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小説家人形  作者: 五島タケル
四章
74/80

服従

『あのね~今の時代モデルケースなんてもはや無いんですよ!この社会の中で真面目に頑張って働いてたら、結婚して子供が出来て家や車を手にして、問題はあってもそれなりに満ち足りるなんてことあります?

ああいう理想を押し付けるから人はおかしくなるんです。ほとんどの人は気付いています、この社会では頑張っても無駄だって。

人生それは努力じゃなくて運次第だと。みんな気付いているからこの自由に疑念を抱いて、公平な秩序を求めているんです』


 彼女は強い調子で、私との関係性などもはや考慮していないかのように自分をさらけだしていた。


『人々が望んでいるのはもっともらしい正しさなんです。べつに正しくなくてもいい。自分が頑張ったならこの程度報われてほしいと、その基準さえ何となく合っていると思えたらそれでいいんです。

そして自分より下の存在をみつけて落ち着きたい。虐げる存在が欲しいんです。じゃないと自分の立場やカテゴリーが意識できませんから。

国境や年収、職業なんかで線を引いて、こっからは頑張ってるスゴい人。こっからは頑張ってないダメな奴ら。

自分とは違う属性、弱い立場の人が大いに苦しむことで留飲を下げ、自分らの優位性を快感とする。人間なんてそんなもんです』


『そしてカテゴライズし立場を分けるのに役立つのがSNSなんすよ。あそこでちょっと煽れば人は大いに熱狂する。どうでもいいほんの些細なことで意識づけていき、やがて日本人全体の考えを大きくこっち側に誘導していくんすよ。

日本人は集団で動いて考えるのが好きですから、大多数の考えに簡単になびきます。まあだからおそらく気付かないんじゃないんすかね?

知らない間に社会システムや、統治者が変わっていたとしても』


 万能感に浸り、人々や社会について饒舌に安西さんは語っていく。彼女は以前とは全くの別人で、私はこの人物を慕っていた自分のことを不快に感じていた。



『何ででしょうね?日本人て普段議論とかあんましないでしょ?なのにその反動かSNSだとみんな饒舌になるんすよね~。

あれがまた情報操作にはやりやすい環境になってて。

自分のもう一つの顔として、そういうアカウントで呟いて発信したことでみんな自分の考えを強く意識するんですよね、これが自分の信念だってみたいに。

普段いっこも政治とか社会の仕組みとか議論したこともない連中が。ホント笑いますよ。それが誘導された意志だってことにも気付かず、自分の思想信条みたいに語ってるなんて・・・・』


 勢いよく舌を回転させる彼女に、酔いが回っていた私はほとんど聞いている一方で何も話せなくなり、彼女の演説を聞いている聴衆の気分だった。


 以前とは全く違う彼女の姿を見るのも不快に感じていた。


「ふんっ、安西さんだってそんな奴らの一端じゃないか?聴衆を操るのはさぞ楽しいかもしれないけど、君だってもっと大きな存在に操られてるだけなんじゃないか?」


『ええもちろん、それが何か?

だから言ってるでしょ。人はもっともらしい生き方生活が出来ていればそれで満足なんだって。

それが出来ないのが不幸。ただ貧乏で病気だとかなのが不幸なんじゃないんです。自分が人と違って疎外されているのがイヤなんですよ。

その点私はこうして五島さんという実のなる種を見つけて、それを実らせて、大きな社会の管理者と接点を持ち、その中で人を管理する立場になれる。

その状態がシステムに取り込まれているとも言えますが、大いに充足感は持てます』


「アホらしい。僕の小説のおかげだなんて。ついさっきまでは人のことバカにして、小説は自分たちのおかげで売れたみたいなこと言ってたくせに」


『また?だから売れるようにしてあげたって言ってるでしょ!あんたのは単なる素材でしかなかった。それをうまく調理し、人々の舌に合うように舌まで調整してあげたって。そのバランスを上手に導くのが楽しくて満足するって言ってるでしょう!』


「あっははははっはっ!」


『なんです?まだ薬もやってないのに、どこかおかしくなりましたか五島さん?』


「いやおかしいのは君だよ。もう~っすよ~!とか言わないなって思って!アレってどういうキャラ付けだったの?アッハッハッハハ!」


『・・・・いや、普通にアンタみたいな自信のない男が、ちょうど落ち着けそうな、見下せそうな女を意識してただけ・・・・、っすよ!』


「なにをっ・・・・・!なっ、つめたっ!?」

 私に笑われたことが相当気に障ったのか、ズンズンと詰め寄ってきて安西さんは私の顔に飲んでいたワインをぶちまける。


「おい・・・・・、いい加減にしろよ安西。僕だって怒るときはあるぞ」


『怒ったらどうなるの?ほら、やってみて。・・・・でも、たぶん五島さん、その次の瞬間には眠ってます』

 

 そう言って彼女は口にそっと指を入れ、舌を出して見せる。そこには白い錠剤が乗っていた。


 私は恐怖と怯えから感情のざわつきを感じて身がすくむ。


『ほらっ、嫌な気分が体に伝わってくるでしょ。もうアンタの身体は調教済みっすから。私たちに逆らったら次の瞬間アンタはこの世から消してやります。さあどうします?謝ってこの場で私に跪いてください。そしたら足ぐらいは舐めてもいいですよ、アハハハハッ!』


 私は自分の意思がどんどん縮んていくのを感じていた。彼女との何度なくおこなった体験を思い出す。その度に彼女にすがりつき、隷属する意思が高まっていたこと。


 逆らえない。彼女に、彼女の背後にある存在そのシステムには。私がここにいてまがいなりにも充足する生活を得られているのもそのおかげなのだ。

もうC3隊員やスーパーでの警備員などに、鬱屈して小説を書いて暮らす生活などに戻れるわけもない。


「・・・・・ごめん安西さん。僕が全て悪かった。調子に乗ったことを言ってた。僕の小説を本にしてもらい。この恵まれた生活があるのは全て君と、君たちの存在あってのことだ」


 私は即座に彼女の前で膝をつき、謝罪の言葉を述べていた。


『ふふっ物分かりがいいですね。

五島さんのそういうところが好きなんすよ、私たち』


 顔の前に足が差し出されている。

安西さんは有無を言わせぬ態度で私をきつくにらみつけ、優越感から口元は歪んだ笑みを見せていた。


「しゅぶぶぶっっうっうぅっ」

 私は舐めた。

彼女の脚をとって一本一本の指を丹念に、舌を使って磨くように。


 ひどく不快な味がして、私は喉につっかえを感じる。


『ふふっ、こそばゆいなあ。やめてもらえますか気色悪い、この人形野郎が』


「うっ、・・・・ううっ。もうっ、やめられない・・・・僕はもう」


 彼女とのことが色々思い出されて、私からは涙がこぼれ落ちていた。


 狂った生活をこうして彼女に吐き出すことでしか、いつからかもう私の人生は軌道を戻せなくなっていたことが、あまりに情けなかった。


 結局安西さんとは恋人にはなれなかったが、

この関係性は当初思い描いたものからあまりにかけ離れ過ぎていた。


 彼女との思い出が全て欺瞞で、汚らしいものにすぎなかったのだと思いたくなくて、私は悲しくて涙が止まらなかった。



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