100 気さくなクラスメイトの誘い
「ごめんなさい。初対面だったので、少し冗談を交えてみました。まあ、すぐにバレてしまいましたが」
誤魔化し、相手の出方を見る。
「珍しいね。途中からの人って、緊張とか不安でガチガチな人が多いんだよ。って、何時までも用件を言われないのも困るよね。声をかけたのはさ、困っていそうだったから、案内役を必要としてないかと思ってね。ほら、学院って凄く広いから」
どうやら、本当に私が一人で居たから気にかけてくれただけのようだ。
教室内の人が多くて、全く把握出来ていなかったけれど、教室で話しかけてきたという事は、同じクラスの人で間違い無いだろう。
それ以外は全く分からない。でも、彼女くらいフレンドリーだと、彼女繋がりで他のクラスメイトと打ち解けやすそうだ。想定外の疲労もあったし、今日は少し楽をしたい。
ここは詳しい人に要所の説明を受けておく方が得策だろう。
「とても助かります。一つ、お願いしますね。えっと、私は平野……って、先ほどから苗字を呼んでくれていたわね。えっと、あなたは……」
基本的に学院の生徒は初等部からそのまま進級しているためか、自己紹介という行為が行われていない。学院特有なのか、一貫校の認識の甘さだろうか。
私が名前を知る機会は、生徒手帳をもらう時に呼ばれた時だけだった。
しかし、一度に二桁の人名を覚えられるほど、私は素晴らしい記憶力を持ち合わせてはいない。
「私は本郷彼方。よろしくね」
彼女もその辺りの事情を理解しているようで、表情を変える事はしなかった。
「ほんごう。本郷さんね。こちらこそよろしく」
握手を求めてきた手を拒む理由なんて無いから、私は応じた。
それにしても、ここでは何かと握手をする習慣があるのだろうか?
「それじゃあ早速、学院を見て回ろうか」
「そうですね。ああ、その前に。教科書類を置きに部屋に戻のよね?」
「心配しなくて大丈夫。一通り回ったらここに戻って来るから。何なら、一年間机に寝かせていても大丈夫だから」
「お嬢様とは思えない発言ね。こういう所の生徒って、置き勉なんてしないと思ってた」
「同じ敷地内だし、気軽に行き来出来るからね。気にしない人は気にしないよ」
お嬢様学校とは行っても、私が通っていた中学校までの生徒と余り変わらない発想の人が一定数は居るらしい。この事実に、少し気持ちが和らぐ。
「そうなのね。後で戻って来るというのなら、机に仕舞っておくわ」
「ようこそ、置き勉の世界へ」
ウェルカムポーズで言われても、この世界には足を踏み入れたくないなと思った。
「来る世界を間違えてしまったみたい。帰りの飛行機を用意してもらえる?」
「平野さんはつれないなぁ」
生まれの差など感じない馬鹿なやりとりだと思った。けれど、彼女のおかげで気持ちが軽くなった。
「さあ、小芝居はこれくらいにして、学院探検をお願いしますね。隊長さん」
「任せたまえ、平野隊員」
年相応というには少し幼い気もするやり取りだったけれど、彼女は笑顔を向けてくれた。
数週間前まで中学生だった私達には、相応の会話だったのかもしれない。
本郷さんと話していると、ここがお嬢様学校だという事を忘れてしまいそうだ。
素が出てしまわないかと、私の中で危険信号が出ていた。




