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小説家人形  作者: 五島タケル
四章
79/80

エピローグ2

 一見人々には何の変化も見られない。

とても落ち着いて見える。


 集団で行動する人たちの数は少なく、騒ぎ立てる様子も見られない。

みなどこか冷めた表情で支給された個人用デバイスの画面を触っている。

当局から出されるニュースを聞き、情報に触れるため画面に注視し、イヤフォンをはめている。


 合間には疑似恋愛するゲームを楽しみ、位置情報を提供するゲームで冒険をし、好きな動画でも視て癒しとしているのだろうか。

または好みの服やアクセサリー、化粧品や時計、健康器具などを瞬き一つの判断で購入しているのだろうか。

それぞれが以前にもまして、趣味や嗜好にあった自分の世界に没頭しているようだ。


 それがゲームだと買い物だと、エンタメだとカルチャーだと思いながら、自分の情報を欠かさず打ち込んでいく。

当局はその情報を吸収し、さらに人民を管理する手段としているとも知らずに。


 日々の仕事を真面目にこなし、デジタルマネーで買い物をし、ありふれたレジャーで皆が同じような暮らしと余暇を楽しむ。理想的な共産主義圏の生き方をできるようになった

当然誰も不平は漏らさず、ネット上でも社会に対する罵詈雑言は消えている。


 代わりに社会の秩序を乱す者たちへ対する、

”不正防止目安箱”なる通報チャンネルが設立され機能するようになっていた。

ただ不満を吐き出すだけのネットよりも、よりよい社会を作るための実効性のある通報チャンネルとしてSNSが機能する方が、よほど合理的と感じているのだろう。


 人々はこのシステムへ多くの意見を寄せていた。

当局はスピーディかつより恣意的に、不正を働く輩を取り締まる様になり、それを不正撲滅チャンネルという形で、犯罪者逮捕の瞬間を動画サイトにアップし、民衆たちはそれを見て歓喜し留飲を下げている。

(自由を求める人々が、治安煽動罪および国家反逆罪の犯罪者として取り締まられている映像だ)


 よりよい社会へ向けた一つのシステムだと、

多くの人たちは納得しているだろうか。

あまりに愚か、システムに頼り切っている。


『もともと日本の人はお上には逆らうなって体質ですし、決まったことへの順応は早いですからね。むしろ大陸の人民よりは、システム下での暮らしが合ってるんじゃないですか?』

 日本旅行へサポートについてくれた出版社の人間はそのように説明していた。

私も概ね同意見だった。


 誰もが今の暮らしを以前の生活より有難く、便利なものだと迎え入れている。

あまりに哀れで、少し前の自分の姿を見ているようでもあった。

こうして次第に人はモノを考えなくなっていく。


 他人の顔色を見て、自分の行動まで規定する風潮が広く浸透していた社会では、多くの人が考えずに生きられる暮らしを望んでいたのだ。



 私はもうかれこれ10年以上も前に警備員として勤務していたショッピングモールを訪れることになった。


 近場に新たな商業施設が出来てややさびれてはいたが、まだそのモールは存在していた。

懐かしく感じると同時に、昔のことを思い出してホッと心が安らぐ。


 ファッションブランドや出店する店構えはだいぶ様変わりし、実用的な商品を扱う店が増えたように感じる。

ファッションでいうなら仕事用、プライベート用とはっきり分かれて、大型のアパレルブランド2つしかなかった。

業種ごとに一部のメーカーが売れ行きやトレンドを独占し、それ以外の店はほとんど消え去った。


 2つのアパレルブランド、どちらも極めて実用的なデザインで手頃な値段。

ほとんどの人はその2つのブランドの服を好んで着用し、その着こなしはもはやオシャレな人民服といった有様だ。


 大型スーパーは以前と変わらず大勢の人々を迎え入れているようだった。

私は多少緊張しながら2階衣料品売り場を訪れる。


 まだその女性はいて、元気に働いていた。

 倉田さん。

私のかつての憧れの女性で、決して手が届かなかった女性。

今はもう体形はふくよかを通り越し、ガタイのいい熟女といった見た目をしている。


「ははっ、なんだか分からないけど、泣けてくる」

 分からないだろうなと思いながらも私は倉田さんに挨拶をしてみる。


「えっウソっ!?あなた五島くん?ってえっ!五島さんってあの小説書いた人?

境界なんとかってやつ?ウソウソ?アナタ、あの時の五島くんだよね?」

 意外にも私のことにすぐ気づき、抱きつきながら笑顔で迎え入れてくれる。


 最後に会った時はおびえた表情で私を退けた女性が、今は朗らかな笑顔で出迎えている。

ここにも意識の安定を感じさせる、ひとこまが垣間見える。


「いや~お久しぶりです。大好きな倉田さんにこうして歓迎してもらえただけでも、ここにきた甲斐がありました」

「やだ~もうおばさんをからかって~。本気にしちゃうわよ~」

 何の屈託もなく、私も挨拶をする。


 彼女に異性としての感覚など、どうして抱いていたのか今となってはもう分からない。覚えてもらっていただけでも嬉しかった。


「これから五島さんはコチラのモール内の書店で、この度出版したエッセイの記念サイン会がありまして、そのために・・・・・」

 出版社の人間が私の代わりに、倉田さんやその周りで騒ぐパートの女性たちにここへ来た目的を話してくれている。


 その間に私はこの場を離れ、一人でVIP向けの休憩スペースとなっているラウンジへいき佇んでいた。


 数年の間に社会システムは大きく入れ替わったが、意外にみんなしっかりと前を向いて、以前に比べれば安定した暮らしを享受しているようだ。

 私は歯がゆい想いがした。



【 タケル より。

私は今、故郷の日本に着いて思い出の地を回っているところだ。珍しいものは特にないが、君に何かお土産をと思っている。・・・・・何か希望の品があれば】


 愛する子供、分身ともいえる3人の存在へ向けたメッセージを送る。

今はそれぞれホンコンシティで暮らしている。


 私は共産主義思想を喧伝する権威ある作家となり、

さまざまな恩恵を受けたが、子供さえもその一つだった。


 私は複数のパートナーを設けたが、その誰とも子供ができることはなかった。


 一度精密検査を受けた際、精子の活動がやや弱く子供が出来にくい体質といわれていた。

確かにあの国にいて毎晩のように女性を変えて、どれだけ夜の営みに励もうが受精することはなかった。


 そのうちやけになった私の夜の遊びに業を煮やしたのだろうか?

当局から人工的に子供を残してはどうか?との意思確認メッセージがあり、それに迷わずイエスと返した。

私にとってもそこが踏ん切り所と感じていたわけだ。


 その後、人工授精のために精子を提供し、相手は誰か全く知らないが適合すると判断された女性の卵子と掛け合わされ、まずダイチという一人目の男の子を授かった。


 彼が生まれてから、そしてこれからも、私が彼の世話や何か教えるといったことはほとんどないが、会いたいときに彼に会うことは出来る。

記念日などに彼にプレゼントを送り、その時に会って成長を確認する。それだけでも親の気分が味わえ、私は満足・・・・だった?



 自分の遺伝子を残せて、人生の大きな使命を一つ果たした思いがしたが、同時に私は生きる意味を見失いつつあった。

あまりにシステマチックに子供が生まれたことにより、実際に私の子供という実感には乏しかった。


 自分がこの世界に生まれ落ちた唯一の個であるという意識、感覚が徐々に薄れ、徐々に感情が欠如していった。


 現実で生きる実感が欲しくて、私はさらにおかしな要望をすることになった。

自分の無力さを、この社会ならではの醜い欲望を叶えることで忘れたかったのかもしれない。



 今度は女の子が欲しいと、当局にお願いを出してみる。できれば血のつながりがない、どこからか降ってきた天使のような女の子をと。

いかにもバカげた妄想だ。


 すると意外にも、当局の研究機関からは前向きな反応があった。私はほとんど信じられない思いで薄気味悪いメッセージを読んだ。


【 現在の技術で人工的な生命を作り出すことは出来ます。

アナタが望む性別、容姿、そして性格まで、ゲノム操作によって希望にかなったヒトを設計することは可能です。

その分相応の金額や、秘密、契約を絶対順守することは固く求められますが、

(もしこの事案が一般に明るみに出れば、貴方は社会的な身分を全て消失することになります。)

それでも望むというのならば、権威ある役職についておられる貴方だけの特権として、要望を叶えることは可能です。

五島 様 申し込みはいかがいたしましょう?】


 大金さえ払えて、当局の厳しい管理に耐えられるなら、望む形の人間を生み出すことが出来る。

倫理的にあまりに人の道から外れている、それは分かっていた。


 もう何も感じたくなくて、

震える指でおびえながらも発注を出してみることにした。


歪んだ欲望を正当化できるほど、私は頭がおかしくなっていた。


コチラのシステムに取り込まれるたびに思考する能力を失っていたのだ。


 私のためだけの理想的な女性が実現するならしてみたいと、たいした葛藤もなく願ってしまう。



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