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小説家人形  作者: 五島タケル
二章
43/80

システムの名のもとに

 いつも通り決まった時間に仕事を終えて、

寝床にしているショッピングモールへ帰ってくると、あるショップの前で佇んでいる人影に気付き、三島は一瞬身構える。


 少しよそ行きに感じるノースリーブのワンピースを着て、うっすらと微笑みを見せている怪しげな女性、そこには麻里香が立っていた。 

『おかえりなさい、三島くん』

『なにどうしたの麻里香さん?そんなとこに立って』


 自分の帰りを出迎えてくれた存在にホッとすると同時に、若干の不気味さも感じてしまっていた。

『うふふっどうかな、おかしい?このショップの服なんだけど』

『いやそういうことじゃなくて・・・・・』


 いつもならこの時間は、二人で居を構える家具店のベッドにて眠りについているはずの麻里香が、そこに立っていたからだけではなかった。

 目的をもってうろつく人間の姿を、久々に見た気がしたからだ。


『じゃあ帰ろっか?』

『あっああ、うん』

『なあに、緊張してるの?じゃあ演技のつもりで少しデートしましょう』

 高揚した様子の麻里香に腕を引かれ、寒気が漂うモール内を二人でふらふら歩きながら見て回る。


 その途中で麻里香の足が止まる。

“不易実用”という大型雑貨店の前だった。

『ねえ今日からここに住まない?』

そう言って麻里香は店の奥へと進んでいき、心地よさそうな大きなソファーへと身を委ねる。

その横に、少し間を空けて三島も座る。



『ねえ私、今日病院へ行ったのよ』

健康そうな麻里香から唐突に病院といわれ、三島は首をかしげる。

『・・・・・あっ!うん、そっか』

 B面に来てから病気のことは語らず、次第に苦し気な様子も見せなくなっていた麻里香の病気のことは、自然に治るわけもないのに不思議と意識から外れていたことにいま気付かされる。

 三島は不思議な思いがした。


『そっそうか。でどうだったの?身体の自由が奪われる病気、少しでも進行を遅らせられてたらいいんだけど』

『私、今日排卵日なんだって』

『・・・・・・?』

 病気の現状を聞かされると思っていた麻里香から、不意に放たれる聞きなれない言葉に、三島は反応が取れなかった。


『えっと麻里香さんは一体なにを言ってるの、病気のことは?ちゃんと調べてもらったの?』


『何も言われなかったのそのこと、脊髄性不随のことは・・・・。私拍子抜けしちゃった』


少し照れ臭そうに、頬を赤らめながら麻里香は病院でのことを語っていく。

『もちろん、ちゃんと受付に行って症状を病名も添えて端末に記入したの。するとあっという間に診察に回されてね。診察と言っても全て検査なんだけど、身を任せていたら流れるようにして終わっていたわ』

『終わったって、で結果は?・・・・それで病気のことは何て言われたの?』


『その結果がさっき送られてきたわ。見ると病気のことは何も書いてないのよ。ただアナタは排卵日です、だって』

『いやどういうこと?意味が分かんない』


『つまり子供を作れってことじゃないかしら?だってもう一つあなたの情報も送られてきてね、そこにはあなた、ツガイと書いてあったわね、その精子の活動も良好ですって書いてあったから。アナタのデータも取ってるのね。

あっそれでもし、今日明日あたりにツガイの方と遺伝子結合活動、つまり性交渉ね、を行うならこれにサインしてだって』

『はあ?せっ性交渉って、今こっここでする気なの?』

『なにダメなの?いいわよね三島君は。仕事があって、役割を与えられて。

私には何もないのに・・・・』


 そう言って不満げに麻里香は端末に送られてきたある条文を示した。

そこにはうえに大きく一文、

【よりよい社会を維持するため、あなた方エポガイア市民一人一人の意識向上が

常に求められています。

一人はみんなのために、みんなのためにあなた方は生きているのです】

と書かれてあった。


『なんだよコレ・・・・・』

その下に画面をスクロールしていくと、遺伝子選別誓約書と書かれた項目に目が留まる。


  【遺伝子結合活動に関する誓約書】

・ツガイの男女は、遺伝子を残すための目的として子を設ける際には、当局の許可を得て生殖活動をおこなうこと。

・遺伝子結合活動を行う際には、女性側は排卵日、男性側は精子活動が良好だと指示された日を選び、事を行うこと。

・その際みだりに声をあらげたり、快感を得る目的のみで活動をおこなわないこと。

・複数のツガイでの活動も当局の許可が得られた場合、指定された場所内でのみ認められる。ただ治安秩序を護るため、最低限の体を覆う衣装とパーソナルデバイスを身に着け、薬品で感情を抑えた状態で活動をおこなうこと。

・肉体を過度に行使した結合活動は、遺伝子に意図せぬ異変をもたらすリスクがあることを理解すること。

・病院等により、悪性の遺伝子が発見された発生した場合、速やかに当局に報告すること。

・滞りなく誕生した生命は、当局が指定・管理する施設へ一定期間保護された後、当局指定の施設にて生育なされることを承諾すること。

・当局が悪性と判断する遺伝、ゲノム情報は、妊娠を希望なさるツガイの意思問わず、しかるべき機関により、改変、改ざん、消去の対象となることを理解すること。


 以上の項目に目を通されたうえでチェックをし、誓約書の署名の欄へご記入を済ましたうえでデータを再送信してください。


 ※もしこの誓約書にご了解いただけない場合は、以後の妊娠活動は全面的に当局に許可されなくなる可能性があるのを了解したうえで、適正なご判断ねがいます。


 遺伝子選別秩序法に伴う、個人情報ならびに個人を管理するための施策に、市民一人ひとりのご協力お願いしています。

      エポガイア市 遺伝子保全課


『はあ、なっ何だよコレ?麻里香さんは本当にこの指示通りにするつもりで、ボクを待ってたの?』

『ねえ三島くん教えて、私はその通りにしたらいいのかな?』


 どこまでも恐ろしくシステマティックな世界で、それでも順応の意思を示そうとする麻里香。

まるで彼女自身がシステムに支配されたがっているようにも思える・・・・。


 ただ彼女の感情自体は現世にいた時よりも感情的で、ひとつのパーツとしては矛盾しているようにも思える。


『私はこの世界で何が出来るの?何をしたらいいの?まだ何も私に役割の指示もこないの。このままじゃ私はいずれ・・・・』


 麻里香はまだ迷っている。

元は感情の表現に長けていた彼女だから、システムに支配されて生きることの戸惑いと矛盾を感じているに違いない。

彼女を救わなければと、三島は思った。

この冷淡なシステムに、支配されている世界へ、彼女が順応しきってしまう前に。


『ねえ私を助けると思って、遺伝子を結合させてくれない?このままじゃ私なんの役割も果たせない不要な存在として、この世界から消えてしまうわ!』


 現生で生きる辛さから人を心中未遂に引き込んでおきながら、こんなシステムに支配された異常で虚しい世界に迷い込むと、とたんに役割を果たして人間らしく振舞おうだなんて、

まるで自分を見失った迷い猫のようで、哀れであった。


 ただそんな身勝手な彼女に、捨てきれない慕情を抱いている。

彼女をこのまま置いてはおけない。

三島は戸惑いと迷いの中、ここから抜け出す術を探ろうとスマートフォンを取り出す。


 途方もない長いトンネルを彷徨っているような状況に、せめて視界を照らすライトはないかと考え、わずかな希望を込めて捨てたはずの存在、瑠璃へとメッセージを送る。


 半ば遺書のつもりでもありSOSとも取れる、両方の意思を込めた文面を送る。


『瑠璃、僕はずっと君のことを愛している。今でもずっとだ。それを伝えられずに僕は、すべてを捨ててしまったことを後悔している。ただ一言伝えたい、

僕は生きている。

叶うことならもう一度君に会って、想いを伝えたかった。全身全霊を捧げて君を愛している。どうか幸せになってくれ瑠璃』




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