104 苦難の日
最初から姉も妹も持つ気の無い私と彼方。そして、既に相手が決まっているエミリーの三人で会場にやって来た。
「お姉様。ライカお姉様、こちらです」
エミリーが顔見知りを見つけ、相手に声をかけた。
今日のエミリーは、いよいよライカ先輩との共同生活が始まると、ワクワクの余り、浮足立っていた。
エミリーに呼ばれ、二人がやって来た。一人は私も知るライカ先輩。もう一人は、エミリーと重なる部分はあるが、彼女よりも表情筋も物腰も柔らかい印象の人だった。
「本郷さん。あちらのルスウィンさんそっくりな人はもしかして?」
「そうだよ。エミリーのお姉さん」
やはりそうだった。
「彼方さん。元気そうね。そちらの方は始めましてね。ユミリア・ルスウィンです」
「は、始めまして。平野光です」
エミリーが悪役の似合いそうなお嬢様なら、ユミリア先輩は物語の主役を張れる善良なお嬢様と言った所だ。
王道の物語の主役が合いそうな雰囲気を持つ彼女は本物だろう。
そして、エミリーとユミリア先輩は一つしか違わないはずなのに、一年の差がこれほど天と地を分けるのかと驚かされた。
「あなたが平野さんでしたか。エミリーとはこれからも仲良くしてあげてね」
軽く会釈しつつの挨拶。
妹の友人という認識だからだろうか。いや、彼方から聞いた人物像からすると、立場は関係無く、先輩はこういう人なのだろう。
「こちらこそ、仲良くしてもらいたいです。ユミリア先輩」
畏まる私に、ユミリア先輩の隣りでこのやり取りを見ていたライカ先輩は、クスクスと笑っていた。
何を笑っているのかと視線を向けると、彼女は気付いてこう言った。
「ごめんなさい。光ったら、借りてきた猫のようだったから。私にも同じようにしてみて良いのよ?」
内面はともかく、ユミリア先輩と比べると、外見的にはライカ先輩の方が大人に見えた。それでいて、笑うと幼さを感じさせる。世の男が見たらギャップに填まりそうだ。
と、そんな感想は置いておいて、二度目の出会いだというのに、彼女は距離感を詰めた接し方をしてきた。私には、何故こうも旧知の仲みたいな接し方をしてくるのかが分からない。
「そうですか。では、私はこれで部屋に戻りますね」
同じ場所に居るだけでも緊張で耐えられない、という体で離れようとしました。
「駄目よ、光。まだ会は始まっていないのだから」
私の肩に触れ、彼女は引き留めた。
このやり取りに、ユミリア先輩は羨ましそうに言った。
「二人はすっかり仲良しね。私、二人みたいな関係に憧れがあるんです。萎縮されるよりも、そんな風に気さくなやり取りが出来る先輩になりたいわ」
今のやりとりをどの角度から見れば、先輩のような感想が言えるのか。調べてみたくなった。
「あなただって、相手に言えば出来るでしょう。それに、これは光がひねくれてるからよ」
この人は、一体私の何を知っているというのか。私達のやり取りに、エミリーが嫉妬しているじゃない。勝手に不協和音を作らないでもらいたい。
「平野さん。良ければ私と、ライカさんのように接してもらえないかしら?」
一度で良いからと、先輩が求めてきた。
普通、私達のやり取りを見て、自分もしたいとは思わないと思うのだけれど……。
それに、私がヘドロなら、ユミリア先輩は聖水だ。私と混ざってはいけない。私では到底なれないほどに、先輩は澄んで見えるから。
そう思うほどに、生まれ持った物が違うと痛感していた。
「ユミリア先輩。初対面という事で許してはもらえませんか? 今まで出会う事の無かった人達に囲まれているので、どうしても緊張してしまいます」
頼まれたからやったと言っても、こんな慈愛の権化みたいな雰囲気の人に、ライカ先輩と同じ態度を取っては、後々何が起こるか分かったものじゃない。
「それはごめんなさい。けれど、少しずつでも慣れていってもらえたら嬉しいわ。それで、何時かは、二人のようなやり取りをさせてもらいたいわ」
最後の頼みは多分一生聞けそうに無い。
けれど、気遣いも優しい。彼方が言う通りで、皆に実姉のように思われるのも頷けた。




