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小説家人形  作者: 五島タケル
二章
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迫害

『君たちは我々に課せられた役割というものをはき違えているらしい。もう一度言う、君たちはただ立っているフリだけでいいんだ、ははっ。

誰もそれ以上君らに期待していない。ただいるだけでアピールになるという意識を持て、君らの役割をはよ理解せよ、あはっ』


 先日の不祥事の件で呼び出された私率いるヌーB班のメンバーは、半笑いの部隊長から叱責を受け、それ以降は大勢の市民がいる街中の警備からは外されることになった。

地道な作業的な仕事に戻れるかな~とみんな口々に言い合って、少しホッとした様子だった。


 だがその後すぐ、私たちのB班はまたも警備任務にあたらされることになる。

街から遠く離れた山間にある、老人養護施設、並びに精神障碍者の入居施設の警護任務だった。


「今度こそただ施設の周りをうろつきながら立ってるだけでいい、分かるな?アピールだからだ。今度はリベラル層に対するアピールだ。昨今そんな層がいるのかもう分からんが、とにかくフラットな考えを持っている人たちに対するアピールになるよう、弱者や多様性を護っている姿勢を見せるだけいいんだ」

 リベラル向けのアピール?

明らかに警備任務に自信を失っていた同じ班の隊員たちは、部隊長からの説明をイマイチ何を言ってるのか分からないような顔で、ただボーっと聞いていた。


「これらの施設に対しては、近隣の住民や雇われ者などによる、立ち退き等の抗議活動が到来するものと予想される。あくまで毅然とした対応を取る様に!なお君らにそれらを制圧することは許されてはいない。

相手も一般市民だからなー分かったか―、いいかフリじゃないぞー!腹が立っても絶対銃は撃つなよー!」


「ハイッ分かりましたっ!謹んで任務に鋭意邁進させていただきます!」


 みんなは声を揃えて分かったフリをしていたが、私は少しイヤな予感がしていた。

フリじゃない、やるなと言われたら、私たちみたいなおかしな人間はフリだと思ってやってしまうんだ。だから社会性に欠けると言われてきたんだ。

真面目で堅物な人間はそこが分かっていない。


 結果としてその予感は当たり、その施設警護任務が私が班長を務めるヌーB班としては最後の任務となった。


 

 山間の広大な敷地に、世間から隔絶されるように古びて大きな建物が二つ並んで建っている。

そこは身寄りのないお年寄りや、精神障碍者たちのために、終の棲家として利用されている建物だった。

一見するとひっそりとしていてトラブルなんかとはかけ離れてるように思える。

だがそこには、近年開発をめぐる住民トラブルが持ち上がり軋轢が生じているとのことで、私たちは施設住民保護の名目の元、任務を受けることになったわけだ。


『おいっ君たちここがどういう場所が分かってる?んっ?ここに住んでる人たちは何も生み出さず、この土地の評価を汚染している人たちなの』

 毎日のようにスーツ姿の割とキッチリとした身なりの人たちが、説明、抗議活動のため姿を見せる。


『出ていけー!出ていけー!ここは私たちが大金を出して買った土地だー!』

その後ろではのぼりを掲げた近隣の住民と思しき数人が、施設の建物へ向けて罵声を浴びせかけている。


 話を聞いていると、どうやらこの辺りは近年、セレブ向けの新興住宅地として開発されている場所のようだった。

強欲な自由主義のデベロッパーの目に留まり、宅地開発計画が持ち上がると、とたんに何の意識もなく住んでいた先住民たちは、宅地の価値を下げる厄介者扱いされだしたわけだ。


 昨今の緊迫した地域情勢や合理主義的な考え方の影響か、人々は弱者に対してより先鋭化した発想をするようになっていた。


『いい?彼らに見合った土地へ行かせようと私たちが努力してあげてるんだよ。それをここの住人たちは考える能力に欠けているのか、理解できないのよ。

ええっ何とか言ってあげてくれない君たち。同じ税金で生きてる人間でしょ?それをお互い護りあってどうするのよ。なに邪魔する気なの?怒るよ、んっ』


 そして資料やチラシを見せながら、私たちにむかってこの施設やそこにいるという住人たちが徘徊しているだの近隣住宅に不法侵入したなど、いかに不法行為を働いてるのかと聞いてもいないのに、文句を事細かに告げてくる状況を、我々もただ黙って聞いているしかなかった。


 目の前で特定の人たちを蔑むセリフをただ聞いているのは、仕事としては無性に虚しく、精神的につらいものがあり、皆ボーっと遠くの方を見て警戒しているフリだけしていた。

 非常に心折れる仕事であった。



「どうもっすー五島さん。どうすか調子は?外の方はどんな感じっすかねー?」

 そんな虚しい任務のなか、疲弊していく精神状況で、時折顔を見せてくれる安西さんの存在はせめてもの救い、心の安らぎとなっていた。


 安西さんが所属する班は、またも私たちと同じ場所での任務にあたっており、彼女たち女性隊員は施設内での看護ケア業務にあたっていた。


 安西さんたち女子が、休憩のたびに外へ顔を出して励ましてくれることがあって、なんとか私は任務に踏み留まることが出来ていたと言ってもいい。


「なんか最近治安も悪いし、人もギスギスして気持ち悪いっすよねー。この中の人たちはそうでもないんですけど、外はやっぱ荒れてますよね~」

「ああそうだね、おぞましいよ。・・・・・何をやっているんだろうって思うよ」


「私たちは中でお年寄りたちのお世話とかしながら、おばあちゃんたちと一緒に運動とか見守りとかやってるんす。まあ文句言われないし、お礼までいわれるし、中の仕事はぜんぜん楽なんっすよ、なんかすいません」

「いや、いいんだよそんなこと謝らなくて。僕らの任務もためになってると思うと少しはやりがい出るし」


 彼女に任務のおかしさや不満を吐き出すことで、自分たちの状況を客観視することができ、なんとか日々をやり過ごすことができていた。



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