106 視線 番狂わせ
「会の挨拶は生徒会長がするのね」
「そうそう。で、後ろに居るのが生徒会の役員だよ」
彼方の説明を聞き、私はメンバーを見た。
この学校の生徒会は、前年度に決めてしまうそうだ。
顔触れは卒業するまでほぼ変わらないらしい。
一貫校ならではの特殊さだろうか。
生徒会に入り、上級なコネを得る事も考えていたけれど、そういった制度なら今年は狙えない。彼方の話を聞くと、生徒会メンバーにはかなり強い結束がある様子。既に構築された人間関係を切り崩せるほど、私は言葉巧みな人間では無いので、生徒会入りは無理そうだ。
まあ、そもそもの話で、初等部から居るような生徒達の中で立候補をして、いきなり入ってきた私が選ばれる訳が無い。それに加え、来年は高等部二年だ。
受験に備えなければならない。より高い場所へ行くためには、コネも大事だけれど、知識の方も蓄えておかなければいけない。
総合的に見て、部活よりも仕事も負担も多いであろう生徒会をやるには、条件が悪かった。
話を聞きながら、その事を思い出していると、一人の役員と目が合った。
(あの子は同じクラスの子ね。まだ入学してから間もないのに一年生の役員が居るって変な感じ)
普通は中学から高校に切り替わると全てが変わって大変だ。けれども、一貫校では学年が一つ上がるだけ。学校での生活リズムにさほど変化が無いから出来るのだろう。
彼女を見つめ、そう考えていた。
目が合った彼女は、周囲を一瞥する中の偶然だったのだろう。すぐに正面を向き、会長の言葉が終わるまで動く事は無かった。
「……それでは皆さん。良い出会いが生まれる事を願っています」
生徒会長のあいさつが終わった。
これで私は参加した事になった。部屋に帰る前に、美味しそうな料理でお腹を満たしておこう。そう思い、私は料理があるテーブルに足を向けた。
「光、ちょっと待ちなさい」
ライカ先輩が、何故か私を引き留めた。
「何ですか? 私は手早く食事をして帰るつもりなんですが」
相手をする気は無いと、素っ気なく返すも、彼女は躊躇いなく距離を詰めてきた。
「その前に、帰る部屋はちゃんと分かっているの?」
まるで人を小馬鹿にしたような台詞にムッとした。
「初等部の低学年じゃないんです。それくらい分かりますよ」
「そう。なら良かった。けれど、鍵は持って無いわよね」
何を訳の分からない事を言っているのだろう。そう思っていたら、彼女は自身の制服のポケットから鍵を取り出し、その腕を私の方に伸ばした。
「はい?」
理解が追い付かず、私は間抜けな声を出していた。
「え? どうしてですか、ライカお姉様っ」
理解出来ず、きょとんとしている私とは違い、エミリーが激しく動揺していた。会場に居た生徒達が皆、こちらを向く。そして、ざわつき始めた。
私はまだ、どうしてエミリーが、突然大声を出したのか分からずにいた。
「ごめんなさい、エミリーちゃん。彼女を見過ごせなくて」
流れ的に、何かを反故にしようとしている状況らしい。
「約束。約束していたじゃないですか。なのに、どうして平野さんを選ぶんですかっ」
(選ぶ? 選ぶとはどういう意味だったっけ? この場での選ぶって? ああ、ここはシスターを選ぶ場所だったんだ……)
頭が情報の整理を終えた時、自分が置かれている状況を理解した。
「ええっ!? どういう事なの? あなた、どういうつもりなの!?」
エミリーがずっと憧れていた相手の行動が理解出来ない。彼女が、今日という日をどれほど心待ちにしていたか。私は、出会った時から知っていた。だから、ライカ先輩が私を選ぶ意味が分からない。選ばれるような接し方もしていない。
「これはこれは、開始直後に驚きの展開だわ」
茶化している訳では無く、本郷さんは本当に驚いていた。
「私も、突然の事だったから、本当に驚きだわ」
ユミリア先輩だけが驚きに余裕が見られた。事前に聞かされていたのだろうか。
私達が会の主役のような状態になり、全員の視線が向けられているのが辛い。




