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小説家人形  作者: 五島タケル
三章
61/80

一体

「はあ~、すんませんっす」

しばらくすると安西さんが戻ってきて、私はその顔を見てうろたえる。


「えっ!いや、どうしたの!?」

「・・・・・顔っすか?うっ、なんか私悲しくなっちゃって、すんません。でも、ううっ」

 彼女は泣き顔で目を真っ赤に腫らし、元から腫れぼったいまぶたによってその悲しみををより強く演出していた。


「なんで泣くのさ?別に小説に感動したって様子じゃなかったのに」

「えぇそれはそうですけど、その逆です。なんか悲しくなっちゃって」

「いやだからそれは聞いたから、何がそんなに悲しいのさ、急におかしくない?」

 安西さんは私を蔑む目つきで見ながら、少しためらいがちに語りだす。



「五島さん酷いっす。私と一緒に意見を言い合う形で小説を創り上げてきたって思ってたのに、何であんな勝手な結末に変えたんすか?私の意見うっとうしかったっすか?」


「いやちがくて、それはちょっと試したってか・・・・・、本当は違うんだ」

 予想以上の拒絶の反応を受け、私は少しパニックになりすぐさま弁解のネタ晴らしをしてしまう。


(ラスト部分は2バージョン作り、今見せたのは安西さんと会う前に構想していたものを急遽思い付きで書いてみただけで、実際使う気はないこと。

そして彼女の意に沿う形で作り上げたバージョンは、すでに出来上がっているということ。)


「なんすか試したって?本当は別にちゃんとしたのあるんすか?」


「うん、実は安西さんと一緒に構想を練る形で作り上げたバージョンは既に仕上がってて、君の意見通り本当はそっちの方がいいと僕も思ってる。でもなんか腑に落ちないところもあって、今見せたのは試しに書いてみただけなんだ」


「じゃあ何でそっちを出さないっすか?私をからかってそんなたっ、楽しいっすか五島さん!それにそんな別の書く時間あるならちゃんとしたバージョンのをしっかり見直してほしいっすよ!」


「ゴメン、安西さんの言うとおりだ・・・・・」


 私は安西さんに促され、

すぐさま彼女の意に沿う形で書き上げていた“規律バージョン”の原稿を見せる。


 しばらくじっと読んでいる姿を眺めていると、さっきまでとは一転、安西さんは穏やかな表情でずっと読み進める。

そして読み終えた後には目から一筋、涙がこぼれ落ちていた。


「うん、すごくいいっす。これっすよ!感動しました!めっちゃ胸打たれるっす!私が五島さんに才能を感じるのは。こういうのをさらっと書けちゃうからなんすよ。ずっと言ってたでしょ?何で変なことしちゃうんすか~」


「その~なんかこの小説を書いてる途中でやけに安西さんの思想が強く入り過ぎているような気がしてさ、途中からはなんとなく僕の作品じゃないような気がして・・・・」


 すっきりとした表情の彼女に胸を打たれて、私は自分を強く戒める必要を感じ、何故別のバージョンの小説を読ませたのかというもう一つの理由、安西さんに疑問に感じていたことも明かしてしまう。


「なんすか私が意図的に改変したとでも言いたいんすか?それに何の意味が、私になんか得ありますか?あのね、書いてるのは五島さんすよ。もっと作家としてやっていく気概みたいなものを持ってほしいです。本気で小説家としてやっていきたいと思ってるんすか?ええ!?」


 私に試されたショックだろうか?先ほどから安西さんは人が変わったように強く詰め寄ってくるように感じられる。


「私は五島さんがすきっ、五島さんの作品がすごく好きで才能に惚れたから、世に出るべき作品だと思ったから労を惜しまず参考としてでも、意見出してるつもりだったんすよ。それが疑われたなんて私ショックすよ・・・・」


 安西さんの悲し気な表情と憤る言葉を聞いていると、至極まっとうな反論に思えてきて、好意を抱いてくれる女性への仕打ちとしてはあんまりだと罪の意識に苛まれる。


「うんその通りだ、本当にゴメン。僕も泣きたくなる。君があれだけ褒めてくれた作風がいいとは感じていたんだけど、これまで上手くいってないせいでどこか疑い深くなってたのかも」


「ううん、全然いいんすよ私は。五島さんが納得してくれたのなら。じゃあ先に見せたあのしょうもない結末のやつは捨ててください。そんで今ここにある正しい終わり方のバージョンでブラッシュアップしていきましょ」

「ああ分かったよ。なんかヒドイこともしちゃったみたいだけど、ホント今日はありがとね。また意見ドンドンちょうだい、今日みたい厳しくてもいいから」



 私はおかしな疑念もすっかり晴れたと感じ、ようやく小説が仕上がった充実感を味わおうとしていた。


 少し悪いことをしたなと思いながらもこのまま安西さんは帰して、小説の仕上げや見直し、投稿先などを考えるつもりで一人パソコンの前へ向かった。


 だが安西さんはその場に立ち尽くしたまま、またも不満げな顔つきを見せる。


「えっと・・・・?どうした、まだ何かおかしなことが?」

「またっすか?ひどいっすよね、私今日オシャレしてきたって言ったっすよね。五島さんも素敵だって言いました。なのにほったらかしっすか?

小説仕上がったからって呼ばれた時、なんとなくあっ今日はそういうことするんだなって思ってきたんすよ」


「え~っと・・・・、そういうことって?」

「なんすか、また私を試すんすか?かまととぶった女子みたいなこと言わんでほしいっすよ。男なら全て女任せにしないでほしいっす」

 

 少し目を伏し目がちに話す安西さん。

どうやら彼女は私と今日男女の関係になるもだのと思いこんで、ここへ意を決してやって来たようだった。感情の浮き沈みも、そのせいであると私はこの時点で判断した。

またも緊張から胸が高鳴り、私は生唾を何度となく飲み込む。


「えっとでも、本当にいいの?それにまだ小説の仕上げがあるって・・・・」

「ふんっ意気地なし!」


 そう言うと安西さんは私の背中に手を回し、ぎゅっと強く身体を抱きしめてくる。見た目よりさらにふくよかな胸と腰が体に密着し、私は緊張と興奮で身体が固まる。


「まあいいっすよ。とりあえず今はこういう関係でも。・・・・・でも五島さん、本当に小説家になりたいなら、私の指示に従っていることをおすすめします」


 安西さんは体から手を放し、私の肩を押さえつけて、いきなりにしてはかなり不自然に感じる舌を入れた濃厚なキスをしてくる。


 そして、またも意味ありげなセリフを漏らしていた。


「じゃあまず最初の指示、それの投稿先は勝手にきめないでくださいね」

「えっなんで?投稿先決めないでって~?続きはしてくれないのぉ・・・・・」


私は興奮とパニック状態から頭がふらつき、考えも聞くべきことも頭で定まらず、ただ彼女にすがりつきたい心境に駆られていた。


「今後、私を試すようなことは禁止っすよ!じゃないと五島さんの未来はありません。・・・・ってこんなタイプでもない女子に続き求めるなんて、ってなんだやっぱ私のこと抱きたかったのか~。やっぱ五島さんムッツリなんだ、アハハハ!」


 その明らかに変わった態度と笑顔を見て、私は喜びを感じる。

私は彼女の虜になっていることに気付かされた。

あえて彼女を気にしないようにしてたのは、

彼女の目線がずっと気になっていたからだ。

いつからか私は、彼女に求められる自分を望んで演じるようになっていた。


 この瞬間、私は確信する。

さっきまでの疑念が舞い戻り、それを至極当然なものとして受け入れられていることに気付く。


 彼女は私を、間違いなく操っている。


 そしてそれを望んでいる自分がいる。

そのおかげで、私は今日ここまで小説を書き続けてこられた。


 安西さんを慕う気持ち、大切に思う気持ちがとめどなく沸き上がっていた。


彼女の意思が全て、全てを委ねたくなっている。


「僕わぁ~この小説、魂のボーダーライーンってタイトルなんだけど、また文学誌の新人賞に投稿するつもりだったぁ、それじゃダメかなぁ?」

「ダメっす。無駄なことはやめることっすね」


 私はただ彼女からの正しい意見が聞きたくて、駄々をこねる子供の様にすがりついて聞いてしまう。


「何でだよぉ~!?君は、この作品が世に出るべきだって言ったよなあ~?」


「今の日本の出版界、いや社会全体は没落しています。五島さんの様に高度な思考を要求される作品を受け入れるだけの土壌はありません」


「そっそうか、そうだな。・・・・・でも、じゃっ、じゃあどうするんだぁ~?僕はずっとこのまま君の言う通り小説を書いて、まぁたネットにでも投稿しろって言うのかぁ~?」

「違います、もっと無駄です。そんなの見てるとしても、より出版社のアホ関連、ラノベ担当とかしか見てません・・・・っす」


「じゃあ、もう一体どうしろってぇ言うんだぁ~?自費出版でもしろっていうのか?そんなの費用もかかるし、取り戻すだけ売れるわけないだろうー!」


「だから、全部私に任せてほしいんですよ、五島さんは」


「何を~?君に、安西さんに何が出来るって言うんだよお~?僕が本を勝手に出して、それを全部、君が買ってくれるとでも?じゃあ一万部出したら、全部君が買ってくれるっていうのか?・・・・・バッカらしい」


「買うっす、買ってもいいっす。私が全部、五島さんの小説を出版する権利関係全てを。そして広めてあげるっす、この世界へ。正確にはまずこの世界の片側全てへ、五島さんの思想を伝えてあげます」

「そぉんな~ことぉ~君に・・・・・、できるのかなぁー?」


 不敵な笑みを浮かべながら、安西さんの語る途方もないビジョンに、不思議とやましさは感じられない。


 思えば、彼女は会った時からずっとその思想が貫徹していた。


 彼女はウソはついていない。最初からずっと。

彼女の言うとおりに世界はなっていき、

私の小説はかつてないほどうまく仕上げられた。

彼女の言うことはずっと正しかった。


 安西さんにずっとすがりついていたい、

その一心で私は彼女の腰に手を回し、しがみついていた。



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