10 御令嬢 私の癒しは彼女の隣
「ルスウィン社の商品……。先輩もルスウィン……」
ルスウィン社とは、世界展開している健康飲料をメインに製造販売している有名企業です。
私も、風邪の時には必ず利用していました。小、中学生の頃の遠足時には、私も含めてほとんどの人がこの会社の飲料を持参していましたし、知らない人の方が珍しいほどの大企業です。
そんなルスウィン社の製品を、ルスウィンという姓の先輩が手渡してくれたのです。
通っている場所がお嬢様学校である事も加えると、出てくる答えは一つしかありません。
そして、駄目押しで私は気付いてしまいました。
「あ、これ、試供品だ」
「先ほど、テスターの方に渡した余りです。テスターは多い方が良いので、気にせずに飲んでくださいな」
私が遠慮していると思ったのか、先輩はそう付け加えました。
「お姉様。陽子さんは、遠慮している訳では無いと思いますよ」
ふーりん、おしい。
「なら苦手な味だったのかしら?」
先輩、残念。
私の心境を言い当てる人は居ないのかと思っていると、残った回答者の和美さんが言いました。
「二人とも。陽子さんは、先輩が社長令嬢だと思ったから固まってるんですよ」
和美さんが正解です。
「そのような事で? 陽子さん、学院内では家族の立場は関係ありません。なので、私はあなたのただの先輩よ」
「わ、わわ、わた、私。私、有名人って出会った事が無くて……」
怖くないと言われても、相手が世界レベルで有名な大企業の令嬢です。確実に粗相をしてしまう自信があるので、緊張は更に増していました。
自分の意思でこの学院を選んだというのに、覚悟も決めてきたというのに……。
いざ、有名企業の娘さんだと知ると、こんなにも場違い感で潰されそうになるとは。先行きが心配になりました。
学院を意識した時、受験中、入学試験中、合格後。これらの時に感じた不安を全て足した以上のものに、私は何時まで耐えられるでしょうか。
「そもそも、私はまだ公の場に出ていないので、有名人ではありませんよ。それに、私が有名人というのなら、はとこのフレデリカはスポーツ用品の社長令嬢ですよ」
「ふーりんも、しゃ、社長令嬢!?」
そんな凄い人を友達なんてカテゴリーに入れていただなんて……。
眩暈を覚え、後ろへ倒れてしまいました。
「おっと。しっかりしろ、傷は深いぞ」
こうなると、こんな調子の和美さんが唯一の癒しでした。
「和美さん、手間をかけてしまってごめんなさい。でも、和美さんのおかげで私は生きられそうです」
今にも息絶えそうだと自覚するほどに、私の声は弱々しい物になっていました。
「何だ!? どう意味だ、陽子さんっ。褒められている気がしないぞ」
きっと和美さんも名のある家の娘さんなのでしょうが、そう感じさせない振る舞いが、私を生かしていました。
「フレデリカ。彼女、面白いわね」
「お姉様!?」
ふーりんが何を思い、声を荒らげたのかは分かりません。ですが、エミリー先輩は、これを失言への指摘だと捉えたようです。
「すみません。この場で面白がるのは失礼だとは分かっています。ですが、つい懐かしくも思ってしまうのです」
「懐かしくて面白い?」
ふーりんはどういう事なのかと、不思議そうな表情をしていました。




