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たわわ補正2nd~その素敵機能の名はツンとたわわ~

エイミーの方とラストがちょっと違うけど、気にしないでください。

 エイミーと別れたミレイは魔術師向けの防具コーナーにやって来た。事前に掴んだ情報によると、この店は修復機能の付いた商品を購入しても大丈夫らしい。

 魔物との戦いは激しい。当然装備品の破損も日常だ。特に布はどれだけ頑丈な物でも破れる時は破れる。そうなると可愛いデザインの服が着れないのだ。アクセサリでどうにか妥協しているものの、ミレイのお洒落心は満足できない。それは冒険者に身を置く女性たちが持つ不満でもあった。

 一年前、衝撃の商品が世に現れる。回数制限はあるものの、ほつれ破れた箇所を修復する機能を持つローブやマントが売り出されたのだ。

 結構なお値段にも関わらず完売した上、使用者からの評判はとても良い。ただしマジパネシルクと名付けられた特殊な絹を使った布限定の機能なので、他の布地には使えなかった。

 そして何かが当たると後追いも出る。当然偽物も出回り、それらに関して様々な詐欺事件や報復事件が起こったりした。  

 今年に入るとマジパネシルクの量産により布の価格が「めっちゃ高い」から「ちょっと高い」に下がり、修復機能付き商品もどうにか手に届く値段になる。

 ミレイは喜ぶと同時に偽物を警戒した。あれだけの報復を受けたのに、見せしめにもならない連中がいたのだ。まだまだ騙される人が出るのだから、決して油断は出来ない。ミレイはお金を貯めつつ情報を集め、ここジュンビシヨー屋に来たのだった。


「うっはあ! これよこれ! このヒラヒラ!」

 細かな刺繍にレース模様が縁や裾に施された華やかなデザインのローブがズラリと並ぶ。これら全てが目当ての機能付き!

 ──どれにしよう。服と合わせようかな、先に決めちゃおうかな?

 ウッキウキですぐ隣の服コーナーに目を向けると、とんでもない文字を見つけた。

『たわわ補正付き』

「たわわ……?」

 しかも見本まであった。服はあえて胸の谷間が見えるデザイン。マネキン人形ではありえない、ふっくらしたボインな谷間が存在している。

 ──幻覚機能の応用かしら。作った人すごい! とんでもない説得力だわ。

 隣にある何も着ていないマネキンと比べると、違いが歴然であった。ミレイは思わず自身の胸を見下ろす。

 ──でも、私の骨格だとたわわなおっぱいはバランスが悪い……!

 ミレイの母は貧乳である。母の母も貧乳であった。どうも貧乳一族であるらしい。しかし母の姉など何人か巨乳も混ざっていた。

 十歳くらいの時だ。ミレイがその事を指摘すると、全員豊胸手術を受けたのだという答えが返ってきた。

「胸の事で辛くなったら、お金を貯めて手術を受けてもいいのよ」

 そうは言われたものの、ミレイはその日からおっぱいと体のバランスを考えるようになる。伯母を改めて見た時、そこまで大きくしない方が体と釣り合うのではと思ったからだ。

 スリムなのにボインな人とペタな人の違いも考察したりした。(結論は出ていない)こっそり胸に詰めて鏡で確認したりもした。自分でも痛々しく感じ、虚しい思いをしたものだ。(あれは詰めすぎだったかもしれないと今では思う)

 ──でも、大きいおっぱいも憧れる……!

 ミレイが悩んでいると、店員がやって来て何も着ていない方のマネキン人形に服を着せ始めた。

「えっ……!?」

 服を着たマネキンもふっくらおっぱいになったものの、もう一つの方とは明らかに印象が異なっていた。

 ツン、としているのだ。丸みはあるものの、バストトップがツンとした形になっているのだ。

 ──エ、エレガント!! 清楚で凛としていて……それでいてセクシー。こ、これが秘めてなお匂い立つってやつ!?

 ミレイは二つのマネキンを見比べ、店員に質問をした。

「これ、どうなっているんですか?」

「元々このたわわ補正はビキニアーマーから生まれました。それを布にも応用出来ないかと依頼され、割とアッサリ成功したのです。ところが、ここでおっぱいの大きさの問題が出ました。爆か巨かではありません。大き過ぎると服の持つ魅力が激減するのです。ビキニアーマーなら金属ですので巨乳の範囲で何の問題も生まれませんでした」

「わかります……! 胸元が開いたデザインならいいけど、例えば大きなリボンが胸元にあったら巨乳や爆乳だと台無しになるんです」

「その通りです。そこで二種類用意する事にしました。Eカップ参考巨乳系のたわわと、Cカップ参考スッキリ系のツンです」

「ツン!?」

 店員は小さなポップを付け足した。そこには「ツンとたわわ補正」と書いてある。

「ツンとたわわ!?」

 ──こ、これなら私に似合うかも!?

 興奮と感動に心が震える。ミレイは店員の方に首を向けながら口にする言葉を考え……。

「試着できますよ」

 凄くいい笑顔で先手を取られた。

「ぜひ」

 ミレイも満面の笑みを浮かべた。


 ◇◇◇◇◇◇


 元々ローブに合わせて服も選ぶつもりだった。今日までコツコツと貯めてきたお金は目標金額ギリギリだ。アクセサリ類の買い替えは出来ないだろうと覚悟を決めていた。

 ──しまった。修復機能を最優先していて服の方は色やデサインが合っていればそこそこの機能でいいやと考えてた。よもや、こんな素敵機能が付いた物があるなんて……!

 ミレイは「ツンとたわわ補正」に決めた後、ノリにノッて服とローブを物色し始めてから、お金の問題に気付いたのだった。

 ──ああ……こんな素敵機能、お高いに決まっている。修復機能と同じくらいだったら足りない……明らかに足りない。エイミーもギリギリだろうし借りるのは……あ!

 この時ミレイは店員の言葉を思い出した。

『元々このたわわ補正はビキニアーマーから生まれました』

 ここで扱っていて本家のビキニアーマーに「たわわ補正」が付いていない訳がない。

 ──つまり今、エイミーもこの「たわわ補正」商品と出くわしている!?

 ミレイの脳は幸せリラックスモードから推理モードに切り替わり、ギュンギュンとフル回転を始めた。

──エイミーはぼやいていたわ。同い年の子より胸がふくらむのが早かったのに、今ではすっかり抜かれたと……。私も少し遅れてふくらみ出して安心していたらあっという間に皆に置いてかれたし! 何なのあの差は! 何が胸を育てるの!? 毎日牛乳を飲んでも変わらなかったじゃんっ! 誰よあんなデマ流した奴。百発くらい攻撃叩き込んでやりたいわ!

 回転し過ぎて脱線しかかっている。

 ──そう、私とエイミーは共通の悩みを持つ。顔はいい、スタイルだっていい、文句のない美少女よ! ただし胸が……おっぱいが足りない! ああ……そして私は今、この「ツンとたわわ補正」に心を奪われた。

 強引に元の路線に戻ってきた。

 ──ならば、エイミーも心を奪われているはず。けれど、けれどエイミーはものすごく周囲を気にする子よ。ビキニアーマー……これまでの、ある程度胸の大きさを誤魔化せる胸部鎧とは違う。エイミーにビキニアーマー……きっと似合う! 色は銀と青系が似合う! エイミーも青系の色が好みだし!

 たわわ補正付きビキニアーマーを身に付けたエイミーと並ぶ自分の姿をミレイは思い浮かべた。

 ──イケる。二人一緒なら大丈夫。やはり私は白とピンクを中心にしてアクセントに赤を取り入れるわ。この組み合わせで決まりね! 髪形はどうしよっかな~。

 ミレイは迷う事なく目当てのローブと服を手に取る。

 ──あぁ、いいわこの組み合わせ。絶対これ! これしかない! ……て、あっ!?

 ハッと金の悩みを思い出した瞬間、自然と値札が目に入ってきた。

「えっ……!」

 ──こ、この値段、嘘でしょ!? 「たわわ補正」と「ツンとたわわ補正」が同じ金額なのは分かる。でも、こんな素敵機能がこのお値段だなんて……!

 なんと、合計金額は予算内である。何なら今日この後のお茶で、いつもより高めのスイーツを注文出来そうだ。

 ──エイミーがビキニアーマーを選ぶ可能性……それはあの爆乳神官コンビ! ああああ、うらやましい……! あのユッサユッサ揺れる乳がうらやましいっ! これ、走ると揺れるのね!? 憧れの走って揺れるおっぱい! 天然巨乳共のこぼす嘆きを味わう事もなく、巨乳を味わえるのね! 最高! 飛び付くわ! エイミーは絶対飛び付く!

 まさにこの時、エイミーの心は揺れに揺れていた。

 ──エイミーが迷った末に自分の意見を引っ込めるのは相手を思いやる時。このたわわ補正付き装備は当てはまらない。つまり、お金の事さえ解決すれば購入を決めるはず。付属機能の価格ランク1のグループなら、余裕で予算内よ。

 ミレイの予想は大当たりとなる。

「デザインはお決まりですか?」

「はい! これにします」

「では採寸しましょう。こちらへ」

 ミレイは店員と雑談をしながら、欲しい情報を得ていく。ビキニアーマーを始め、たわわ補正付き装備はポツポツ売れ出しているものの、店頭に並んだのが先週のために知名度が低いそうだ。

「女性向け全般に付いているんですよ」

「へー」

 案外仲間はそこかしこにいるのかもしれないと思い、ミレイは嬉しくなった。


 ◇◇◇◇◇◇


「って訳でね、店員さんもドキドキしているそうなの」

「そっか、最初に買った人が今日受け取ったんだ……。つまり、私たちだけじゃない!?」

「そうよ。一定の需要がないと商売にならないわ。受け取る時も一緒に来ようね」

「ええ」

 届く日が楽しみだ、と互いに笑い合う。

 この時、二人は信じていた。満足感に浸っていれば爆乳神官コンビへの憎しみ(おっぱい限定)は抑えられるだろう、と。

 嫌な子たちではない。おっぱいへの嫉妬心が申し訳なく思うくらい、向こうは好意的だ。チームワークのためにも、この感情は自分自身で処理しなければならない。今日は本当にいい買い物をした。

 しかしそちらにばかり気を取られていたせいか、仲間の男二人の反応までは考えが及ばなかった。

 二人は知らない。パーティーリーダーが天然至上主義者であり、顔だけでなく身体全ての整形を嫌っている事を。そして怒りが頂点に達すると極端な行動を起こす困った悪癖がある事を。男二人は女の子たちの視線がエイミーとミレイに行っている事実に気付き、嫉妬の炎を燃やし始めた事を……。

爆乳神官コンビはエイミーとミレイのファン。追放宣言されても大丈夫!

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