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小説家人形  作者: 五島タケル
四章
73/80

流浪の民

 本の出版からしばらくが経ち、

私はその余韻を引きずって各地を飛びまわる生活を続けていた。


 まず最初に沖縄で大々的に売り出されて

ベストセラーになった小説『境界~ボーダー~』はその後、全国各地へも広げて出版されていった。

始めのうちこそは沖縄ほど一気にヒットはしなかったものの、社会の変容に合わせて西日本を中心に徐々に口コミで評判が広がり、瞬く間に書店に平積みされ飛ぶように売れるようになった。


 決して誇張した表現などでなく、描く内容はリアルな日本の社会のあり様、未来を示していると、もがき苦しむ小説の登場人物たちの心情は現代の人々におおいに共感を受けて、分析される傾向まで強まっていた。


 混迷の時代に生きる人々にとって、

“道しるべとなる大いなる一冊”

売れるにつれそのような大々的な宣伝文句が帯につけられ、そのたびにまた部数も広がっていった。


 小説の出版が全国各地に広がるにつれて、私の旅の範囲も広がっていった。

イベント期間を設けて、売れ行きのいい各地を順番に回っていくお礼行脚の旅が続いている。

沖縄の次は九州、その後山陰地方、四国、近畿各地へと。主に西日本中心に本への反応がいい街を周り、サイン会や講演会、パネルディスカッションなどを開いていった。


 

 私の本の売れ行きがいい都市にはそれぞれ共通点があった。

まず産業構造が衰退し、若者の失業率が高止まりし貧困率が高い。当然未婚、非婚の世帯も多く孤立している。

さらに高齢化は否応なく進みつづけ、未来のビジョンが描けない。


 いってしまえば負のスパイラルに陥り、

分断している街が私の書く小説への共感度を高めていたというわけだ。


 自分で分析しても当然だろうと思えた。

現状の未来を描けない自由などに、人々が何の価値を見出せようか。


 それならいっそ絶対的なシステムの管理下にあって、自分の行くすえや将来の仕事、親や兄弟、配偶者、家族のこと。

それぞれに見合ったパターンを提示してもらい、与えてもらえる生活の方に今の人々はひどくあこがれや共感を抱くようになってしまっている。


 いわば自由に幻滅し、考え、選び、

自分で勝ち取る生活に疲弊しきっているのだ。



『まあ簡単っすよ、今の人たちは』

 小説が順調に売れだした頃、

ある地方のホテルで安西さんと口論になったことがある。

その時の彼女はもはや隠す風でもなく、酒も入った勢いもあってか人々の心は操れると、悪びれもせず調子よくしゃべっていた。


『みんな好きっすよねSNS。自分の虚像を使って好きに演出し好きなことを喋る。アレを使うようになったおかげで人の思想を操るのはめっちゃ簡単になりました。ホントSNSさまさまっす』


「何を?安西さん、そんなこと言っていいのか?ちょっと飲み過ぎじゃないか・・・・。あっと!それ以上はこっちにこないでくれ」


『フンッ行かないっすよ!何もしませんし。知ってますし~最近の五島さん。本が売れたおかげでめっちゃ美人とお相手できるようになって毎晩ウハウハやってるんすよね~!あ~やらし~、私のことなんかもう見向きしないわけだ~あはははは~!』


「そんな・・・・・。だってあれは君が、君らが何かやってるんじゃ・・・・?」

 本が売れ出して彼女の目的は大方達成されたのか、安西さんと私の距離感が取られるようになったのは事実だった。


 出版にちなんだイベントやパーティーが各地で催され、その時に安西さんや仁村くん、近くにいる有力者から女性を紹介されるケースが増えていた。その分彼女との距離は開いていった。


 私もモデル風の女性が振りまく色気に興奮を抑えきれず、ホテルで淫蕩に溺れる生活を繰り返した。


『なに?あ~私らが女をあてがったってこと?

そうっすよ、五島さんの好みのスタイルいい女子あてがってよろしくしてもらって、その子らは良い暮らしできて。

その子らにまたインフルエンサー効果でSNSで五島さんの小説を広めてもらう。まあぶっちゃけそれも工作っすよ!アハハハ』


 その日の彼女はひどく悪酔いしていた。

もう私に隠すことなどないとばかりに自分のやってきたことや意見をさらけ出し、これまでとは真逆に私を強い調子で罵倒してきた。


『タグとかでくくって属性ってつけたがるでしょ?ソーシャルメディアって。私はこれが好き!とか。めっちゃハマってます!○○好き集まれー!だとか。

他にも思想的にリベラルだとか保守だとか。人種差別するなー女性の権利を護れとか。アハハハ!馬鹿みたいにネットだと人は意見を晒したがりますよね。大して思ってもいないことを・・・・・。

こっからまたぶっちゃけてマジ話しますけど。ああいう風にカテゴライズされる、管理されることで人って案外落ち着くんですよね~これが。飼われる生活に望んでるみたいなとこあります』


「どういうことだ?安西さんがそういうツールを使って誘導してたとでも?」


『ええ、自分の意見が誰かに同調されると人はすごく満ち足りた気分になりますよね。

元々偏った意見は持っていなくても、その人の出すちょっとした承認欲求みたいなものを望みを叶えて誘導してあげる。するとね、

一個の大きな思想の固まりが形成されちゃうんです。そして自分は元からこういう考えの人間だったんだって大抵の人は納得し落ち着くんです。

あはっソーシャルメディアはそのための工作ツールといっていいぐらいっす』


「そんな簡単にいくものか?確かに人は興味や思想で人との共通点を見つけて喜ぶかもしれないが、それを勘単に誘導できるものではない」


『バカだ、馬鹿がいる。正義漢ぶった馬鹿がいる。

じゃあアンタの作品が単純に人々の心を捉えて売れたとでも~?んなアホな。あれはね~私たちが日々ネットやメディアの右寄りの層を煽って対立を生み、誘導工作をやったおかげだっていうのに~。ホントアホだわこの人』


 彼女から放たれる本音を聞くのは、私も心情として辛いものがあり、私もビールやワインを何杯もあおる。

 安西さんの言説もやけくそめいてだんだん熱が帯びてくる。


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