102 姉馬鹿
油を撒いた手前、私がどうにかしなければならない。
「あ、あー。そうだ。シスター。シスターになるような先輩か後輩は二人には居るんですか?」
今日が初めての相手でもどうにかなりそうな共通の話題を考えた結果、シスター制度の話を捻りだした。
「朝にもお話しましたが、私は去年までは実姉としてましたよ。今年からは違うんです」
「ライカ先輩となんですよね」
「はい、そうです」
エミリーは、心底嬉しそうに答えた。
彼女は、心酔レベルでライカという人の事が好きらしい。
第一印象は悪くは無かったけれど、接した結果、私はどうにもあの人の事を好きになれそうにない。
「本郷さんはどうなんです?」
「私? 今年も相手は居ないよ。私はあんなに凄くはなれないからね」
「本郷さんは、よほど立派なシスターを知っているんですね。どのような人だったんですか?」
まだ何時間も交流はしていないけど、彼女が気配り屋だという事は分かる。そんな子が凄いというだなんて、どんな人なのか気になった。
「エミリーさんのお姉さんがね、皆から慕われてるんだよ。あれはシスターっていうより、姉って感じかな」
「シスターではなく姉ですか?」
「うん。私と同年代より下の子はそう思ってる子が多いよ。入学して間もない子や、相手が居ない子の面倒をね、見てくれてるんだ。私も初等部の頃からお世話になっていたから、自然と本当の姉みたいに思っちゃうんだよね」
「この学校でそのように慕われているだなんて、よほどの人格者のようですね。そう言えば、シスターは一対一の関係でしたか」
「ルール上では何人とでも可能だよ。けど、複数人とする人はいないけどね」
「そうなんですか。本郷さんはどうしてシスターを作ろうとしないんですか?」
「私は別に、特定の個人と関係を深めたい訳じゃないからね。それに、形にしたかった訳でもないから。それで利用してないのさ」
どうやら本郷さんは、片方か、お互いが束縛するカップルのような関係は好みでは無いようです。
コネ作りの際の役立ちそうな考え方だと思った。やはり、本郷さんとは仲良くやれそうだ。
「私、初等部からの生徒は皆、制度で関係を作っていると思ってました。私は、まだ浅い関係ですが、本郷さんは姉になれる素質があると思いますよ」
煽てている訳では無い。これまでの行動を見て、本当にそう思ったのだ。
「あはは、無理無理。理由はさっき言ったでしょ。荷が重すぎるよ。今年も交流会は顔だけ出して終わりにするし」
「独り身のための交流会があるのですか?」
「表現はあれだけど、絶対参加のがあるよ。学院はシスター制度を推奨しているからね。生徒会主導で、独り身の生徒を集めるんだよ。ある意味、集団お見合いだね」
「お見合いねぇ……。私と本郷さんはそれに出ないといけないんですか」
シスター制度に興味が無いので、考えただけでも気怠くなる。
「平野さん。私も交流会には参加しますよ」
話に入る機会を窺っていたエミリーが、満を持して発言した。
「ですが、ライカ先輩と決まっているのでは?」
「まだ手続きはしていないんです。ライカお姉様が、交流会の後にしようと言うので」
焦らされるのも楽しいらしく、エミリーはその時を待ち焦がれていた。
「そうですか。その日が楽しみですね」
あんな人の何所が良いのか分からないので、私は適当に言葉を返した。
「はい。もう、カレンダーには毎朝印をつけて、指を数えています」
興奮度が上がり、早口のエミリー。これは重症だ。
心酔というより、崇拝レベルだ。この話題には触れないようにしようと思った。
引いている私に、本郷さんはエミリーの意外でも無い一面を話してくれた。
「平野さん。エミリーさんはね、姉馬鹿なんだよ。まだ正式になってもいないのに、ライカ先輩にくっついて歩いてるし、正式になってもいないのにお姉様呼びしているしね」
「ああ、なるほど。因みにですが、シスターだと呼び方を変えるんですか?」
「そうだよ。姉になる人をお姉様と呼んで、妹になる人はその人に名前で呼ばれるのさ」
「そんな取り決めが会ったのね。流石お嬢様学校……」
この時、何故か背中がゾクリとしました。この寒気は、私が面倒の渦中に居る事を知らせるものだったと気付くのは、もう少し後の事。この時の私は、風邪の前兆かと思っていた。




