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小説家人形  作者: 五島タケル
三章
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大いなる意志

『3人で降りようか?』

その時ふと、瑠璃が漏らす。

『もしかしたら3人で当局に出頭すれば、なんとかこの世界で生活することは可能かもしれない、もし兄さんが同意してくれるならだけど』


『でも、出頭すれば生命としての死が待ってるって瑠璃は・・・・』


『一つの個体ならそうだけど、パターンによるね。

本来2人のエラー個体のうち1人がここから降りればいいわけだけど、兄さんと麻里香さんがツガイとして認識されたなら2人での残留も可能となる。そして私はまた新たにB面のシーズとして戻ればいいのだし』


『そんな今更、バカげてる』

『じゃあ兄さんはまた戻りたい?

病気で体が動かなくなった麻里香さんが、死を望む方がマシだと感じる世界に。私みたいに大切に思っている人に捨てられる世界に?』


『それは・・・・!』

 三島には耳が痛い言葉だった。

自分も一度は瑠璃を捨て、周りの人間たちもあまりにも身勝手な行動ばかりで他人を傷つけ、人の営みをないがしろにしていた。その様子がありありと浮かび、うす汚く感じられていた。


 彼女たちの言うように、それらが自由の名の元にもたらされた人間性の喪失だというのなら、規律の名の元に全てが適切に管理され、望む人たちと生きられる方が、たとえ機械的であろうと何倍もいいと今の三島にも感じられていた。


『うん分かった・・・・・、3人でここに残ろう。そして今日から僕らはB面で暮らす、3人でひとつの家族となってさ』

『・・・・・うぅん。ありがとう兄さん』

『ありがとう三島くん、私を捨てないでくれて。これからはひとつの家族だね私たち』


 麻里香と瑠璃と3人で身を寄せ合いながら、三島はシーズたちの一群へと身を預ける。

シーズの一団に捕らえられていると、不思議とそれまでの恐怖感は消え、とても心地いい感触さえ感じられた。



 そのまま上階へと戻り、当局の矯正施設へ送られる。


 施設内に一時留められ、いくつかの矯正措置を受けた。それはどれもがごく単純な思考の在り方を教えるものであり、特に何も考えなければ簡単に受け入れられるものだった。


 措置を受けると、ふたたびエポガイア市民となるための査証期間が始まると言われ、その時に麻里香と瑠璃、両方とのツガイ申請をした。


 それでは矯正措置の執行は一部猶予すると言われ、ふたたびエポガイア市民としての日常生活が戻った。

 

 その間にツガイの証明とするため、大勢のシーズに見守られながら、三島は麻里香と生殖行為を行い、瑠璃とも粛々と行った。


 そこには特別の快楽もなかったが、とても満たされた感情があった。


 瑠璃も麻里香も三島を無表情で受け入れて、適切なツガイとして3人でひとつの、エポガイア市民の認定を受けることが叶った。


 それから3人は特に思い煩わされることもなく、生殖に適した期間ツガイの営みをおこない、労働に適した期間だけ労働をおこなった。

システムの管理下の元、規則正しい生活を送りだれもが幸福感に満たされていた。


 やがて3人は穏やかな死を迎えるだろうが、全ての役割を果たした彼らは、この世界を循環するシードとなり、この先もシステムの一部となって生き続ける。


 このシステムが安寧の元、存続する限りにおいては。


 それはまだずっと、先のことである。(了)

―――――――――――――


 一応自分なりの結末を描いてみたが、やはりどこか腑に落ちなかった。


 この終わり方は私が思い描いていたものなんだろうか?違和感どころか、私の思い描いていた結末とは全く違ってしまっている気がする。


 本来の構想では、現世行きの電車に乗った3人で、現実世界への帰還を無事達成するラストを描くはずだった。


 自由の元に選べるのは尊いことなのだから、僕らこれからお互いぶつかることがあったとしても悩みながら考えて、どうなるか分からない世界で暮らすべきなんだと三島が決断し、瑠璃と麻里香を強引に列車に押しとどめる。


 その後シーズとの決闘シーンを描きながら、システムの暴走を引き起こしてなんとか帰還する構想だった。


 しかし途中から執拗に規律やシステムの管理下に置かれる瑠璃の主張が入り、話がB面に残る方に歪められてしまった。もはやそうすることでしかこの作品を終わらせることが出来ないと感じて、自然な思考に任せているとこういう結末が導かれた気がする。


『五島さん、本当に自由っていいもんすかね?私は自由があるせいで、この社会に生きる人たちはどこかおかしくなったって気がするんす・・・・』


 安西さんなら、私のこの作品を見て、無条件に賛同の意思を示してくれるに違いない。なにしろこの作品は途中から、彼女の意見を大いに取り入れて、励まされる中でずっと執筆に取り組んでいたのだから。


 私の唯一のサポーターであり、指示してくれる存在に支えられ、いつからか私はそんな彼女の意見にすり寄る様になっていた。


『自由だなんだっておかしくなった社会を変えるために、五島さんはそういう小説を書いてるんすよね?』


 ああそうだ。私は社会を、歪んだ社会を少しでも正したくて・・・・・・?


 いやそんな崇高な理念など元々もっていなかった。ただ私は人を楽しませる立派な小説家になりたくて、書いているだけだったのに。


『誰かの言うとおりに動くって楽しいっすか五島さんは?私は楽しいですよ。自由を縛る規律って言葉に、私は興奮します』


 中には彼女が言った言葉でないものも混ざっていた。


 小説にのめり込むあまり、私が創作し変換しているんだと思っていた。自分の作品で描く内容が正しいんだと思い込むために。


 現実と想像の安西さんの乖離に、何度か悩まされるようになった。そんな時は大抵私は夢うつつ状態で、眠りについた後だから気にしていなかったのだが・・・・・。


 ある疑念が頭をよぎる、考えたくもないおぞましい疑念が。


 作品を一本書き上げた後には、本来もっと晴れやかな気分になっていいはずだが、初めといっていいぐらい重苦しい気分に支配されている。


 これは私が書いた作品ではあるが、半分は誰かに書かされたんではないか?そんなあり得ない妄想を浮かべてしまい、私は胸が苦しくなった。





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