107 抵抗と同情
「待ってください。シスターになるつもりは無いですよ。だからエミリーとシスターになってください」
こんな事で有名人になりたくはない。この状況は、私にとって最悪だ。同居相手を奪ったなどという悪評を付けられては堪らない。
私は、自分が動いた訳じゃないと周囲に訴えかけるのに必死で、エミリーを呼び捨てていた事に気付けていなかった。
そして、それがエミリーの悲しみを怒りに変え、更に油を注いで燃え盛る事に繋がった。
「ライカお姉様に求められた途端、呼び方を変えましたね。 私を下に見ましたね!?」
「え、ちが……。今のはそういう事じゃなくて。動揺してつい……」
こちらには喧嘩をする意思など無い。一方的な怒りを向けられ、説得も満足に出来ずにいた。
「それは嘘ですね。ライカお姉様に素っ気ない態度を取っていたのは、私を騙すための演技だったんですね。誘われると分かっていて、なんて酷い事をするのでしょう。私はさぞ滑稽に見えた事でしょうね。優越感は満たされましたか?」
「待って。私も突然の事で驚いてるんだから。ちゃんと話を聞いて」
「まだ演技を続けるんですか。白々しいっ」
被害妄想が酷過ぎて、エミリーは私の言葉を一切聞いてくれない。困った私は、ユミリア先輩に助けを求める事にした。
「先輩、ルスウィンさんを止めてもらえませんか? 私ではどうする事出来ません」
「ごめんなさい。一度思い込んでしまったら、ガス抜きをしないと冷静になれない子だから」
つまりは、このまま私にサンドバッグになれという事らしい。
先程見せた姉の威厳を、ここで発揮してほしいのだけど……。
こうなったら、こんな状況にした張本人に収集を付けさせる他無い。
「ちょっと、あなた。責任取りなさいよ」
謂れの無い罪で余裕が無くなり、私は先輩だろうと関係無く文句を言った。
「そうね。出来たばかりの妹を困らせ過ぎても駄目よね。そうしましょう」
平然とした様子で話す姿が腹立たしい。
「エミリーちゃん。お願い、話を聞いて」
ライカはそう言いつつ、荒ぶるエミリーの両肩に自分の手を置いた。そして、自身の胸にエミリーの顔を押し付けた。
すると不思議な事に、途端に猛獣は大人しくなった。
「こんな幸せな事をしてもらえるなんて嬉しいです。ですが、嫌です。私、ずっとずっと楽しみにしていたんですよ。この日を」
泣きそうな、いや、話しながら泣き出すエミリー。彼女の純粋な思いに、私も胸が痛くなった。
「ごめんなさい。私もね、エミリーちゃんを妹にと考えていたわ。でもね、光を見て思ったの。彼女を一人には出来ないって」
どの瞬間からそんな事を思ったのか。そこを詳しく知りたい。
「ライカ様。彼女は一人ではありません。普段から、私と一緒に居ます。それに、あそこに居る人もついでに」
エミリーの、彼方に対しての扱いが酷い。
「私の扱いが相変わらず酷いんですけど」
彼方も同じ事を思い、抗議したけれど、この場では無視された。
「ありがとう。でもね、同級生では出来ない事があるのよ。そして、それが出来るのはこの学院では、私だけなのよ」
とても自意識過剰な事を言うライカ。私は彼女を高く評価していなければ、心の支えとも思っていない。なので、この発言には納得出来ない。
憤慨していると、ユミリア先輩がエミリーに近付いた。
「エミリーちゃん。ライカさんの想いを尊重してあげて」
「お姉様まで……」
ここで、先程まで役に立たなかった実姉の立場を使う先輩。
ガス抜きは済んだという事だろうか。
なんにせよ、年上二人にここまで言われては、エミリーも抵抗を続けるのは難しそうだ。
私としては、自分の立場が危うくなる結果を回避したい気持ちが八割だ。残りは、これでもかと待ち侘びていた彼女の願いが優先されてほしいという気持ち。彼女を全力で応援したい。
けれど、彼女は私が応援したら暴れ出しそうで、私には何も出来ない。
言葉に出来ず、もどかしい思いをしながら見ていると、渋るエミリーに対し、ライカは言った。
「勝手を言っているのは分かっているわ。本当に申し訳無いとも思っているの。誤解が無いようにこれだけは言わせて。光とシスターになった後でも、私達の関係は今までと変わらないわ」
私には、二人の付き合いがどれほどのものなのか分からない。
だから、今の言葉でエミリーに何割の気持ちが伝わったのかも分からない。
けれど、ライカの言葉を卑怯だと思った。ライカを慕っているエミリーがこれを聞いたら、関係を壊さない選択を選ぶに決まっているからだ。




