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小説家人形  作者: 五島タケル
三章
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正しい道

 残されたシールド隊員たちが全員バスに乗り込み、ぐったりとした様子でそれぞれ座席にへたり込んだ。運転役の隊員が一人、気合の入った表情でエンジンをかけバスを発車しようとする。


 まさにその時、彼から叫びに近い声が上がる。

『おっおおーーい!みんなちょっと来てくれー!なんだろうあれ?軍隊っぽいのがこっちに近付いてくるけど・・・・・・、アレって俺らの味方じゃないよな?』


『えっ・・・・!んだって?』

 彼の言葉を聞き、隊員たちがぞろぞろとバスの前方に確認のために集まってくる。


『ああ多分アレ反乱軍の本隊じゃねぇかな?いやちょっと待って赤い星が!?ってアレかなりヤバいよ!多分だけど外国人部隊じゃねえか?・・・・って!ええっ、コッチに向かって発砲姿勢取ってるし!?』

 目の良い隊員が遠くの状況を確認しながら逐一情報を伝えてくれる。


 その言葉の途中で彼が突然顔を歪ませ、身をひるがえし逃げる態勢をとりながら叫ぶ。


 『さがっ・・・・・!』

彼の言葉が終わろうとしたその瞬間、

 パパパパパパンッ!

という発砲音が響き渡り、前方バスのガラスが砕け散った!


『うわあぁア!』

 とっさに隊員たちはその場に身をかがめ、一時イスの陰に隠れるものもいれば、バスのドアから外へ駆け降りるものもいた。


 私は座席の陰に隠れ窓から様子を窺う。

運転席ではドライバー役を買って出た彼が首を曲げて倒れていた。頭部から血が流れ出ているのでおそらくはもう・・・・・。


 この車内に留まることの危険を感じ、

バスの床を這いながら外へと出ることにする。


 後部にある緊急出入り口を押し開けバスから身を乗り出し、まず向こう側の様子を窺う。


 コチラへ進んでくる集団の人影は見えるが、いったん攻撃は静まった様子なので、私は這いつくばりながらゆっくりとバスから歩み出る。

そのまま低い姿勢を保ちながらバスの下を通って、近くにある元いたビルへと戻ることにする。



 ビルにたどりつき一階にある駐車場の壁に身を隠そうとしたその時、


 『ニィカァーン!』

少し離れた斜め前方から、聞きなれない言葉が聞こえて私は身をすくめる。


 パーンッ!パーンッ!

同時に銃声がして、私がはい出た後を追うように銃弾が近づいてくるのが分かった。


 柱の裏に身を隠して、荒い息を必死で整えながら次の逃げ場所を視線の動きで探す。

『市街地戦はゲームみたいでぜってー楽しいって』

こんな状況なのにイカれた機動隊員の言葉を思い出していた。


 それぐらい現実感がなく、追い詰められた末の走馬灯にも思えた。

案外直前のどうでもいい記憶がよぎるものだと悟った。


 

 隣のビルとの隙間を次の逃げ場所と定めて、

私は柱の陰からのっそりゆっくりと進み出る。

2、3歩進んでから顔をふと右に向けると、すぐそばに人が立っていた。


 軍服とヘルメットを身に着けて、

顔はゴーグルとマスクで隠し素性は読み取れない。

小銃をゆったり構え、銃口をコチラへ向けゆるい警戒姿勢をとり私に向き合う。


 『ハアンンッ?』

おかしななまりの疑問符を吐いたので、これは外国人の潜入員だと思った。


 数秒間私は身動きがとれず、その人物とにらみ合う形となる。

腰をかがめた今の私の姿はまさに蛇に睨まれた蛙といったわけだ。追い詰められた状況を身に沁みて感じとっていた。


 その外国人隊員の元へもう一人、同じ国の勢力と思しき人間が近づいてきた。ますます状況は悪化していく。


『ニーツァイツゥオシェンマ?シィイシェイ、ビェン。マアダァ・・・・フハッ!』

相手は2人になったことで少しリラックスして会話をしだす。


 若干私への注意がそがれたと感じ、もうここしかないと意を決した私は盾をグッと握りしめ行動に備える。


 会話している2人がコチラへ目線を向けていないことを確認してから、持っていたシールドを向かい合った2人の兵士へ向けて思いっきり放り投げる!


『ワァオ!?セイェン!』

 重い盾をぶつけようとしたので当たりはしなかったと思う。だが確実に相手はひるんで気を逸らした。


 その隙に私は隣のビルへと手をついて獣のように駆けだした。前傾姿勢で必死にダッシュする、何も考えず無心で前へと。


 1,2,3,4,5・・・・。数を数えていた。

歩数だろうか秒数だろうか、前に進んでいる実感が欲しかった。 


 

 パァン!

隣のビルのドアに手をかけようとした時、銃声が響く。


私は右足に鈍い衝撃を受けたことを感じ、感覚を失い倒れた。


 以前の経験から撃たれたことはすぐ分かった。

(またかよ・・・・!?今度は右側か!?)

ズボンにじわりと血がにじみ出てきて、刺す痛みが激痛を伴って広がってくる。


何故だか分からないが少しだけホッとした。

 もう終わりだと、

不思議と覚悟を決めることが出来たからだろう。



 小銃を構えた敵国のスパイが一人、私を見下ろすカタチで近付いてくる。


 『ブータオディアオ。ニーヨウチィ』

表情はよく分からないが、言葉から笑っているのを感じた。


 ようやくこのツラい現実からオサラバできるかと思ったが、その兵士は何故か持っていた銃をしまってしまう。

右足の痛みが段々と広がっていき、私は歯を食いしばりながら相手の様子を眺める。


 兵士は銃の代わりにナイフを取り出していた。その刃先を触りながらマスクを外し、うっすら笑みをうかべて見せる。

いわゆるアーミーナイフというやつで、刺されたならその痛みと衝撃は尋常ではないとその形状だけでも恐怖感が伝わってくる。


 死ぬ時でさえこんな辛い死に方でしか逝けないのかと、私は自分の運命を呪った。


『五島さんは、そういうこと小説で書いてるんすよね?』

『いや違う、僕はこんな現実を変えるために』

 安西さんに何と言って申し訳をしよう。

・・・・いや、ここで死ねばきっと彼女にも見捨てられる。


 血縁者も親戚もいない孤独な私は、ひっそりと縁もゆかりもないこの島でただの一個のモノとして処理される。


 どこまで痛みに耐えられるだろう?

すぐに意識を失えばいいなとか、もうそんなことしか考えなくなっていた。



 その時、

『ティン!ニィメンフイチー!何してんだ!五島さん!・・・・・、フイチィ!ツァオグァン、ジオジェイ!』


 聞きなれた声がするのを感じる。

なんとなく懐かしさを感じさせる声。その声が聞きなれない言葉を話しているおかしな感覚があった。極限状態から、きっと記憶と現実のはざまで脳がごっちゃに揺れ動いているのだろうと思った。


『大丈夫ですか、おーい五島さん!おいっごとうさーん!踏ん張ってください!すぐにこの場から立ち去りますよー!なんとかついてきてくださーい!』

 その声を聞くと不思議と安心感が広がり、前にもこういうことがあったような既視感が広がった。


 きっと助かる、今度もまた彼に助けられた。

先ほどまでとは一転、私は命が救われたことを感じ取っていた。


 ゆっくり目を開いていくと、

私の身体の上には先ほどの敵国兵士はなく、やはり・・・・、仁村くんの姿があった。


「えっ、なんだろう。これは夢か?」

『違いますよ!気をしっかり持ってください!あなたはまだ生きています!さあささっと逃げましょう!ボクにしがみついてでも付いてきてください!』


 私は仁村くんに抱きかかえられ、右脚を引きずりながら引っ付いていく。


 あまりにも空虚な現実感で、仁村くんがここにいる状況もよく分からなかったし、彼の逃げるという言葉もあまりに無謀で現実感に乏しい言葉に感じられていた。なのに、


「奴らはどうなった?そこには敵国の兵士たちが」

『彼らならもう追い払いました』

「えっどうやって・・・・・?」

『・・・・・うりゃーっ!って叫んだらひるんでどっか行きました』

「ふんっバカらしい・・・・・、ちゃんと言えよ、あとで」


 敵国の兵士はもうすっかり姿を消していた。

私たちの前からは、という意味でだが。


 

 向こうでは私の同僚のシールド隊員が逃げまどいながら、依然交戦している姿が確認できる。


 2、3人だが見知った隊員たちが、それぞれ周囲から銃撃を受け、無残にも身体から血を噴き出しもんどりうって倒れていく。


「くっ・・・・そが」

 私は目を逸らし見なかったことにする。

今の自分と彼らの状況の落差に、あまりの矛盾と乖離を感じていた。


 パパパパパパンッ!

『うおぁああぁわぁああぁぁあ!!うぐぅああぁ、やめえっ・・・・!』


 銃声が辺り一帯でとめどなく響き渡っている。

時には断末魔のような叫び声も。

私たちが逃げるのは無視して、敵国の兵士たちは周りで交戦している。


 不自然極まりないその状況のなかを、

半ば堂々と仁村くんは私を引き連れて歩いた。


 この場だけは、もう何も感じないことにした。

他の隊員たちの無念を想像すると押しつぶされそうになる。


 それに耐えるために、負傷した右足の痛みに意識を集中させよう。自分も消えない傷を受けた。この傷を戒めとするため、私は痛みに意識を向ける。



 やがて仁村くんの用意していたワンボックスカーへたどり着き、私はまたも中へ押し込まれる。


『ふうっ、とりあえず病院へ向かいます。そこでしばらくあなたを匿いますからその後はまた・・・・・、まあいいでしょう、とりあえずいったんリセットで。しばらく頑張ってください』

 後部座席で横になり、意識のはざまにあって途切れ途切れ考えていた。


 私は何度こんなことをやればいいんだろう?

小説家になる人間がやることなのか、これは?

私は戦場ルポルタージュ小説でも書いた方がいいのでは?


 2度あることは3度とも。

もしこのバカげた国のバカげた隊員任務を続ければ、今度こそはない。


 仁村くんがいなければ、最初の危機の時に既に命は失われていただろう。


 やはり全て仁村くんや安西さんの言う通りだった。

これが自由のもたらした国で生きる人間の帰結なら、私は規律の元へすがろう。


 今度こそ、このC3部隊の活動を辞める決断を下そうと思った。



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