排除の盾
『隊員諸君!招集に応じてもらいまずは感謝申し上げる!これより君たちに当たってもらう任務はこれまでとは違い、過酷で厳しいものになると覚悟してもらいたい!』
沖縄へ着いてすぐに、全シールド隊員が基地前に集められ隊長からの訓示をかけられる。
イージス部隊隊長を名乗る人物はサングラスにヘルメットをかぶり特殊なマスクを着用していた。屈強な体つきをして精悍な雰囲気はあるが、どこかその人物像を隠して窺わせない。
『ここ数年、沖縄では基地撤去を求める抗議活動が強まっているが、現在はそれに便乗した勢力による反乱活動が各所でおこなわれ苛烈を極めている。
反乱組織は外国の組織とも繋がって武器を伴った暴力的な活動をおこない、我がC3隊員や警察員に多数の死傷者を出す事態となっている。
なにとぞ諸君らは気を引き締め、これより行うのは戦闘だという強い意志を持って、危害を加えてくる相手を徹底排除する気概で敵に立ち向かってもらいたい』
隊長からの任務にあたってのブリーフィングが終わると、私にも装備品としてゴーグル付きヘルメットに防弾チョッキ、防塵防ガスマスク、警備こん棒、レーザーガンそして本物の武器、自動小銃が与えられることになった。
「あっあの、私は本物の銃やこれらの武器は訓練でしか扱ったことがありませんが!」
私は正直にこの重々しい装備に対する引け目を伝える。
『分かっている!しかしそれはゴム弾で本物の銃ではない。それに訓練で銃の扱いはしているよな?反乱勢力は当然武器を持っているぞ!丸腰でいけるのか?あん?それらは威嚇目的で発砲するものだ。危機を感じたら相手に向かって発砲すればいい、当たれば相手はひるむそれだけのことだ』
確かに全てその隊長の言う通りと感じたので、ここで問答しても意味ないと感じ私は全ての装備を身に着けることにした。
照明弾、グレネード、催涙弾など全ての装備品を背負うとずっしりと身体が重く感じる。私には分不相応な装備な気がしたが、
この重みが私に課せられた役割なのだとラノベの主人公みたいな気持ちで妄想すると、どこかスペシャルな兵士になれた気がした。
私は12名のシールド隊員からなる第3南西部デルタ部隊へ配置される。最初はまずは肩慣らしのためといわれ、基地周辺の警備任務に当たることになった。
そしてこの後には、本番の市街地での反乱鎮圧任務にあたると予告されていた。
沖縄の要所にある基地周辺へ隊列を組んで進み、フェンス前に私たちは陣取った。私たちの後ろのフェンス越しには、張り詰めた雰囲気の警察機動隊が控えている。
遠くの方では、抗議活動中の県民と思しき集団がチラホラ見える。しかし身なりはいたって軽装で、武器も目立つものは特に持っておらず、雰囲気や恰好に特に剣呑さや威圧感などは感じられず、少し目つきが悪い程度の一般市民といった感じだった。
『シールドぉぉ~構え~~~!!』
突如隊長からの指示が飛び、我々は持っていたジュラルミン製の盾を構える。気付くと最前列に立っていた私は、じりじりと足を滑らせて横へと移動していった。
シールドを構えたまま30分ほどが過ぎる。
ずっとこのままの任務なのかと横に並ぶ隊員たちからはため息や、荒い呼吸の音が漏れていた。
体力的にきつくなり始めていた矢先、どこからか石が飛んでくる。それが一人の隊員の盾へと当たった。
『警戒―!発砲があったぞ!』
誰かが叫ぶ。
すると今度はガツッン!という衝撃音と共に一人の隊員が後ろへのけぞる。見るとボウガンから発射されたと思われる矢が転がっていた。
さらに何本かの矢や空ビンがが続けざまにコチラへ向かって飛んできては衝突する音が聞こえる。
どこから飛んでくるか一定の方向は分かるが、矢への恐怖感から皆シールドを握りしめ、身をかがめて対応する。
ガガガガンッ!
音や衝撃を受けてたまに顔を上げると、矢や大きな石、瓶などがあたりに転がっていた。
『応戦せよ!シールド隊員もっと前へ出ろー!その間から警備局員はゴム弾発砲用意!順次応戦、容赦するな!敵勢力の攻撃が沈静化するまで攻撃の手を緩めるなよおっ!』
隊長からの攻撃開始のかけ声が聞こえると、私のそばにいた隊員たちがシールドを携えぎゅっと中央に固まってくる。私はそれに押され、そのど真ん中にいる圧迫感に耐えながら必死で自分のシールドを両手で押さえていた。
ダダダダダダダダダンッ!!
すぐ近くから発砲音が聞こえてくる。
私は目を瞑りシールドで顔を隠しながら祈り続けていた。祈ることの意味などないとずっと思って生きてきた私が、生死の境目に立たされて祈ることしかできなかった。
≪どうか助けて、助けてください!僕は今日、明日を生き延びて帰らなきゃならないんだ。小説を、生きた小説家として僕はこの世界にいなきゃいけないんだ!生きて、生きて安西さんに会いたい!安西さんと結ばれたいっ!だからどうか、どうか助けて、どうか身体だけは無事に助けてください!≫
必死で願いながら、ヘルメットにたまにぶつかる衝撃や熱さに首の筋を違えながらも、なんとかこの状況を耐え抜こうと身をかがめてこらえ続けていた。
その後どれぐらい時間が経ったかはよく分からない。シールドに身をかがめながら衝撃に耐えつづけ、隊員たち集団の圧力に流されるまま強引に移動を何度か繰り返し、盾の役割を果たしつづけた。
洗濯機の中の衣服のようにかき回され続けて、身がボロボロになっていた。
気付くと音は止んでいた。
辺り一帯はしばし静寂と、隊員たちの荒い呼吸音だけに包まれる。
『状況終了―!敵性組織の反乱行動は鎮圧された!隊員たちは周辺の警戒を続けながら、防御陣形を一時開放せよ!ご苦労であった隊員諸君!』
少しすると隊長から行動終了とねぎらいの声がかかる。
そこでようやく辺りを見回して状況を確認してみる。
するとすぐそば7、8メートルほど前方に人間が数体転がっているのに気付き、シールド隊員は皆唖然とした思いでそれを眺める。
倒れた人の手にはボーガン、周りには鉄パイプや瓶などが散乱し、反乱組織の人間と思われるが、ごく一般的な服装や作業服を着た人たちで、一見普通の男性たちのようでもある。
それぞれにドス黒い顔をして明らかに息がないものや、うめき声を発し顔を押さえている人たちが数名確認できた。
『うぎゃああ!うそだろう?なんでこんなことに?』
『おえええええっ!れれれれれえろっろろっろ』
死体を見ては動揺を浮かべ、嗚咽を漏らしたり中には嘔吐している者たちもいた。
私もそれなりのケガ人がでることは覚悟していたが、まさかゴム弾の発射でこんな死体がいくつも転がるほど血みどろのおぞましい光景になっているとは思っておらず、想像以上の惨劇に悲しみや諦念、虚しさや怒り、様々な感情が揺れ動きしばし固まってしまう。




