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小説家人形  作者: 五島タケル
三章
48/80

揺らぐ土台

 心身ともにすり減らしていく日々の中、合間を縫ってなんとか小説だけは仕上げようと、気持ちを奮い立たせ夜には机に向かった。


 度々様子を見に部屋を訪れてくれていた安西さんにもアドバイスを受け、わずかずつ本当にわずかつつだが気持ちを奮い立たせて執筆を進めていく。

この道でしか今の虚しい日々を抜け出す手立てが思い浮かばなかったからだ。

―――――――――――――――――――


 麻里香の口から告げられる真実の告白はにわかには信じがたい、フィクションのように感じられた。


『生まれながらにして自分の意思を持つようには私は設計されていない。誰かの望む私でいることが、私の存在価値だったから』

『人工的に造られた生命・・・・?麻里香さんが?』


 デザイナーベイビー。

設計に基づいて人為的に生み出される生命。彼女がそうだという。だがこのB面の世界で過ごしていると、そんなものもはや当たり前にも思えてしまう。

三島は先入観を取り払うように頭を振って、真実の続きを確かめようと、麻里香からの続きの言葉を待つ。


『私はある依頼主の希望通りの外見になるようこの世に産み出され、その人物のための愛玩人形として育った。

今から考えるとひどくおぞましい日々だった。でもそうするのが私の自我と感じていたし、その人物にとっての私はどうあるべきか?相手の意向に合わすことでしか私は私でいられなかった』


 麻里香は13歳まである資産家の男に飼われて生きてきたという。その人物だけとしか接触せず、その男のためだけに身を捧げる日々は、彼女にしか分からない経験であり、想像のしようもない。


 しかしその原初の経験が、彼女をどんな性質を持った人間として育て、ここまで生き永らえさせたのか?彼女が女優として、そして人としてここまで生きてこられたこと自体が奇跡に思えてくる。


 そんな日々、人形としての日々は唐突に終わりをつげ、脱税および人身売買の罪でその資産家の男が捕らわれたことにより、男の屋敷にいた麻里香は救出され、ある日突然外の世界に出ることになった。

そして今まで人生残り半分に渡る15年間の人らしい生活の中で、彼女は人形として会得していた技術を使って懸命に生きてきた。

それが女優としての恩田麻里香だった。


『でも、演技だとしても、これまで僕に見せてきた恩田麻里香が全てウソ偽りだとは思えない!麻里香さん、僕にとってはアナタは一人の魅力あふれる人間なんだ。そして多くの人の心をつかんで離さない素晴らしい役者だ!それは決して意図通りにプランされたものじゃないだろう?』


『それが何か?演技が上手くハマっただけのことよ』

『それでも・・・・・、麻里香さんは今、あなた自身の意思で自分の行動を決定づけようとして悩んでいる。そうじゃないのか!?』


『言ったでしょ?私はこれまで何一つ自分らしさを持ったことが無いって。全部誰かの望む私を演じていただけ。それを究極的に突き詰めたら女優になって、私になっていたってだけの話よ。それで、今後どうなるのか?って今悩んでいるだけ』

『悩むって言うのは、自分を持つってことなんだよ!その時点であなたはもう・・・・』

 

 ダッダッダッダッダダダダ!

その時、モールの床がガタガタと鳴る音が聞こえてきて、同時に三島のパーソナルデバイスにメッセージが届く。


『兄さん、早くそこから逃げて!奴らが迫っている。今いる不易実用っていう店。その間にある従業員用通路を通って早く!そこから地下に降りられる!待ってる』

 瑠璃からのメッセージで、有無を言わせぬ緊急性を伝えるメッセージだった。


 何故瑠璃がこのようにB面の詳細な場所やルートの把握をしているのか、冷静になれば疑問に思えることだろうが、この時の三島は目の前の麻里香を救い出すことに必死だった。


 元の世界に帰ってもう一度彼女とやり直す。

その意志だけが己を突き動かしていた。


『さあっ文句はあとでいくらでも聞くし、死にたいなら後でいくらでも付き合います。でも、その前にここから出ましょう!』

『いやよっ、なんで私ばっかり、こんななの?もう、ううぅっ・・・やだよぉ!』


 感情を隠し切れない麻里香の肩にそっと手をやると、二人は互いの手を取り合い、通路を飛び出していった。

――――――――――――――――――――――


 これさえ、この作品さえ完成すれば安西さんの言う通り、私は世界中の人々の心を感動で揺り動かし、一変させられる作家になれる。

「はあ・・・・、本当にそうか?」


 一息ついて天井を見上げる。すると安西さんの顔が頭に浮かんだ。


『そういうこと書いてるんすよね?五島さんは小説で。自由だなんだって人の心がおかしくなったこの社会を正すため、変えるための小説を。秩序を取り戻すために・・・・・』


 息詰まる度、なんどとなく彼女の言葉を思い出し、小説に向かう気持ちを奮い立たせる。


『五島さん、そうやって誰かの言う通りになっていて楽しいですか?アナタの意思なんてあってないようなものですよ・・・・。フフッ、いつか本当の小説家になれるといいですね』

 これは安西さんの言葉だろうか?ふいに記憶には無いはずの彼女の言葉や姿が頭をよぎる。しかし、彼女とは少し雰囲気が違うような。


『出来るっすよ!五島さんなら!』


 無条件で応援してくれる彼女の存在に有難みは感じるが、安西さんは一体私に何を求めているのだろう?


 ・・・・・いや、考えていてもキリがない。


 どんな私であっても彼女は賛同してくれるのだ。

そんな彼女のためと思い、捧げるつもりでこの小説を仕上げてみよう。


 この私の作品が、現状の醜くおぞましいこの日本の社会を少しでも揺るがし、変えることができるというのなら。


 彼女と共にいて指示されているおかげか、いつからか私はそんなバカげた妄想まで抱くようになっていた。


 

 自問自答し鬱屈していく日々の中、異常さを増していく日本の社会をさらに大きく揺るがす出来事が起こる。


 マグニチュード8.7の大地震が日本の太平洋側全体を襲った。


兼ねてから指摘されていた、地殻上の懸案事項。南海トラフ大地震だった。




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