構いませんからね」
「その時はお願いします」
修羅場が終わりました。気付けば、私の気持ちも落ち着いていました。
先輩の人柄が見えたおかげでしょうか。もしくは、優しい人達ばかりで、この場に居やすくなったからかもしれません。
「陽子さん。その時はよろしくお願いしますね」
エミリー先輩が手を差し伸べてくれたので、私も先輩の手を握りました。
「はい。その時はよろしく……」
言い終わる直前でした。エミリー先輩越しに見えた、テラスを歩く一人の生徒の姿に視線が固定されたのは。
「陽子さん?」
「あ、ごめんなさい。その時はよろしくお願いします」
握手をした後、私はもう一度エミリー先輩の後ろを見ました。
(居ない……。幻? それとも今のは……)
真相は分かりません。ですが、私は確かにあの人の姿を見ました。




