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小説家人形  作者: 五島タケル
四章
78/80

エピローグ1

 もうかれこれ何年ぶりだろうか、

私は再び日本の地へ足を踏み入れることになった。


 久しぶりに見る生まれ育った地は、以前と変わらずどこも清潔で、人々は規則正しく動いているように見える。

制度やシステムが変わっても、日本の人たちは高い順応力を生かして上手くやっているのだろう。

私はやや気分が落ちつく。


 離れた後の日本の姿を遠くで見ながら、私はずっと気に病んでいた。

激動の嵐に見舞われることになった故郷の姿を、


 不況が長く続き、インフレにも苦しみ、自然災害まで頻発し、人々は生きる目的や自信をすっかり見失いつつあるように見えた。


 やがて暮らしの改善を求める暴動が起こり、それに対応するために政府が強権的な対応を取ると、それに呼応する人々と反発する人たちの間で対立と混乱が深まり、分断された国民通しが血で血を争う、内戦状態にまで一時的に陥っていたという。


 内戦下の混乱した日本は、すでに侵入していた共産主義圏の工作員たちによって、じわじわ侵食されていった。

それに対抗するため、日本の防衛組織はあくまで徹底抗戦の構えを見せる。


 大げさには活動できなかったが、日本の知人を頼りメッセージをやり取りしながらなんとか日本を応援する気持ちだけは持ち続けていた。

間接的にでも日本の堕ちいった現状に、介在した自責の念がまだわずかに残っていたんだろう。


 だがそうたやすくは、日本列島の人々は規律の元へはくだらなかった。


 中部地方を境目として、首都圏を中心とする東日本地域は、米軍と共に共同戦線を張り、じわり押し寄せる共産主義圏との対決姿勢を頑なに崩さなかった。


 一方早くに私の小説が広まり、共産主義圏の懐柔工作が浸透していたおかげか、西日本はすんなりと体制を切り替え規律の元へ入る暮らしを選びとる。


 その結果日本は完全に分断し、国が東西に分裂することになった。


 その後、人民解放軍が本格的に日本列島に派遣され、この日本内戦に介入したことにより、わずか1年半足らずで日米連合軍を退け戦闘は終息する。


 高度なAIシステムによって運用されるドローン部隊を、宇宙にある衛星からレーダー誘導し、ピンポイントで狙い撃たれるミサイル攻勢によって、ようやく戻ってきた海上の日本の国家防衛軍は、その軍艦、軍機がのきなみ撃墜され、本土に到達することさえ出来なかった。


 米軍は日本を引き上げる過程で、最後の捨て石とばかりに日本のド真ん中にドームで囲った巨大核融合炉を築く。

なんとその周りを核ミサイル200発を配備し、強制的にそこからは絶対不可侵の防衛ラインとすると同時に、日本を東西に分断する決定的なカベともなった。


 通常は発電システムが機能し、および核廃棄物処理場としても使用するが、いざ敵が侵入するといつでも核を起爆し、日本並びに東アジア一帯を墓場とする、巨大殺りく兵器を埋めつけたわけだ。


 米国は日本列島を共産主義陣営に対する防波堤として活用するという非情な手段を取った。

以前からずっとそうだったように、そしてこれからもずっと。


 その巨大施設を境として、”東日本皇国”は元日本政府が米軍と共に管轄し、一方西日本は独立し、”日本人民共和国”として、規律の元の共産主義圏に入った。


 日本は東西に分断された状態に入り数年、今は不気味な安定が保たれている。


 おかげで私もこうして大陸の暮らしを一時離れ、元いた故郷への観光ツアーが出来るようにもなったのだ。 


 

 私は西日本人民共和国(西日共WJC)に着いてすぐ、以前住んでいた2Kアパートがあった場所を訪れることにした。


 C3部隊活動をしながら小説を描き、安西さんと交流した日々の記憶。今思い返すとほとんどが苦い思い出なのだが、不思議と涙が出るほど懐かしさが込み上げてくる。


 慣れ親しんだ街なみが近づいてくるにつれて、私はすっかり感傷的になっていた。


 その場所に着くと、かつてのアパートはもうその面影すらなかった。

何もないわけではない、今はもっと立派な高層マンションが建っている。


 その向こうには私の知らない商業施設の外観が見える。

周りを無数の長方形のパネルで囲まれた、円形競技場風のショッピングモールだ。

とても立派で威圧的な建築物。

上方にはハンウェイモールと、数百メートル離れたここからでも見えるぐらい、でかでかと誇張したオブジェが掲げられている。



「やあっす、お久しぶりです、五島さん?」

 感慨深げに自分の住んでいた場所を眺めていると、不意に後ろから声がかけられる。


 振り向くと彼女がいた。

もう久しく会ってなかったので、その姿に一瞬戸惑う。


「・・・・あんざい・・・・、さん?」

 今はメガネをかけ、髪はショートカットなり、以前の不幸ぶった目つきなども一切感じられず、知的な淑女といった印象だ。

いや、それは日頃メディアで見ている印象が強く影響しているのかもしれない。


「ふっホント久しぶりだね。・・・・・なんだかもう知らない人みたいだ。なんでこんなに僕ら、なんでずっと会わずにいられたんだろうか?」

 私は先ほどまでこの地にいて彼女との思い出にふけっていたせいか、胸には自然と込み上げるものがあった。


「何です、泣いてるんですか?ああもしかしてと思ったけど、あなたやっぱり五島さんですね。ナイーブなところが変わってませんから」

 安西さんは首を傾げてニッコリ微笑む。

心なしか彼女も少し、感極まっているように見える。


「私たち、互いの目的のため協力する同志だったんだから、目的が叶ったら離れても仕方ないじゃないですか。それに五島さん、私のことなんか全然好きになれなかったでしょ?」


「うんそうだね。好きじゃなかったよ。・・・・・でもなんでだろう。うっ、ずっと君に、安西さんにはずっとそばにいてほしかった・・・・。ずっとだ。うっ、君がいない日々はすごく虚しく、感じられていた」(ウソだ)


「ふふっ、それは今ここに二人でいるせいでしょ?ちょっとセンチメンタル入って、昔の思い出だいぶ美化してません?ねえ五島さん?」


 互いに元のアパートがあった辺りを見上げて、かつての光景を思い出す。


「・・・ああ、そうだ。今となってはもう、全部いい思い出だよ」

(悪夢だとしても・・・・・、全部、夢だったらよかった)



 すこし落ち着いたタイミングで互いの近況について話しを交える。


「でもいいのか?君みたいな要人がこんなところ一人でふらついてて大丈夫なのか?」


 安西さんは私と離れて数年の間に流星のごとく政治の世界に進出し、急速に役職を昇りつめ、今はもうこの西日本共産圏のトップの役職、行政長官の座についていた。


 その凛とした姿はメディアを探れば毎日のように会見でお目にかかる。

毅然とした態度、立ち振る舞い、実務能力、人心掌握術、どれをとっても行政府のトップとして立派に振舞っている。


 以前触れ合っていた彼女とは同一人物とは思えない。いやきっとそれを、私にだけ隠していたのだろう。

(この姿に、穏やかな表情に私は乗せられてしまった。みんな騙されてしまう。今、ここで生きていこうという人たち。どうか、彼女の微笑みを簡単に受け入れないでくれ)


「いやね、今日は五島さんがコチラへ来ると聞いていたから、一言あいさつとお礼を言いたくて」

「なんだよ、あらたまって。また昔みたいに、~っすよ~!五島さん!・・・・とか言ってくれないのか?」

 素直に彼女の出世が認められない私は、彼女の振る舞いを茶化してしまう。


「ふふっ、あらまだそのことで私をバカにしてるの?だからあれはアナタが望む女性像に合わせたって・・・・・。

そうよね、今はそれがアナタが見たい私の姿なのよね・・・・。

そう五島さんに、私とってもひどい事したっす~、ってね。バカみたいだよね」

(馬鹿だ。そう私は大バカで、しょせん彼女にいいように操られる人形に過ぎなかった)


 その言葉づかいは、今の彼女とはまったくマッチしなかった。

だがそんな言葉づかいを懐かしく感じる私と安西さんは、互いの顔を見合わせて少し笑った。

(口元の片側がひきつり、不気味な笑みだ。)



「見てまわるといいです五島さん、この世界がどう変わったか。きっと驚く、そして安堵する、私たちは何も間違ってなかったと。

・・・・いや、アナタのことだから簡単にはそう思わないでしょうけどね」


「いや、僕は今ではもうそれほど感じやすくはないさ。今のこのシステムの元の世界が気に入ってるし、もう逃れようがないだろ、このシステムはさ。僕らがみんなきっと望んだことだから」

(おかしい、間違ってる。誰も望んではいなかった。こんな・・・・形だけの安定)


「ええ、でもあなたはまだ贖罪の意識が働くことでしょう。でもあの日本のままで幸せだったとは、私は思えなかったから。・・・・今はもう、

このシステムが上手くいくように。せめて誰もが生きやすい世界にするため、私が頑張るから」


「うん、ありがとう。君がやったこと、僕にやらせたこと、全て間違ったとは思ってないよ僕は。

結果として日本の人たちは辛い目にあった人も多くいるとは思うけど、今のこの暮らしが安定すれば、みんな一つになってきっと落ち着くよ。

みんなが一つの意識を持つ社会は幸福になれるはずさ。そしてそんな風に人のことを思いやれる君がこの国のトップでいるなら、僕は安心だ」


(そんなはずがないだろ?この社会でどれだけの人が姿を、思考を、迷いを、命のともしびを消しているのか?君は知らないはずがない。

知らないフリをしているだろう!もう人が、誰かを思いやることが無い世界で)



 安西さんとはその場限りで別れ、私はその後数日をかけて街を見てまわる。


 新たに生まれ変わった、規律正しい暮らしが機能している日本の姿を。

どれほど機能してしまっているかを。


 どこかで私は、自由をまだ渇望している人がいるんではないかと、淡い期待を抱いて街を彷徨った。



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