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小説家人形  作者: 五島タケル
四章
77/80

儚き夢

『ドウモ五島さん。いや~上々ですヨ『転生世界』の売れ行きは。おかげでソロソロ私も党で役職がもらえそうデス。この前に良いバッジを頂きましたヨ』


 私の出版物の管理をしてくれているドウラ出版のヤンさんだ。ここホンコンシティに住んでいる。


「はあっそうですか。それは何より」

『デ?五島先生、何デスカ今日の用というのは?』

 ややたどたどしい日本語が、今日は少し怖く感じていた。


「いやね、二作目の小説、”転生世界”からもう半年程度経っています。

私もそろそろ次の作品をと思って構想をしているのですが、聞いてもらえますか?」


『ハイ。次はどんな素晴らしい世界を描くのでしょ?私も楽シミです』


 ここ最近日本の姿を遠くで眺めている影響か、

私の心理には若干の変化があった。

堕ちていく日本の姿、そこへ間接的にでも加担したことへの自責の念が、強くざわつきのように胸の内に湧き起こるようになっていた。


 今回の提案をする決意を固めていながら、自分の意見を言うことに慣れていない私は、探る調子で切り出していく


「例えば。例えばですけど、今度は逆に規律が崩壊するって話を描いてはどうでしょう?

信じていた規律ある社会、その統治システムが一時不具合を示し人々の生活が崩壊する。そこで逆に人々が自由で開放的な生き方を求める風潮がいったん盛り返す。といった感じの」


『・・・・ハイ、それで?』

 とりあえず聞く姿勢は保ってくれているが、

私を見つめるヤンさんの目線は厳しかった。

 私は先ほどまでの決意がたじろぐ


「えっと、そこからまずは自由とシステムのはざまで生きる主人公の葛藤を描き、自由の元で愚かに自らを崩壊させていく人の姿、まあ近しい人ヒロインの姿にしますが、かつての恋人の変容した姿を見た主人公は自由に幻滅し、ラストではやはり規律の元へ下るというのはどうでしょう?

エンターテインメントとしてはコチラの方がハラハラすると思います」


 恐る恐る切り出す。

もう一人の自分がダメだと言っていながらも、どうしても言わずにはいられなかった。


 もう規律を求めるだけの作品をただ描くことを耐えがたく感じていた。

規律の元での暮らし、安定したこの国の制度を疑ったことはないが、それと小説とは何故か別だとこの時は感じていた。

現在迷いの渦中にあって、苦しい生活をしている日本の人々を少しでも勇気づける小説を描いてみたくなっていた。


 彼らを追い詰めたのはもしかして自分かもしれない。その思い込みからそれなら逆に彼らを励ます小説を描けば、日本も少しは元気を取り戻すのではないかと。

 少しは彼らの生きざまを擁護する小説も書かなくてはという、贖罪の気持ちに強く駆られていたのだろう。


 二作売れたことの驕りがあったのかもしれない。

自分の力で売れたわけではないというのに。

己の生活が一変した経緯から、私はどこか万能感に浸り、もう一度社会を改変できるとでも思っていたのだろうか?



『何を?何言ってますカ五島さん?この話、聞かれるとマズイ思いますデスヨ』

「えっ・・・・・?」

『規律、この国のシステムを一度でも覆そうと意図するは、それがたとえ小説でもそれは国家反逆罪に当たりマスネ』

「いやっ違う、僕はそういう意図では。ただ小説のバリエーションを増やしたくて」


『そんな必要ナイ思いマスヨ。

これまで通り規律の元で、共産主義が民主主義を凌駕する内容を淡々と描く、それがアナタの役割違いますか?ハァンッ?』

「・・・・・そう、違わないです」


『五島さん、あなた出過ぎたことしない方がいい。

疑問感じたらダメね。アナタ消えマス。

コチラの世界で得たもの全て失うことニナル』


「ハイ、すいません。・・・・でも、だたぼくは!面白い小説を描きたくて、その欲求から、一つの案として描いてみたいと・・・・」


 ドンッ!!

ヤンさんは落ち着いていながら、何故か荒々しく机を叩きならした。

すぐに様子を見に、ドアにスーツ姿の屈強な男が一人入ってくる。


「シェンマ?」

「ブートイ。メイウェンティ、ジュンベェイ」

 落ち着いたヤンさんが冷静に言葉を放つのを見て、すぐに男は部屋から引き下がった。


『ハォ、すいません五島サン。タダ、アナタ勘違いしている。アナタの小説、書かされることに意味がある。党の望むこと書くアナタだから今ここにいる。そのこと理解デキマシタカ?』


「はい・・・・・。理解してます。すいません、ちょっと酔ってたみたいです」


『アッハッハハハハ、ナンダ。酔ってたデシタカ?・・・・アォそうだ五島さん、今日はアナタにご褒美用意してたのデス。それを味わってマタ小説の執筆ヘ励んでもらおうと思っテネ。ハオラー』


 ヤンさんが手を鳴らし合図をすると、

今度は厳つい男ではなく部屋に妖艶な女性二人が入ってくる。

それもコスプレの衣装を身に着けて。


『五島さん、あなたの嗜好ずいぶん調べマシタ。

こういうプレイ嫌いじゃないハズでしょ?』


 腰を大げさにくねらせ、巨大な胸を揺らしながら二人の女性が近づいてくる。

『よろしくねーセンセイ。この格好先生が気に入るといいんだけど』

『ドウモー先生。今日は私タチとイッパイ絡みマクッテ遊んで欲シイダヨー』


 話し方から一人は日本人、一人はコチラの国の人と察する。


 長い黒髪の大陸の女性はグラマラスな体つきをしていて、白いへそ出しタンクトップに短いスカートをはいている。

私が昔好きだったゲームのヒロインキャラのものだ。何度となくこのキャラが夢に出てきた思い出がある。


 もう一人はスレンダーな長い脚に妖艶な網タイツを履き、短いピンクのワンピース姿だ。

服の隙間からは布面積が少ない下着がのぞき見えている。コチラもまた私が以前好きだったアニメのキャラのコスプレだ。


 望んでも決して手にすることなどないと思われた妄想が、今目の前に広がっている。


 このあり得ない光景に、私は少しめまいを感じていた。

今夜この二人の素晴らしい女性を相手に、私はベッドを共にできる。


 先ほどまでの小説のことなど忘れ、

私の意識は全く違った方向に向けられていた。



 さっそく白いタンクトップの女性が近付いてきて、私の顔に胸を押し当てていた。

『先生、私のオッパイ、ドウデスカ?スンゴイ大っきいヨネ。ネエ触ってミテ♡』


 ゲームのキャラを現実化した姿は、あまりにふしだらな恰好で品性に欠けて、それに外国なまりがミスマッチであり、これがゲームの中では純情なヒロインだったと思うとどこか滑稽に思える。


 だがこの姿そのものが圧倒的であり、私の本能を刺激してやまない。


「おおっ!すごい、スゴイぞぉ!

めっちゃ良いよぉ!ハオクゥアイ!(可愛い!)」

 私は興奮を抑えきれずに、現地の言葉も交えて少年じみた感想を漏らす。


『先生、私にもお願い』

もう一人のワンピース姿の女も寄ってきて、私に体をすり寄せる。


『じゃあ先生お楽しみのようだから私は帰ります。

お楽しみを。そして賢明な作品を人民が待ってます』

 

 すでに視界には入っていなかったが、

まだそこに立っていたヤンさんがドアを開け帰っていった。

ドアの向こうの隙間からは黒服の男が見え、

コチラを蔑んで見ている、そう感じた。



 いきなり紅潮がマックスに高まっている二人のコスプレ女に対し、私もドンドンと前のめりになって、要望を突きつけながらプレイにのめり込むことになった。


「じゃあさ、このままヤッても盛り上がらないしさあ、二人ともちょっと嫌がってくんない?触られても大げさにガマンするって感じ、分かる?

ねえ、そういうの一度やってみたかったんだ。ねっ出来るでしょ?」


 すでに淫蕩の世界に足を踏み入れすぎて中毒気味の私は、いかにもバカらしいプレイを提案する。


 これはどこかで私が望んでいたこと。

かつて私が小説でも書いたシチュエーションなような気がした。


 夢が現実になると、だんだん現実の気配が薄れていく感覚がした。


『ほんと、イヤらしいの好きだね。まあ私らならやってあげれるけど。

・・・・分かった、リィナもちゃんと合わせなよ?』


『ワカッタネ。私も少し嫌がるとイイノカナ、OKネ?ヘンカイシン(楽しい)』


 そしてまた歪んだ男の妄想じみたプレイを繰り返す。


『アン!ヤメロ!私のオッパイはもうカチンコチンだあ、ヤメロウー!』


 言葉に拙い外国女はやはり演技が棒でセリフもたどたどしく、それでも身体を色気たっぷりにくねらすものだから、私は思わずプレイの途中で笑いをこぼしていた。


「プフッ!アハハハッなんだよもう~ティナー!その嫌がり方は?もう冷めるって。あ~もういいや、普通にやるよ」


『フフッ最初からそうしてらいいのにさ・・・・。

だってアタシらは気持ちよくさせてあげるために呼ばれてるんだから。先生はただ寝てるだけでいいってのに』


 そう言って女は髪を振り乱しながら、ベッドに寝転んだ私にいきなり覆いかぶさってくる。


『ソウネ、先生ネてていいよ。私らのスキルで先生カラカラにスルカラ』

『バカねリィナ。あんた、その言葉遣いかなりヤバいから、気ぃつけなよ』


 女たちは過剰に感じる、フリをしている。


 ただ私は満足だった。

自分の望むことが、どんな形であろうと実現している事実。


 この制度に、この体制に望まれて私は今ここにいるんだ。そう思えた。


「ふっふふふふふ・・・・、じゃあお願い。僕にこの世界で生きる有難さを、素晴らしさを感じさせてくれ・・・・・、お願いだ。・・・・全て、忘れさせてくれ」


 そうして私は全てを忘れ、その夜の淫蕩プレイに没頭した。


 次に起きた時に、自分は何をこれまで悩み、何を疑っていたのだろうと。実にスッキリした心地で朝を迎えていた。


 高層ホテルの窓から規則正しく並び立つホンコンの街並みを眺める。


 私はこの社会が続くこと、

この体制下で生きる暮らしが永久に続くことを、

望まずにはいられなかった。



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