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小説家人形  作者: 五島タケル
二章
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自由の名のもとに

 虚しい任務をこなす日々の中、やはり事件は起こってしまう。

あの日もちょうど、安西さんと昼の休憩後に雑談している時だった。


「だから私は言ったんすよ五島さん。違うってそこはミウのおっぱいじゃないって」

「アハハハッなんだよその猫。いったいどこを咥えようとしてるんだってハハハ」

「・・・・ん?ちょっと待って五島さん、アレなんすか?様子がおかしいような」


≪おらぁお前ら隊員とか言ってるけどやっぱり異常者の集まりなんだろう?ははんどうだ、お前も元収容者なんじゃないか?あ~その仕事も異常者用か?ハハハ≫


「えっ、またかよ。いつもの罵声なんじゃ・・・・・?」

 口汚く人を罵る声が聞こえてきていたが、

またいつものように開発業者により雇われた圧力集団から、罵声が浴びせられているのだろうと思っていた。


「いや、やっぱおかしいっすよ。アレ?相手してるの五島さんの班の人じゃ?」

「えっ・・・・・!?」

『んだとコラァ!ちっくそっ、もう~オレは我慢ならねえぞ。誰が精神異常者だって!?もういっぺん言ってみろやあ!』


 安西さんの指摘どおり確かに様子がおかしく、見るとそこでは二人の男性が口論をしていて、今にも殴り合わんばかりの勢いであった。


 そして最もヒートアップしているのは、我が班の隊員のようであった。

さかんに周りが鎮めようと諭してはいるが、顔を真っ赤にしてつばを口から吐き散らし怒鳴っている。


『おー怖っ!ほらお前なんかそうだ。精神に異常がある顔してるなあ。お前もここに入った方が良いんじゃないか、おっとここはダメだった、移転するからな!別のとこ紹介してやるよ永久に入れるところをな。アハハハ』

『てめえこのぉ~、くそぉオレはなぁ・・・・・!!』


 近付いていくと、言い争いをしているのはどうやら我が班の重村さんであり、収まらない怒りをむき出しにしているのが分かった。


『あっ、お前もしかして精神異常者の家系か?その怒りよう、だいぶおかしい感じするもんなあ。収容してもらった方がいいんじゃないか?どうせお前の父親も母親も精神異常者なんだろう?ハハハ。そんな隊員活動とか生産性のないことするの好きだよなお前らは、異常者だからか?ははっバカが・・・・!』


 その瞬間、重村さんが腰に手を当てていることに気付き、私はとっさに駆け寄ろうとした。

「しげむらさっ・・・・!」

「くそぉぉぉあぁぁぁ!!」


 彼を抑え込もうと手を伸ばしたがもう間に合わず、目の前でレーザー銃の閃光が走り、私は目を逸らした。


 目を開いて状況を確認した時には、重村さんを罵っていたスーツ姿の男性がうつぶせで倒れていて、白目をむき痙攣していた。

側頭部が焦げていたので、おそらく重村さんはその男の頭部を狙って撃ったのだろう。レーザーガンとはいえ殺意は否定できない。


「重村さん・・・・・、なんで?」

「ちがうっ、俺はちがうっ異常者なんかじゃない。こいつは俺の母ちゃんのことを病気だって・・・・違うんだよぉ」

歯から血が出るほど食いしばり、両手足はわなわなと震え、魂が抜けださんばかりの動揺だった。

重村さんは、うわごとのような言い訳をうなり続けていた。


 よくよく聞いてみると、スーツ姿の男性が重村さんの母親のことを精神障害者だと言ったことが、彼の理性を崩壊させるきっかけになってしまったようだ。


「ううっ、俺っ俺の母ちゃんはちっちゃい頃から精神的に不安定で、病院に入ってたんだ。悔しいけどアイツの言った通りだ。だけど、ちゃんと優しい時もあったし、俺をこうして大人になるまで面倒見てくれた。でももうずっと母ちゃんは病院にいるんだ、もうずっとだよ。たまにオレが会いに行くと、喜んでくれるんだ。ううっ・・・・」


「そうですか。よく頑張りましたよ重村さんは、誇りに思います。たぶんあの状況なら僕も同じことしました」


「ウソ言うな、お前はしない。無理なことはしないだろお前みたいなヤツは。

ううっ俺はしょせんアイツらの言う通り、異常者の家系、血筋を引いてるから抑えが効かなくなって、やっちまうんだ」


 その後、彼の身柄はいったんC3部隊の上層部へと引き取られ、諮問にかけられた後、殺人罪相当ということで警察へと移行された。

撃たれた男性はなんとか一命は取り留めたが、後遺症として脳機能に障害が残ったらしい。



「あんまりっすよね、五島さん。やっぱこの部隊活動ってなんかおかしいっすよね。あと社会もだけど」

「ああ全くだ、やりきれないよ」


「私たちはこの施設の中でお世話しているおばあちゃんたちにこんなこと言われたんすよ。あんた達シー隊員っての、世間ではなんだか悪い噂ばかり聞いてたけど、こうしてみると普通の立派なお嬢さんじゃないか?私たちと一緒だねって。

私たちも生きてるだけでこうして文句つけられる歳になったけど、アンタたちはその年で頑張ってても文句つけられてるんだから、世も末だね。多分戦争が近いんだろうって」

「・・・・うん、そうかも」


 近頃は誰もが自分の資産や権利へ対する主張が露骨になっていた。


 インフレは加速し、好きなモノも自由には買えない。ますます格差はひどくなっていたし、弱者に対する視線も厳しくなっている。

それでも持てる者が全てを根こそぎ奪おうとする姿勢は、あまりにむごたらしく、傍で聞いていても切なくなった。


 隊員として、何度も目の前で見てきた、胸糞の悪い現場を。

彼女とこうしてその背景を語り合えなければ、すぐにでも任務を投げ出して帰っていたかもしれない。


「五島さん、自由ってなんなんすかね?日本には自由があるとか言ってるけど、本当にこれ自由って言うんすか?もしこれが自由が招いた差別や争いだとしたら、ちゃんとした規律がある社会の方が何倍も良いって気がするんす!」

 彼女の訥々と語る言葉一つ一つに説得力が籠っており、胸にしみた。


「うんそうだ、すごく分かる」

「いくら金持ってようが立派な職に就いてようが、人間誇りを持ってこそ、他者を思いやる姿勢があってこそ初めて人間でいられるんす。最低限のモラルや知識があってこそ人は生きられるって思うんすよ、今の日本や社会にいる人たちにはそれが欠けてるって思うんすよ、私」


「ああ全くだよ。どうしてこうもおかしな社会と人間ばかりになったのか」


「私もおばあちゃんや施設にいる人たちに、文句言われないってどころか、お礼までされて・・・・・、久しぶりに生きてるって気がしたんっす。

なのに外の人たちはあんな感じで、ここの人たちを追い出そうとしてるんすよ。ただ生きているだけじゃダメだなんて、どこかおかしいっすよこの社会は」


「・・・・そうかもしれない。けどこんな僕らには結局何もできやしない」

「出来ますよ!あの、五島さんはそういうこと書いてるんですよね・・・・・・、小説で」


「えっ!?小説、ああ書いているけど、それが何か・・・・?」


 何故この場面で唐突に、私が書いている小説のことを、それも内容も含めて

持ち出してくるのかやや不可解に感じたが、彼女の熱い期待やメッセージはなんとなく伝わって来ていたし、励ます意図だろうと思っていた。


「そういう社会のおかしさとか、規律正しい生き方を求めるべきだってことを、小説に乗せて、物語として書いてほしいっすよ、きっと五島さんなら、いや絶対出来るはずなんすよ!」

「・・・・・ああ、その通りだ」


 目の前の、たった一人でも私のことを無条件で応援してくれる人のため、彼女の望む通りの小説を書いて成功したいという気持ちが、次第に胸の内で沸き上がる様になっていた。




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